インターバル
一日目。AM11:00
『……ぴんぽんぱんぽーん!
生徒会より皆様にお報せします。
現時点十一時において、本日のオーバーフロー現象は無事、終了いたしました。
これ以上、市街中心部からモンスターが出現することはありません。
残存しているモンスターを速やかに処理したら、各自明日以降に備えてください。
当生徒会は発足してからまだきっかり一時間。
ぶっちゃけ、現状確認いうか必要な情報もろくに入手出来ていない状況です。
プレイヤー各員の情報提供を切に求めております。
有用な情報に対してはCPが支払われますので、積極的に生徒会まで送付ください。
みんなで必要な情報を共有して、生き残りましょう』
脳内に、そんなインフォメーションが流れて来て、恭介と遥は顔を見合わせる。
「今の、聞こえた?」
「聞こえた。
ってえか、頭の中に響いてきた」
「生徒会って、元の学校の、ではないよね?」
「発足してから一時間とかいってたし、違うだろう」
詳細な事情はわからないが、この状況に対してどうにか収拾をつけようとしている組織があるのは、正直ありがたかった。
何人の生徒たちがこの異世界転移とやらに巻き込まれているのか、この時点で恭介は把握出来てはいないのだが、助かる生徒が多いのに越したことはない。
「これから、どうする?」
「そうだな」
恭介は、周囲をざっと見渡す。
「この近くにモンスターは残っていないようだから、とりあえず町の中心部に出てみるか」
先ほどまでのグレネードランチャーの乱発で、例の超大型モンスター以外のモンスターも一層されていた。
それに、ここからその中心部まで、二百メートルほど。
マップによるとそこそこの面積があるようだから、休憩するにしてもそこまで出てからの方が落ち着ける気がする。
二人して歩き出すと、いくらもしないうちに、四つの人影が前方に落ちてくる。
制服の上に揃いのマント様の衣服を身につけた、女子生徒たちだった。
「へえ、空を飛べるのか」
「なんか、スキルツリーにそういう魔法が出て来たんで、全員で取ったよー!」
気さくな調子で答えたのは、確か、赤瀬とかいう名の女子だった。
「ししょー、さっきぶりー!」
「師匠なんて呼ばれる筋合いはないよ」
恭介は、首を傾げる。
「おれ、彼方からの伝えられた方法をそのまま渡しただけだし」
「そういう関係か」
その横で、遥は一人頷いていた。
「なんとなく、理解は出来た」
「おれが面識あるのは、このうちの三人だけなんだけどね」
「ああ、千尋ちゃんは、宙野彼方って子から杖の作り方とか教えられたって」
「どうも」
仙崎千尋が前に出て、軽く頭をさげた。
「あの彼方くんって子、ひょっとして宙野先輩の弟さんですか?
珍しい名字だったから、もしかしたらとは思っていたんですが」
三年生の遥はすでに引退済みだが、陸上部の前部長だった。
その関係で、顔と名前を知っている生徒もそれなりに居る。
「うん。
あれ、うちの愚弟」
遥は、頷く。
それから自分の足元を見て、
「しかしまあ、これ、どうしようかね」
と呟いた。
そこには、かなり深い大穴が広がっていた。
例の超大型モンスター対策に、彼方が開けた穴だ。
「はいはーい」
その彼方が、すぐそこの建物の中から出て姿を現した。
「それ、今すぐ片付けますから」
そういって彼方は短い杖を掲げる。
すると、地響きに似た音を発しながら、すぐに大穴が平坦な道に戻った。
石畳で舗装されていた元の状態そのままに復旧したというわけではないのだが、少なくとも道の上を歩くのには支障尾がない。
「とりあえず、町の中心部にある広場まで出て休憩しようか、っていっていたところなんだけど」
「それがいいね。
休憩もしたいし、今後の方針も決めたいし」
「あの、わたしたちもご一緒していいですか?」
「ん?
別に構わないと思うけど」
「そちらのパーティとはですね。
今後も友好的な関係を築いておきたいと思いまして」
「そこまでかたくるしく考えなくても」
「基本、ぼくたちは、自分たちに不利にならない範囲内で、他のプレイヤーも助けていこうって方針ですから」
これまで打ち合わせをする余裕などなかったはずだが、恭介は姉弟の言葉を黙って聞いている。
特に異論はないようだ。
「まあ、まずはしっかり休憩取ろうよ」
町の中央広場は、円形で、埃っぽく、お世辞にも清潔とはいいがたい状況であったが、少なくとも二つのパーティが休憩できそうな空間はあった。
到着すると、遥は鼻歌交じりに丸テーブルを二つと椅子を人数分購入し、並べはじめる。
「え?」
彼方も、同じように躊躇うことなくカセットコンロ二台を購入して、丸テーブルの上に置き、ついで水、二リットル入りのペットボトルとケトル二つを購入、ケトルの中に水を入れてカセットコンロの上に置き、着火した。
「ええ?」
「あとは、紙コップと、コーヒーと紅茶。
あ、女子だから、ココアもあった方がいいかな?」
「おう、買っちゃえ買っちゃえ」
「ちょっと待ってください!」
マイペースで着々と休憩の準備を続ける宙野姉弟に、仙崎が声をかける。
「自分たちの分は自分たちで購入しますから!」
トライデントと魔法少女隊。
どちらのパーティも、先ほどまでの活躍でポイントを稼いでいる。
奢って貰う筋合いはないし、それ以上に、打ち合わせもなしに一連の行動をするこの姉弟のマイペースぶりが異常に思えた。
「暖かいものを腹に入れると、落ち着くから」
椅子に座りながら、それまで黙って成り行きを見守っていた恭介がいった。
「こんな異常事態だし、一段落したところでしっかり落ち着かないと、冷静な判断が出来なくなる」
「そうかも知れません、けど」
この三人、結構ズレたところがあるんじゃないか。
はじめて、仙崎はそう思った。
「お茶うけはなにがいいかな?
それとも、少し早いけどお昼いっちゃう?」
「ええと、自分たちで用意しますから、お構いなく」
遥と赤瀬が、そんな会話をしている。
「まだちょっと、騒がしいかな」
ティーパックを放り込んだ紙コップにお湯を注ぎながら、彼方がいった。
「ついさっきまでモンスターが闊歩していたんだ。
すぐに切り替えも難しいんだろう」
「かもねー」
「即応出来た師匠たちの方が、どちらかといえば異常」
彼方と恭介の会話に、緑川が淡々とした口調で突っ込みを入れる。
「おそらく、大半の生徒たちはなす術もなくとこかに隠れていた、と、思われる」
この緑川は、魔法少女隊の中でも一番冷静な性格だった。
「その通り!」
いつの間にか、背の低い女子生徒が、テーブルのすぐそばに立っていた。
「あの一時間、半数以上の生徒たちはなにもせず、状況を見守っていた。
なんらかの行動を起こした生徒たちも、ろくに成果を出せなかった者が大半。
しこたま稼いで優雅にお茶する余裕がある生徒は、ほんの一握りよ!」
その女子生徒のうしろには、端正な顔だちをした、やけに背の高い男子生徒が控えている。
「ええと、どちら様?」
「あ、ひょっとして?」
遥と彼方が、ほぼ同時にそう声をかけた。
「小名木川宵子!」
背の低い女子生徒は、強い口調で名乗った。
「ユニークジョブ、生徒会長の!」
「やっぱり」
彼方はそういって、いれたばかりのティーバッグのお茶を小名木川の前に置く。
「とりあえず、お茶どうぞ。
お連れの方もこちらに」
彼方は落ち着きはらってさらに椅子を二脚購入、生徒会二人の分の席を作った。
「そちらとはいずれ面談する機会があるとは思っていましたが、こんなに早くなるとは」
「オーバーフローが終わって、さてこれから事後策を練ろうかってときに、ね」
小名木川は紙コップを手に取ってから、まくしたてた。
「すぐそこの、窓の下でポイント獲得ワンツーフィニッシュの二パーティがのんびりピクニックをはじめようとしたら、そら様子見に来るでしょう!」
「つまりは、生徒会の人たちはこの近くに……」
「そこ!」
小名木川は自分の背後を指さす。
「上の方の窓を、蹴破った建物があるでしょ!」
「本当に、目の前だった」
「とにかく!
さっきもいったけど、あんたたち異常だからね!
特にトライデントの方!」
小名木川はさらに続ける
「この異常事態への順応性が半端ないっていうか!
でもね!
今のわたしたちには、そんな異常なあなたたちの助言がどうしても必要なの!
他に指針になりそうなものもないし!」
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