合流

 一日目、AM10:56。


 強いていえば、トカゲに似ていた。

 ただ、普通のトカゲは全高四メートル以上もないし、分厚い甲羅も被っていない。

 全長は、正面から見るだけでは見当もつかない。

 五メートルか、十メートルか。

 トカゲに似た頭部だけでも、かなり巨大だ。

 大きな目玉がこちらを、真っ正面に見据えている。

 明らかに、こちらを敵視しているな。

 と、恭介は確信する。

 この巨体と比較すれば、先ほど口内に与えた一撃などよほど軽傷であろうが、痛みはあるのだろう。

 そんなことをつらつら考えつつ、恭介は機械的な動作で排莢し、次弾をチャンバーに装填し、アンチマテリアルライフルを構える。

 一発。

 左目の下に着弾。

 しかし、火花が散っただけで、ダメージを与えられた様子はない。

 皮膚が、硬いのか。

 そう思いつつ、次弾を発射。

 今度は、鼻先に命中した。

 超大型が、不機嫌そうに大きく首を振る。

 先ほど、口内に一発食らったことで懲りたのか、大口を開けて火炎のブレスを吐き出そうとする様子はない。

 ただ、遅滞ない動作で、着実にこちらに近づいて来る。

 距離、三十メートルってところか。

 至近距離に来たら、そもそも勝負にならない。

 体重差でいえば、百倍以上あるのではないか。

 だから、ぼちぼち逃げどきかな。

 そう考えていると。

「おねーちゃんが、来ったよー!」

 唐突に、背後から抱きしめられた。

「今、どういう状況?」

「あのデカいの、面の皮が厚すぎて、銃弾が通らない」

 恭介は遥に、簡潔に説明した。

「もう逃げるかな、って思っていたところ」

「まあ、いざとなったらいっしょに死んであげるよ!」

「死にたくはないから、いっしょに逃げよう!」

「んー、もうちょっと待ってもいいかな。

 今頃うちの愚弟が……ほら!」

 轟音を立てて、超大型が地面の下に潜り込んだ。

「来たか」

 恭介が、小さく呟く。

 ジョブ罠師の彼方、だった。

 お得意の、落とし穴だ。

『ちょっと遅刻したかな?』

「いいや、ジャストだ」

 いいつつ、恭介はマーケット画面を操作。

 新しい銃弾を購入して取り出す。

「それは?」

「HEAT弾っていってね。

 さっきのよりも強力な弾丸」

 恭介は手短に説明する。

「さっきのは、硬い装甲をぶち抜くことに特化した弾丸で、これは、着弾した途端に炸薬がはじけて、着弾点に穴を空けて内部に灼熱をぶち込む」

「つまりは、ちょー強い弾丸?」

「そう。

 ちょーつよい弾丸」

 そんなやり取りをしながら、恭介は手早くHEAT弾をアンチマテリアルライフルに装填する。

「あのトカゲ野郎が穴から這い出てきたところに、一発ぶちかます」

 体表は分厚いし、背中には甲羅まで装備しているあの大型も、腹側や顎の下まで均一に分厚いとは思えなかった。

「キョウちゃん。

 ひょっとして、肩痛めてない?」

「慣れない鉄砲とか扱ってるからね。

 さっき反動で、多分打撲かなんか」

「スキルで回復しとくね。

 ポーションとかもたくさんあるから、どんどん使ってね」

「遠慮はしないよ」

 恭介はそういって、アンチマテリアルライフルを構える。

 遥は、背後から恭介の体を抱きしめて支えた。

「これ、銃身が長すぎて、狙いが安定しないんだよなあ」

「銃身の、そこのところに、なんか脚みたいなのついてない?」

「脚?

 ああ、これか」

 恭介は一度構えを解いて、銃身の中程にある脚を伸ばす。

 そうすると、逆V字型になって、銃身を地面の上に安置できるようになった。

「そうか。

 これは、立って使うものではなかったのか」

 こんな単純なことに気づかないなんて。

 恭介は、自分の迂闊さを乗ろう。

 おれ、やっぱり素人だなあ。

「この格好だと……これは、寝そべって狙いをつけるのか」

 恭介は腹ばいになって、肩にストックを密着させる。

 さっきまでより、ずっと安定していた。

「この格好、映画かなんかで見たような気がする」

 遥はそういって、寝そべった恭介の上に覆い被さった。

「おねーさん、なんでおれの上に乗るんです?」

「別にいーじゃない。

 あ、あれ、出て来たよ」

「よし。

 じゃあ、撃ちます」

 恭介は引き金を引く。

 穴の中から這いあがろうとして地面の上に突き出された、顎の部分に着弾。

 今度は弾かれることもなく、着弾部分に穴をあけ、そこから鮮血が吹き出す。

 金属的な声が、響いた。

 どうやらこれが、あの超大型の鳴き声であるらしい。

 超大型はめげることなく、そのまま頭部を地面の上にのせる。

 平たい鼻面、その上部に穴があき、そこから煙がたなびいていた。

 どうやらHEAT弾の熱風は顎から顔の上部まで、途中の部分を破壊しながら貫通した、ようだ。

 この弾丸なら、通用するのか。

 思いつつ、恭介は次の弾丸を送り込む。

 超大型の、肩の部分に命中。

 今度は、命中した部分を大きくえぐる。

 排莢し、次弾を射つ。

 右目に、当たった。

 HEAT弾の熱風はそこから頭蓋の内部を蹂躙した、らしい。

 超大型は右目から煙を吐きながら、再びその底に落ちていく。

 多分、脳みそを焼かれたんだろうな。

 と、恭介は想像する。

「落下音も聞こえない」

 数秒待ってから、恭介はいった。

「多分、終わりだ。

 死んだから、死体が地面に着く前に、消えた」

「キョウちゃん、あれ!」

 遥が、超大型が消えた大穴、その向こう側を指さす。

「おい、マジかよ」

 土埃の越しに、倒した超大型と同じ種類のモンスターが、続々とこちらに向かって来るのが見えた。


「スパーク!」

「フローズンミスト!」

「インフェルノフレイム!」

「ハリケーンカッター!」

 どこか遠くから、前後してそんな叫び声が聞こえた。

 ほぼ同時に、迫り来る超大型モンスター群を、紫電、濃霧、業火、旋風が襲う。

 あっけなく、超大型モンスター群が、消失した。

 恭介と遥は立ちあがり、衣服についた埃を叩いて落としてから、どちらからともなく顔を見合わせ、

「魔法強ぇー!」

 と呟く。


「ししょー!」

 少し離れた背の高い建物の屋上から、そう声をかけられる。

「大丈夫ですかあ!」

「あれ、魔法少女隊ってパーティ」

 恭介は、遥に説明する。

「あとでちゃんと紹介するよ」

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