接触、生徒会

 一日目、AM10:42


「穴を開けて、底に棘を生やして、棘を硬化して」

 雷魔法を習得した仙崎千尋と別れたあと、宙野彼方は黙々と落とし穴を作り続ける。

 落とし穴、といっても、現在彼方が作っているのは最深部まで五メートルくらい。

 その底に硬化した棘を無数に作った、かなり殺意の高い代物といえた。

 そして、一度作ってしまえば、かなり長い期間モンスターが落ち続ける。

 つまりは、自動的、継続的にポイントを稼ぎ続ける。

 これだけ深い落とし穴であれば、かなり大型のモンスターであっても問題なく仕留めることが出来たため、極めて効率のいいポイント収集法である、ともいえた。

 実際、移動しては土魔法で落とし穴を作り続ける彼方の中では、一連の作業はもはや意識を集中するまでもなく、片手間の仕事となりつつある。

 仙道千尋に呼び止められて魔法関係のレクチャーを講じたり、同じパーティに設定した馬酔木恭介や姉の遥と細かいやり取りをしたり、といった作業が合間に発生したので、かろうじて退屈しないで済んでいる、という面もあった。


『パーティ名:生徒会より、連絡がありました。

 今すぐ応答しますか?

  YES/NO』


「はいはい、出まーす!」

 だから、そうしたメッセージが表示されたときも、彼方はそう、即答する。

 彼方たちが通っていた高校の生徒会は、ご多分に漏れず存在感がなかった。

 このパーティが文字通り、元の学校の生徒会なのか、それとも勝手にそう名乗っているだけなのか。

 なぜ、このタイミングで彼方に連絡してきたのか。

 疑問は山ほどあったが、確かなことがひとつだけあった。

 この単調な仕事の合間、暇つぶしにはなる。


『そちら、一年B組の宙野彼方、で間違いない?』

「間違いないです」

 彼方は淀みなく答える。

「そちらは、パーティ名生徒会となっていますが、本当に、生徒会なんですか?」

『ええっと』

 連絡をくれた相手は、何故か、少し怯んだようだった。

『正確には、生徒会として設定された、ってこと、なんだと思う。

 元の高校では生徒会に入っていた生徒が、気づくと、何人か集められて、会長とか副会長と書記とか会計とか、もっともらしいユニークジョブを与えられていた、ってわけで』

「……なんですか、そりゃ」

 彼方は、呆れたような声を出した。

「つまりは、システムによってそういう役柄を与えられた人たちが集まったパーティ、ってことですか?」

『与えられた、っていうか、押しつけられた、っていうか。

 とにかくまあ、みんなで戸惑っている間に生徒の情報はかなり詳細に表示されるし。

 いつまでも傍観者でいるわけにもいかないので、その中でかなり目立った動きを見せているあなたに意見を聞きたくて連絡してみた、ってわけ』

「うちは、そんなにユニークですか?」

『ユニークなんてもんじゃない。

 転移したてで、誰も具体的な行動に出なかった中、間髪入れずに動き出したのがあなたともう一人の、ええと、う、うま』

「それ、あせび、と読みます。

 なんか、そういう木があるそうで」

『そう、その、あせび? 恭介とかいう男の子の二人で、そのあとも他の生徒の追随を許さず、二人して着々とポイントを稼ぎ続けているし。

 同じパーティの、三年の宙野遥って子も、すぐそのあとを追いはじめるし』

「それ、うちの姉です」

『珍しい名字だから、親類か血縁関係だとは思っていたけど。

 それに、はじめてパーティを作ったのも、はじめてジョブを変えたのも、全部あんたたち三人のパーティ。

 こちらからデータだけで見ると、宙野彼方、特にあなたが先導役をしているように見えるんだけど、パーティリーダーは例の馬酔木って子になっているし』

「おれは、なんていうか、参謀役ですね」

 彼方は、あっさりとした口調で答えた。

「細かいことを調べたりする役割で。

 パーティ全体の方針ってのは、うちのねーちゃんとか恭介が決めます。

 昔っから、そういうことになっている」

『そうなの?

 まあ、あまり個人的な事情を、ここで聞いても仕方がないんだけれど。

 それと、これはいっていいのかな?

 もうひとつ、気に掛かることがあって……』

「なんですか?

 別に、無理に聞き出そうとも思いませんが」

『ええっと、別に害があること、とも思わないから、思い切っていうけど、馬酔木、って子、珍しく備考欄に情報があって』

「備考欄に情報?

 珍しいって、それ、全部で何名くらいに表示されているんですか?」

『こちらに表示されている情報によると、今、こちらに来ている生徒の総数は百五十名。

 そのうち、備考欄になにかが表示されている生徒は、十名以下ね』

「つまりは、それだけ特殊な存在だ、と?」

『特殊なことは特殊なんだけど、それがわたしたちにとってどういう意味を持つのか、正直こちらではちょっと判断つかない』

「もったいつけないで、そろそろ恭介の備考欄に具体的になんと書かれていたのか、教えて貰えませんか?」

『ま、どういうことなのか、こっちが教えて欲しいくらいだしね。

 馬酔木くんの備考欄には、essential informationとして、survivorって記載されてた。

 これ、どういう意味かわかる?』

「一口に説明するのは難しいですが、確かに、それが恭介の本質かなあ、って納得感ならあります」

 彼方は即答する。

「実際恭介は、確かに生き残ることをまず第一に考えて行動しているし。

 個人情報になるんで詳しい事情を説明する気はありませんが、恭介はそういう人間だと思っておいてください」

 システムの情報、なんでか無駄に正確だなあ。

 彼方は内心で、感心している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る