遥、全力前進

 一日目、AM10:29。


「ああ、もう!

 うざったいなあ!」

 宙野遥は罵声をあげつつ、結界術のバリヤー内部から立て続けに散弾銃の引き金を引く。

「なに!

 モンスター、多過ぎるよ!」

 しかも、そのモンスターのサイズも、徐々に大きくなっているようだった。

 外に出た当初はバリヤーに突撃してそのまま自滅するモンスターが多かったが、今では一度や二度、バリヤーに激突したくらいで消えることはない。

 おかげで、弟と恭介に訊ねた通り、慣れない銃器などぶっ放している有様である。

「この散弾銃で間に合わなくなったら、機関銃に切り替えろっていってたな」

 今の状況だと、ぼちぼち切り替えないと前に進めなくなりそうだ。

「ただなあ」

 遥は思案する。

 機関銃、本体も弾丸も、散弾銃とは比較にならないくらい、ポイントを使うんだよなあ。

 機関銃用の弾丸は基本的にマガジン単位で売買されている。

 一つのマガジンにつき、数十発分の弾丸を内包しているのだが、弟たちによると、ものの数秒で撃ち尽くしてしまうのだという。

 その分、包囲された際、周囲を見境なく攻撃するのには向いているのだが。

「あの二人がほいほい稼いでくれるから、ポイントのことは心配しなくてもいいようなもんだけど」

 なんとなく、遥の性分ではない。

 他になにか、面白そうな武器はないかな、と、遥はろくに狙いも定めず散弾銃を連射しつつ、システムのマーケット画面を表示させて、視線を走らせた。

 遥は、散弾銃の弾丸交換くらい、すでに見ないで出来るようになっていた。

「お、これは!」

 マーケット画面の一点で、遥の視線が止まる。

「あるじゃないか!

 ヘルプちゃん!

 ちょうどいいのが!

 これ、百個くらい買う!」

 百個くらいあれば、恭介と合流するまで保つだろうか?

「マップ表示!

 恭介までの最短ルートを表示して!

 ナビお願い!」

 弟は、別にいい。

 あれはあれで、目端が利くしちゃっかりしたところもあるから、放っておいても一人で勝手にやる。

 しかし恭介は、どこか危なっかしい部分があった。

 あの子、自分の安全をあまり考えない部分があるからなあ。

 いざとなったら、目前のアカの他人を助けるため、自分の身を投げ出しかねない。


「あのー、すいませーん!」

「まず結界術レベル1のスキルを取れや!

 外に出たかったら!」

 頭上から声をかけられ、反射的に荒い声を返している。

 こうして声をかけられたのも一度や二度ではない。

 気が急いているせいもあって、遥の態度も若干乱暴になっていた。

「ヘルプちゃん、移動速度を上げる方法を提案して。

 いや、買い物ではなくて、スキルとかそっち方面で」

 バイクや自転車を進められても、大小のモンスターが道を埋め尽くしている現状では、使いようがない。

「スキルは……使えそうなの、全部取っておくか。

 それと、ジョブチェンジ?

 そういうのもあるの?

 今の段階で就けるジョブは……速度重視でいくと、これ一択か。

 いいや、斥候(スカウト)ってやつになろう。

 すぐに効果が出るわけではなく、ジョブ変してから倒したモンスターの数に応じてパラメータに加算されていく、と」

 現在、遥自身のステータスで変更可能なジョブの中で、唯一、「素早さ補正」が加算されるジョブが、斥候だった。

 遥は自分のジョブを「ノービス」から「斥候」に変更し、次いで、近接戦用の武器を選ぶ。

「片手で扱えて、それなりに頑丈で、扱うのにあまり技術が要らないやつ。

 ナイフ、片手剣。

 なんか、ピンとこないな。

 あ、これ、鉈でいいや」

 刃渡りは三十センチほどだが、ナイフよりも肉厚な分、多少乱暴に扱っても、すぐには壊れないだろう。

 鉈二丁を購入して、倉庫にしまったままにしておく。

 まずは。

「いっくよー」

 遥は叫んで、倉庫から手榴弾を取り出し、安全ピンを抜いて前方に投げる。

「……よし!」

 爆発したのを確認してから、爆心地へと走り出した。

 遥にしてみれば、進行方向に存在するモンスターをあらかた吹き飛ばし、前に進めるようになりさえすればいいのだ。

 乱暴な手段といえたが、遥の目的を考えると、それなりに合理的だった。

「次々!」

 遥は手榴弾で露払いをしつつ、目的地に進み続ける。

 煙や土埃が目に入ってくるので、途中で防塵ゴーグルも購入して着用した。

「おっと、デカいの!」

 ときおり、遥自身よりも大きなモンスターと遭遇するようになっていた。

 今回は、全高が二メートルほどもあるシカ型のモンスターだ。

 体重で比較すると、おそらくは遥自身の数倍。

 当然正面から戦う気はなく、遥は即座に倉庫から散弾銃を出して素早く弾丸を装填、モンスターに向けて連射した。

 命中したかどうかを確認する前に手榴弾を取り出し、安全ピンを抜いて投擲。

 かなり至近距離だったので、両耳をふさいでその場に伏せる。

 顔をあげてもシカ型の気配がなかったので、どこかの段階で無事に倒すことが出来たのだろう。

 立ち上がった遥は耳栓と膝の部分をガードするパット入りのサポーターも購入して、着用。

 マップを確認してから、先を急ぐ。

「あと、一キロちょい!」

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