魔法少女隊

 一日目、AM10:38。


「杖は、三人にいき渡ったかな?」

「渡った」

「はいはーい!」

「ゲットした」

 何人それぞれの返答を確認した恭介は、次の指示を出す。

「じゃあ、順番に魔法、使ってみて」

「一番、赤瀬いっきまーす!」

 真っ先に反応した女子生徒が窓辺まで近づき、自分の杖を突き出し、呪文を詠唱した。

「ファイヤーストーム!」

 窓の外が一面の深紅に染まり、その女子生徒はその場に尻餅をつく。

「あ。

 魔力、全部使い果たしたみたい」

「やっぱ、最初は加減がわかんないみたいだね」

 恭介は頷いて、次の指示を出す。

「速く錬金術使って、手持ちのクズ魔石を杖の魔石に吸収させて」

 直前に、彼方から注意された通りのことが起こったらしい。

「はいはーい!」

 赤瀬は元気に答え、ついで、

「むむ」

 と唸った。

「パーティの倉庫に、意外と素材が貯まっている」

「さっきの魔法で、視界の中のモンスターほぼ全滅させているからね」

 恭介は素っ気なく答えた。

「初っぱなからあんな大技出されたら、こっちの立つ瀬がない」

 出力の加減をしない魔法は、それだけ強力。

 ということらしかった。

「全滅させたわりには、次から次へと新手が来ますね」

 青山という女子生徒が、窓の外を確認しつつ、そんなことをいう。

「どっから湧いて来るんだろうね」

 恭介も、そう応じるしかない。

「ここは稼ぎ時だと思って、遠慮なく試してみて」

 恭介とて、行きがかり上この女子たちに魔法の使い方などレクチャーしているが、現在自分たちが直面している事態について詳しい事情を把握しているわけでもない。

「ええっと。

 ウォーターカッター……で、いいのかな?

 今ひとつ、派手でもなければ威力もないようですが」

「もっと水圧をかけるようなイメージしながら使ってみれば?」

「うーん。

 こう、かな?

 あ、切れた切れた」

 モンスターの体が、である。

 実にあっけなく、水の線が左右に走ってモンスターの体を両断していく。

 両断されたモンスターの体は、例によってそのまま即座に見えなくなった。

「次、わたし」

 今度は緑川という女子生徒が、前に出て杖をかざす。

「えい。

 ツイスターアタック」

 言葉少なにそういうと、ごう、っと音を立てて目の前の通路上で風が巻いた。

 突然発生した竜巻に巻き上げられて、小型モンスターの群れが次々と空高く巻き上げられていく。

「ストップ」

 緑川がそういうと、唐突に竜巻が止み、どどどどど、っと、空から無数の小型モンスターが落下してきて、地面に激突して消失する。

「ん。

 ポイントと素材、増えた。

 モンスターの死体を解体、魔石の回収、杖の魔石に合成」

 最後尾で前の二人のやり方を観察していたおかげか、この緑川が一番要領よく一連の行動を済ませている。

「あとは、ええと、結界術のことは伝えたし、ああそうだ。

 パーティ組んでおいた方が便利かな」

「メリットはぁ?」

 赤瀬が気の抜けた声で質問してくる。

「気心の知れた人たちと相談しながらのが、なにかと心強いでしょ。

 それに、ポイントや獲得した素材を共有するようにも設定可能だから、大きな買い物や新しいアイテム合成するときなんかに、なにかと融通利くし。

 特に魔法使い系は、魔石の消耗が激しいから、共有して融通し合った方がなにかと機転が利くんじゃないかな」

「なるほど」

 ほんの数秒間考えこんでから、青山が恭介に確認してくる。

「お兄さんのパーティに入れてくれることとか、出来ますか?」

「うーん、どうだろう?」

 恭介は首を傾げた。

「まず、他の二人の意向を確認しなけりゃ、だし、今の状況だとその前に少しでもポイント獲得しておいた方がいい気がする。

 あと、うちのパーティは今のところ魔法使い系のスキルを伸ばしている人いないから、これ以上そちらに有用な情報提供出来ない気もするし。

 ぶっちゃけ、こっちのパーティに入っても、あんまりそちらにメリットないと思う」

「連絡先くらいは、交換できます?」

 緑川が、まっすぐ恭介の目を見据えながら訊ねてきた。

「断る理由はないかな」

 恭介は即答する。

「いきなりこんなわけがわからない状況に放り出された者同士、なんかあったら連絡し合いながらやっていきましょう。

 ヘルプさん、連絡先交換とか、そういう機能、ある?」

『存在します』

「わっ!」

「女性の声が!」

「どっから?」

「ステータスとか倉庫とか、あと、ポイント取引とか。

 とにかく、もろもろゲームっぽいものすべてを取り仕切っているシステム、のヘルプらしい。

 同じパーティの彼方ってやつは一覧性が損なわれるし、情報収集の効率が下がるってテキストファイルの状態で確認しているらしいけど、おれの方は他の作業をしながら使うことが多いんで、音声対応に設定して貰った。

 で、個別の人と連絡先を交換する方法だけど」

『赤瀬萌、青山旬、緑川晴。

 以上三名の識別コードを登録しました。

 以後、システム上でコールすることで対話が可能となります』

「だ、そうだ」

「はぇー」

 目を丸くしていた赤瀬が、片手をあげる。

「あ、ちょっと待って、質問。

 ヘルプ、さん?

 ヘルプさんはぁ、AIみたいなものですか?」

『機能的に重なる部分も多いですが、どちらかというと』

 システムのヘルプは、ここで数瞬、返答を遅らせた。

『妖精、に近い存在であるかと。

 皆様が知る概念に、一番近い存在でたとえると』

「少なくとも、機会仕掛けではない、と」

 思案顔の緑川が、そんなことをいい出す。

「ヘルプさんは、わたしたちをこんな場所に放り出した何者かの関係者ですか?」

『関係者というより、そうした行為をした者の下部存在になります。

 ただし、具体的にどんな関係に相当するのかは、秘匿事項につき皆様に開示することは禁じられています』

「ヘルプさんは、システムの一部、わたしたちとシステムとの各種伝達をサポートするためのインターフェース、ってことでいいのかな?」

 今度は、青山が質問した。

『その理解で、よろしいかと』

「その上の方、はともかく、システムさんは、基本的にわたしたちの役に立つためにある、って理解でいいんだよね?」

『その通りです。

 なにかわからないことがあれば、お尋ねください』

「当面の目的は、モンスターを倒してポイントを貯めること、でいいと思うけど。

 長期的な、最終的な目的とか設定されているの?」

『その情報は、秘匿事項につき皆様に開示することは禁じられています』

「駄目かあ」

 青山は顔を天井に向けた。

「必要なポイントがあれば、服、食料、武器、その他、たいていの物は買える。

 だから、モンスターをどんどん倒せ。

 それ以上のことはわからない、と」

「あと、モンスターを倒すことで、ステータスも勝手に向上する。

 ポイントで、スキルを買ったり育てたりも出来る」

 赤瀬がいった。

「そうすると、モンスターを狩る効率も飛躍的によくなる」

「ゲームだね」

 緑川が、ぽつりといった。

「一部の生徒たちは、喜びそうな仕様だけど」

「そういうの好きなやつ、いるよねー」

「こっちは面倒臭い、だけだけど」

「それじゃあ、おれ、もういいっすか?」

 恭介が、三人に確認する。

「おれの方もぼちぼち、自分の分のポイント稼ぎたいんで」

「ああ、ごめんねぇ。

 長く拘束しちゃって」

 三人を代表して、赤瀬が答える。

「これ以上引き留めるのもなんだし、行っちゃって。

 またなにかあったら連絡するから」

「では、お気をつけて」

 恭介はそういって、なにない空間から散弾銃を取り出した。

「モンスター、だんだん大きくなって来ている気がします。

 こちらから攻撃するときは距離を取って、相手の攻撃が届かないところから一方的に攻撃する方が安全なはずです」

「そうだね」

 青山は頷いた。

「安全は、大事だ」

 回復術、というスキルはあるそうだが、だからといって無駄に負傷するような真似を自分からする必要もない。

「では、健闘を祈ります」

 そういい残して、恭介は階下に降りていく。

 いくらもしないうちに、散発的な銃声が響いてきた。

 恭介は結界術でバリヤを張った上で、内側から散弾銃でモンスターを蹴散らしている、らしい。

 魔法系スキルを取っていない恭介としては、そういう戦術になるわけか。

 と、赤瀬は思う。


『馬酔木恭介より連絡がありました。

 今すぐ応答しますか?

  YES/NO』


「わっ」

 突如そんな声が響いて、赤瀬たち三人は同時に驚きの声をあげる。

「さっきいってた連絡、さっそくかあ」

「三人同時に着信した?」

「誰が取る?」

「ほんじゃあ、わたしが。

 ええと、着信、受けます。

 もしもし、馬酔木くんですかぁ?」

『さっきの今ですいません。

 同じパーティの彼方ってのが、おれと同じように女子に魔法の使い方をレクチャーしてまして。

 それで、その人もそちらのパーティに同行させて貰いたいとのことなんですが、どうしましょうか?』

「馬酔木くん的には、どうなの?

 その人、信用できる?」

『彼方が推薦してきたので、人柄的には問題ないかと。

 魔法使い同士で固まっていた方が、スキルや戦い方の情報を共有出来て便利だと思います』

「なるほど」

 赤瀬は頷いて、他の二名の顔を見回す。

「どうする?」

「相談する時間が欲しい」

 緑川が即答した。

「それと、その子の連絡先も、聞いて」

「ああ、そうだね」

 青山も、頷いた。

「あとは、当事者同士で話し合った方がいいか」

「了解。

 ということで、馬酔木くん。

 あとはこっちで話し合うから、その子の連絡先を……」

「その前に、パーティ作っておきますか」

「魔法少女隊」

「はい?」

「パーティ名。

 魔法少女隊」

「いや……そんな、安直な。

 もうちょっと、捻った方がいいかな、なんて」

「って、通話終了、と。

 で、こっちはどうした?」

「パーティ名、緑川がさあ」

「ああ、聞こえてた。

 魔法少女隊、だっけ?

 安直だけど、その分、わかりやすくていいじゃない」

「そ、そうかなあ?」

「こういう名前にしておけば、空気を読まない男子が来ても追い返せるでしょ?」

「……それは、確かに」

「それじゃあ、魔法少女隊って名前でパーティ作っちゃうね。

 妖精さん、よろしく」

『名称:魔法少女隊、というパーティを、新たに結成します。

 よろしいですか?

  YES/No』

「いえーす!」

『パーティを結成するにあたって、リーダーを設定する必要があります。

 リーダー名を登録してださい』

「ええっと……」

 赤瀬が他の二人の様子を確認すると、青山はぶんぶんと首を横に振り、緑川は明後日の方向を向いてこちらを無視していた。

「まあいいか。

 じゃあ、リーダーは、赤瀬萌、と。

 あとの面子は、青山旬、緑川晴」

 次の瞬間、青山と緑川の目前に、

 

『パーティ名:魔法少女隊、のメンバーとして勧誘されています。

 このパーティに入りますか?

  YES/NO』


 という表示が現れる。

「入りまーす」

「YES」

 二人は即答し、パーティ名「魔法少女隊」が正式に組織された。

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