馬酔木恭介

 一日目、PM10:11。


 彼方が網を投げて、身動きの取れなくなったモンスターを恭介が金属バットで片っ端から潰していく。

 倒したモンスターは最初のうち血まみれの死体としてそのまま放置していたのだが、なにより邪魔だったので彼方が設定を弄って「倒したモンスターを収納する」とした。

 するとモンスターたちは倒した先からそのまま姿を消して、パーティ「トライデント」の共有資産として表示されるだけの存在となった。

「ゲームだな」

「ゲームだね」

 目の前に表示された半透明のボードの中で、アイコンと数値として表示されているだけの存在となったモンスターをみて、恭介と彼方は頷き合う。

 結界術は二度ほどかけ直しているので、今この周辺を埋め尽くしている小型モンスターの攻撃を受ける心配もない。

 こちらからなにもしなくても突進して来たモンスターが見えない壁に激突し、自滅している有様だった。

「ポイントも十分に溜まったし、まともな武器も試してみたいんだが」

「好きに試していいよ。

 ぼくも罠師のジョブと土魔法を取って、いろいろ試してみたい」

「そのジョブってのも、よくわからんな」

 恭介は彼方とは違い、RPGゲームやラノベをあまり経験していなかった。

「急いで取る必要もなくない?

 必要と思ったとき、必要なジョブにすれば」

 そんなもんか、と、恭介は思う。

 現状で不足は感じないし、現状のままでもどうやら身体能力はかなり向上しているようなので、しばらくこのままでいってみるか。

 恭介のステータス画面では、ジョブ欄は「ノービス」と表示されている。

 ジョブをなにも選択していない状態だと、こう表示されるらしい。


 別行動、といってもそんなに距離を取るともりはなかった。

 ただ、彼方は土魔法で大規模な落とし穴を作るつもりらしく、あまり近寄っても危ないらしい。

「ぼくは、こっちの方に罠仕掛けてくるから」

「じゃあ、おれはこっちに進む」

 そういって二人は、反対方向に進む。

 つまり、彼方は町の外へ出る方向に、恭介はその逆の、モンスターたちが向かって来る、町の中心方向へと。

「武器は」

 恭介はシステム画面に目線をやる。

「銃器も売っているのか。

 節操がないな」

 経験のない素人が使っても、まともに命中するとも思えないのだが。

「猟銃、散弾銃みたいなのだと、まだましか。

 それと、弾をいくつか、と」

 銃弾は、そんなに多く持っている必要はない。

 なくなったら、その場で購入すればいいだけだ。

 ただ、数発しかない場合、とっさの時、対応に遅れそうな気もする。

「ええっと。

 買ったものも、資材倉庫に保管しておけるんだな」

 恭介は購入したばかりの散弾銃と弾を、パーティ共有の倉庫に放り込む。

 恭介が手にしていた銃と弾丸が、なにもない空中で消えた。

 ように、見えた。

「そっちは非常用ってことで、今すぐ使うのは」

 恭介はさらに吟味する。

 武器らしい武器、刀剣とか買っても、どうせ使いこなせんしなあ。

「お。

 これ、いいな」

 恭介はある農具に目をとめ、即座に購入した。


 恭介は、モンスターを刈りはじめた。

 狩り、の間違いではなく、両手持ち、長柄の大鎌を持ち、弧を描くように地面すれすれの位置に刃を這わせて、多数のモンスターを一気に処理している。

 実際、このタイプの大鎌は、もともとは地に生えた芝などを刈るためのものだそうだ。

 扱いが容易く刃がついている以上、低い位置を移動していくモンスターを一気に「刈る」ためにも使用することは、出来る。

 恭介がその大釜を一振りするだけで、パーティ共有の資材とポイントが、大きく増えた。

「町の中心から町の外へと、移動しているんだよな」

 黙々と手を動かしながら、恭介は呟く。

「町に中心部に、発生源でもあるのか?」

 そこから次々とモンスターが出て来るから、ここに居るモンスターたちも外へ外へと押し出されているのかも、知れない。

「マップ、モンスターの分布状況って、表示出来る?」

 恭介の声に応じて、半透明のマップ上に赤い光点がどっと増えた。

 白い光点が、おそらくは恭介たちと同じ立場の、ここに飛ばされてきた人たちの位置。

 白い光点は、マップ上のあちこちに散らばっている。

 ただ、中心部は、比較的多くの光点が集まってもいるようだ。

 その数十倍はいる、道という道を埋め尽くしている赤い点が、モンスター。

 それで、凄い勢いでこちらに移動中のオレンジ色の光点が、おそらく彼方の姉、遥の現在地、なのだろう。

 まだちょっと距離があったが、この分だと合流するのも時間の問題だった。

「円形の町、なんだな。

 半径は、おおよそ五キロってところかな」

 その円形の外に出ると、赤い光点は表示されなくなる。

 このシステムも、そこまでは把握出来ない、ということだろうか?

 黙々と手を動かしながら、恭介はそんなことを考える。


「ちょいとそこのおにーさん!」

 目前と作業を進めていると、不意に上から声をかけられた。

「それ、どうやっているの?」

「それ?」

 恭介は少し考えて、

「ああ、モンスターがおれに近寄ってないから、か」

 と、すぐに結論する。

「結界術レベル1を取得すると、こういうことも出来るようになる、らしい」

「レベル1っていうと、50ポイントね。

 結構お得だわ」

 近くの建物の階上から声をかけてきた女子生徒は、思案顔になった。

「こっち、女子ばかり何人か固まっているんだけど、外に出るに出られなくなっているんだけど。

 なにかいい、モンスターの倒し方知らない?」

「結界術使ってから下に降りて、なんでもいいからぶん殴ったら?」

「こっち、非力な女子しかいないんだけど」

「ちょっと待ってな。

 相棒に相談してみる」

 恭介は彼方を通信で呼び出した。

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