第5話
冒険者ギルドに戻った俺は、さっそくランクアップ試験に挑戦することに決めた。ヒーラーのユリウスと共に本格的なクエストを受けるなら、ある程度ランクを上げたほうが有利だからだ。
「ランクアップ試験って、模擬戦もあるんだろ? 誰か相手してくれる人がいるのか?」
「もちろんだ。ギルドの高ランク冒険者が試験官を務める」
受付のリュカが事務的に答え、さらに静かに付け加えた。
「今回の模擬戦相手はリーゼ・ラヴェル。女性剣士だが……強いぞ。覚悟しろ」
その名前を聞いて、周囲の冒険者がざわめいた。俺も内心ちょっとテンションが上がる。強い剣士とやり合うなんて、燃えるじゃないか。
「リーゼ・ラヴェル……いいねえ。よし、やるしかねえ!」
「レンさま、無理は禁物ですわよ。相手は高ランク冒険者なんですから……」
「大丈夫大丈夫。ユリウスの回復魔法があれば怖いもんなし……って、あ、試験中は一対一の勝負か。あはは、まあ、やってみるさ」
そして試験当日、ギルドの訓練場に呼び出された。そこには黒髪をポニーテールにまとめたクールな女性が立っている。着ているのはレザーアーマーで、脚には黒ストを身につけ、その腰には装飾の凝った長剣がぶら下がっていた。
キリッとした面差しが凛々しく、ただものじゃない雰囲気をビシバシ感じる。
「あなたが今回の受験者、レン=ルグナーね? 私はリーゼ・ラヴェル。試験官を務めるわ」
「おお、よろしく……って、俺とそんなに身長変わんねえのに、なんか迫力がすげえや」
「ふん……別に。あなたがどんな実力か、確かめさせてもらうだけよ」
クールな口調だけど、その瞳には燃えるような闘志が宿っている。心のどこかで、俺のポジティブなノリを侮っているのかもしれない。
「じゃあいっちょ、やったるぜ!」
合図とともに俺は構えるが、リーゼの動きが早い。相手の剣先が一瞬で俺の目の前に迫り、刃のきらめきが視界を埋める。
「うおっと……危ねえ!」
かろうじて後ろに飛び退き、虚無理論で相手の魔力パターンをスキャンしようと試みる。しかし、彼女の動きは剣術主体で、魔力は最小限しか感じられない。純粋に身体能力と技術で攻めてくるわけだ。
「はっ、なかなかやるじゃない。だけど、その動きは読めるわ」
「くそ、さすが高ランク剣士……!」
数合打ち合ううちに腕が痺れる。リーゼの剣筋は正確かつ素早い。だけど、俺だってこのまま負けるわけにはいかない。
「ユリウス、見ててくれよ。俺、こんなところで負ける気はねえ!」
虚無理論は、敵の魔力だけでなく身体の動きからわずかな隙を探し出すこともできる――そんな仮説を立てて、脳内でイメージを組み立てる。短い時間ではあるが、リーゼの剣のリズムを解析し、対応策を生み出そうとしてみた。
「ほら、どうしたの? 私の剣に追いつけないなら、あんたはここまでよ」
「いや、まだまだ!」
タイミングを見計らってリーゼが踏み込んできた刹那、俺は一瞬だけ彼女の剣を受け流し、強引に間合いに入り込む。目と目が合う距離で、俺は気合いを込めて拳を繰り出した。
「っ……くっ!」
彼女は予想外の近接攻撃に対応が遅れ、剣を振り下ろす寸前で動きが止まった。そこを逃さず、俺は剣の切っ先を押さえ込むように腕を動かし――一気にリーゼを制した。
「はあ、はあ……くぅ~、勝ったっぽい?」
「……悪くないわね。ギリギリとはいえ、私に膝をつかせるなんて」
リーゼは少し呆れたように笑みを浮かべ、「試験は合格よ」と短く言い放った。周囲のギルドメンバーからは歓声と拍手が上がる。
「やったじゃん、レンさま!」
ユリウスが駆け寄ってくれて、回復魔法をかけてくれる。リーゼは「別に」と言いつつも、俺の実力に興味を持った表情を隠せない様子だった。
「……あなた、さっきの戦い方、ただ者じゃないでしょ。剣術は甘いけど、何か変わった能力を使ってるのね」
「まあ、ちょいとな。全部は言えないが、解析系のスキルみたいなもんで」
「フン、そう。覚えとくわ」
剣を収めると、リーゼは軽く髪を揺らしてそっぽを向いた。クールに見えるが、心なしか頬が紅潮している気もする。これが彼女の照れ方か?
「リーゼさん、ありがと。俺もあんたみたいに強くなりたいから、またいつか鍛えてくれ!」
「別に、手伝うだけよ……そうね、機会があればまた相手をしてあげる」
こうして俺はランクアップに成功し、少しずつだがギルド内でも注目を集め始めた。ついでにリーゼの存在が気になったのも事実だ。彼女は孤高の剣士ってイメージが強いけど、なんだかんだで仲間として迎え入れたら心強い気がする。
何より、この世界で生き残るために多くの力が必要だと感じた。破滅フラグはまだまだあちこちに潜んでいる。
「よーし、これからも気合い入れていくぜ。絶対に負けねえ!」
俺はユリウスと顔を見合わせ、大きく頷いた。きっとこれから先、もっと強大な敵が待ち受けているのだろう。でも今なら、何でも乗り越えられる気がする。そんな高揚感を胸に抱きながら、俺は新しい一歩を踏み出すのだった。
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