第2話

 森を抜けると程なくして広めの街道が現れた。見渡す限り畑や小さな集落が点在していて、中世ヨーロッパ風の風景が広がる。俺はそのまま道なりに歩き、石造りの城壁に囲まれた街へと到着。ここが冒険者たちの拠点となる中心都市……だったはずだ。


「うお、ほんとにゲームのまんまだ。つか、商人とか馬車とか、めっちゃリアルじゃん」


 門の近くに控えている兵士に軽く挨拶し、中に入る。大通りの両脇には商店が並び、多くの人々が行き交っていた。異世界感満載のバザール風景に、俺はついキョロキョロしてしまう。


 そんな浮ついた気分でいたところ、大通りの一角から恐ろしい気配が漂ってきた。視線を向けると、銀髪の短髪に切れ長の目をした男が、いかにも高貴な装いのまま周囲を睨みつけている。


「おい、そこの下衆ども。邪魔だ、どけ」


 その男――ベルカ・クロフォードと呼ばれる貴族が、通りかかった冒険者たちを威圧していた。冒険者の方も言い返したい素振りを見せるが、相手が名門貴族らしくて苦々しい顔をしている。


「うわ……こりゃ厄介そうな奴だな」


 ベルカはその貴族的なプライドを誇示するかのように、わざとらしく笑みを浮かべる。周囲の冒険者たちには「俺の足元にも及ばぬ雑魚が」みたいなオーラを放っていた。


「お前ら冒険者風情が、俺の視界に入るな。教養もない下賤の者どもが」


 あまりに見下した態度に、俺もイラッときたが、ここで変に目立つのはリスキーだ。まだ自分の力も未知数だし、回りに情報が筒抜けになるのは避けたい。


 ところが、ベルカは俺の存在に気づくと、不快そうな目を向けてきた。もしかして、俺の背負っている装備や雰囲気が気に障ったのかもしれない。


「おい、そこの小僧。妙な鎧を着ているが、どこから来た?」


 はあ、やっぱ絡まれるのかよ。面倒くせえな……と思いつつ、できるだけ穏便に済まそうとした。


「いや、ただの冒険者志望なんで。ここに来たばっかなんすよ」


「ふん、まったく見かけねえ顔だと思ったら。身の程をわきまえろ。俺の周りをうろつくな」


 予想通りの高圧的な態度だ。俺は適当に「了解っす」と返して立ち去ろうとした。そうしたら、こいつがわざと俺の肩を小突いてくる。


「おっと……あ? 何だよ、その目は」


「いや、別に……」


 ほんとにこっちを見るなり嫌な顔をしている。俺が退こうとする様子が逆に気に食わないらしい。


「俺を敬わないとはいい度胸だな。試しにその実力を見せてみろ」


「悪いけど、ここでムダに派手にやり合うのは避けたいんだわ。まずはギルドで仕事探しもあるし、パスしていいか?」


「何を臆病風に吹かれてるんだ。お前、口だけの大物ぶりか? どれ、俺が一撃でひれ伏させてやろう」


 ベルカの手から妖しい光が放たれた。魔力を溜め、何か攻撃魔法を放つつもりらしい。周囲の冒険者たちが「やばいぞ!」と口々に驚く。


「……ちっ、逃げ場ないか。仕方ねえ」


 ギルドの人々も慌てて止めに入ろうとするが、間に合いそうにない。やむを得ず、俺は虚無理論を起動。ベルカの魔力を感じ取る。すると、凶暴なエネルギーが渦を巻くのが見える。


「何だこれ、ちょっとエグいな……でも、やるしかないっしょ!」


 ベルカが放った魔弾を、俺は即座に虚無理論で解析し、その軌道を切り裂くイメージを組み立てる。実際に手をかざすと、魔弾は空気中で粉々になり、いとも容易く消滅した。


「な、何だと……? 俺の魔力が……」


「悪いけど、こっちも暇じゃないんで失礼するわ」


 俺がそう言った瞬間、ギルドの受付らしき人物が大声を張り上げ、「まあまあ、ここは場所をわきまえて!」と必死に仲裁に入った。ベルカはまだ俺に対して何か言いたそうだったが、一応大人しく引き下がった。


「あの野郎……早くもやっかいな奴を敵に回した予感」


 とにかく今は、街での立ち回りを考える必要がある。破滅フラグを回避するためにも、俺には強力な仲間が必要だ。そう痛感した俺は、真っ先に“味方探し”を優先することにした。

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