破滅フラグ転生の最強解析者~原作知識と“虚無理論”で全てを解き明かす~
昼から山猫
第1話
まぶたを開けた瞬間、俺は何とも言えない違和感を覚えた。
先ほどまで自分の部屋でゲームの画面を眺めていたはずなのに、いま目の前には鬱蒼とした森が広がっている。しかも空気がやけに澄んでいて、まるでファンタジー映画のロケ地みたいだ。
「……ここ、どこだ?」
あまりの現実味のなさに、つい声が漏れた。足元には硬い土の地面と、長い草が茂っている。森を抜ける鳥のさえずりが聞こえるが、どこか俺の知る世界とは違う風景。いや、これはもしかして……。
「うわ、ウソだろ。まさか、あの“死にゲー”の世界じゃねえよな……?」
実は俺、ついさっきまで“破滅フラグ”が山のように存在する超難関ファンタジーRPGをプレイしていた。普通なら心折れるほどの難度だけど、俺はその絶望感を攻略法で逆手に取るのが好きだった。
そのゲームの中には山ほどのイベントやバッドエンドが存在し、いわゆる“死にゲー”として有名だった。俺は日々データを解析し、最適解を模索し続けていた……はずが、知らないうちに寝落ちしていて。そして今、目が覚めたらこの有様だ。
慌てて装備を確かめてみると、黒と紺の軽装鎧を身につけ、インナーには白いシャツ。腰には小型の魔術本が両サイドに差してある。さらに、淡い栗色の短髪が風でなびき、膝丈のブーツを履いている。現世の俺とはまるで違う姿。
「え、なんだよコレ。結構カッコいいじゃん……って、今はそんなこと言ってる場合じゃねえか」
戸惑いつつも焦って落ち込んでいても始まらない。まずは自分のステータスを確認しようと、手元を意識してみる――不思議な感覚が走り、頭の中に文字情報が浮かぶ。まさしくゲームのステータス画面そのもの。
「えーと、名前は……レン=ルグナー? 俺の“現世名”は矢吹レントだから、やっぱり転生先ではそう名乗るわけか。で、ここにあるスキルは……『虚無理論』?」
どうやら“虚無理論”なる固有スキルを持っているらしい。説明文には、魔力を解析し、自在に操作できると書いてあるが……。何それ、チートっぽい。いや、チートそのものだろ。
「これはめちゃくちゃありがたいって! まさに攻略知識が活きるじゃねえか!」
ガッツポーズを取りかけたところで、突然目の前の茂みが揺れた。身構えると、小さな半透明の塊――スライム・オリジンがぴょこぴょこと現れる。
「おお、最序盤の雑魚敵! でもこいつ、魔力を取り込んでくるヤバいやつだよな。とはいえ、ここで試してみる価値がある!」
一歩踏み込んだ瞬間、スライムが不気味に体をくねらせた。まとわりつくように迫ってきたので、咄嗟に虚無理論を起動する。頭の中にスライムの魔力構造が浮かび、どうにかそれを“吸収”するイメージがわいた。
「よっしゃ、いっちょやったるぜ!」
軽く意識を集中してみると、スライムが持つ“魔力吸収”の能力が自分の中に流れ込んでくる感じがする。そして、目の前のスライムはその動きを止め、ぷるん……と不自然に萎んでいった。
「なるほど……今のでコピー完了ってことか。やっぱすげえな、虚無理論!」
あっさりと初陣に勝利。これが噂のチートスキルってやつか。今までゲームで苦労していたイベントも、これさえあれば大抵は切り抜けられそうな予感がする。ただし、俺の経験上、この世界には多数の“破滅フラグ”が用意されているのも事実だ。
「破滅ルートなんて絶対にごめんだぜ。よっしゃ、やるしかねえ!」
こうして俺、レン=ルグナーの異世界生活が唐突に始まった。自分の知っている“死にゲー”の知識を最大限に活かして、破滅を回避しながら、この世界をなんとか生き抜いてみせる。テンション上がってきたぜ!
こうなると、次はまず街を目指すべきだ。物資調達や情報収集、そして俺の力を隠し通すかどうかの判断にも、人の多い場所に行かなきゃ始まらない。
自分の姿をもう一度確認しながら、俺は森を抜ける道を探した。チラリと見上げる空は明るく、太陽の位置からして昼過ぎくらいだろうか。
「よし、先に進むぞ。この森を抜ければ街道があるはずだ」
ゲーム知識で把握している初期の地理を頼りに、俺は軽快に歩き出す。やる気は満ち溢れている。なにせ、全てが新鮮で、しかもワクワクする展開だ。破滅フラグ? 上等じゃねえか。俺がぜんぶへし折ってやるからな!
そして、俺の長い長い冒険の第一歩が、今ここから始まった。
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