淑女とクズ
百
第1話
私は彼らから「麗しき淑女」なんて呼ばれている。
そう、私は美しい人生を生きる人間だ。
彼らは私に微笑みかけ、優しさをもって接する。
愛してくれるのだ。
清楚で上品な振る舞いに、言葉は慎ましく丁寧に、華奢で愛らしい装いに身を包み、高慢な人々の言葉に耳を傾け、いずれ散るだけの脆弱な花々や醜い生き物たちを愛でてきた……
愛でてきたのだ。取るに足らない馬鹿共を。
クソみたいな人生だ!
私が生まれ育った地を知る者はいない。
交わされる言葉は響き渡る騒音に過ぎず、汚れた空気と無秩序が支配する世界。尽きることのない暴力の記憶。優しさなど、愛などなかった。
きっと彼らからすれば私は、理性の欠けたクズ共と何ら変わらぬクズなのだろう。
それでも今は美しい人生を生きて、愛されていた。愛してくれていたのに……
彼らは驚愕し、私の身にまとった全てを信じなくなった。
「麗しき淑女」はただの幻想でしかなかったと気づいた途端、口元に顕わになった軽蔑を隠すことなく見せつけてきた。
はは!馬鹿共め!
どれだけ嘲笑ってやりたい気分だろう。
高慢な奴らのめでたい頭を。
奴らの驚きに満ちた顔を見ると、胸が張り裂けそうな気持ちと同時に、皮肉と憎しみが渦巻く。
笑ってくれ、嘲笑ってくれ、「麗しき淑女」を演じ続けたこのクズを愚かだと、心の底から見下してくれ!
だが、その愚かさこそが私が背負ってきた過去を隠すための唯一の手段だったのだ。
理想像を勝手に重ねたのは、そっちじゃないか。
それでも、ああ、愚かだ。
――彼女――
彼女が生まれた街には規則という言葉すら存在しない。混沌とした空気が漂い、誰もが自分勝手に生き、何が正義で、何が悪かも曖昧だ。喧騒が絶えず、昼も夜も濃厚な闇が広がる。そんな街で育ったという事実は、彼女が成長するにつれ大きな屈辱となり、彼女を苦しめた。あんな奴らと一緒にされたくないという気持ちが、日に日に強くなっていった。
誰にも知られたくない過去を抱えながら、彼女は今日も笑顔を作り、完璧な振る舞いを続ける。それは、過去を隠すための彼女なりの手段だ。「理想の自分」を演じ続ける中、ある日、彼女は言われた。「麗しき淑女」と。
淑女とクズ 百 @omom316
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます