その名はカレン=ヘイロース
温かく、柔らかい光が窓から飛び込んでくる。
ふわふわであまりにも広いベッドであたしは目を覚ました。
映画のセットでしか見た事のない光景が目の前に広がる。
そして、自分自身の変化も。
枕元の置き鏡に写ったのは、金髪碧眼の美少女だった。
うわぁ、あたしめっちゃ可愛いじゃん......。
これでモテない人生とか意味わかんないわ。
別段、ルックスにコンプレックスがあった訳ではなかったが、あまりにも向上した女っぷりに、ため息が出る。
いや、これはヤバイ。
この美貌で戦争が起きてもおかしくないぞ。
寝起きにノーメイクでこのレベル.....。
やめて、あたしのために争わないで!
とか言ったとしてもこの顔なら否定できないな。
「.....カレン様!?」
鏡に見とれていたあたしは、背後から近づいてくる誰かの気配に気づかなかった。
振り向くと、ゴシックなメイド服に身を包む長身の女性が扉の前に立っていた。
カレン様?
あぁ、そうか。この子カレンって言うんだ。
名前を呼ぶやいなや、屋敷内が一気にざわつき、様々な人が部屋に押し寄せてきた。
そこで聞いた話を整理するに、カレン様ことあたしは、1か月前に原因不明の熱病で倒れて、そのまま寝込んでいたらしい。
この世界は中世みたいに見えるし、実際科学的な発展はそこまでしていない。
だけど、その代わりに魔法学が発展している。
そんな魔法学に精通した魔導師だの祈祷師だのが、意識のないあたしを調べあげたけれど、結局原因も分からずに、一月が過ぎた。
このまま最悪のケースもありえるか、と諦めることも視野に入りだした今日この頃、奇跡的に回復した、という状況なのだそうだ。
一体何人いるのか分からないくらいの数のメイドさん及びバトラーさんが入れ代わり立ち代わりに話してくれた。
この子は、色んな人に大切にされていた、いい子だったんだなぁ。
他人事のようにそう感じた。
そうしていると、ひときわ大きな音を立てて女性が部屋に飛び込んできた。
控えめなドレスではあるけれど、隠しきれない気品。
出るところは出て締まるところは締まっている完璧な体型。
金髪碧眼で顔立ちが何となくあたしと似ている。
「カレン!!目が覚めたのね!!
もう、どうなるかと!!母は寿命が縮まる思いでしたよ!!」
強く抱きしめられる。
花畑に包まれるようないい香りがした。
やはり、この子のお母さんだ。
お母さん.....?苦しいです......?
あたしがそう言った瞬間、また空気が変わった。
「カレン、どうしたの?
いつもはお母さんだなんて......。」
指摘されて気がついた。
今のあたしは、あたしの記憶だけ。
「片寄 愛」としての記憶は持っているけれど、カレンの記憶を持っていない。
どう返そうかと思ったとき、断片的に、まるで走馬灯のように、頭の中をカレンの記憶が通り過ぎた。
名前はカレン=オリヴィエ=ヘイロース。
ヘイロース辺境伯家の次女。
両親と共にクランローズ国最西端のヘイロース領で暮らしている。
16歳になったばかり...。
この女性は、リタ=シャーロット=ヘイロース。カレンのお母さんに当たる。
カレンは両親をお父様、お母様って呼んでいた...。
一連の記憶が通り過ぎると、身体が一気に重くなったような感覚になり、脱力してしまった。
「カレン!?ちょっと、大丈夫!?」
はい、お母様。
私、何だか長い夢を見ていたようで、記憶が少し曖昧なんですの。
取り繕うように答える。
「そうね、1ヶ月も病に倒れていたものね。
ごめんなさい、あまりに嬉しくてつい...」
リタは抱きしめていた手を離し、優しくあたしの頭に手を置いた。
「ゆっくり休みなさい。話すことが色々とあるのだけれど、焦ることもないわね。何かあれば、直ぐに伝えなさい。フィオナ、頼んだわよ。」
そう言いながら、リタは部屋を後にする。
最初にあたしをカレン様、と呼んだメイドが承りました、と答えた。
あの人はフィオナさんって言うんだ。
リタの退室を機に、あたしの部屋は一気に落ち着きを取り戻した。
フィオナを残し、他の面々は屋敷内の仕事に戻ったのだろう。
あたしはまたベッドに横になり、考えていた。
無事に異世界転生とやらを果たしたみたい。だけど、これから一体どうすれば良いの?
女神様は婚約破棄がどうとか言っていた気がするけれど、カレンに婚約者がいるのかな。
先月まで15歳だったらしいけど。
よーし、思い切って聞いてみるか。
あの......フィオナ、さん?
恐る恐る声をかけてみる。
振り返ったフィオナは、今にも泣きそうな目をしていた。
「カレン様.....本当にカレン様ですか.....?
フィオナのことを、お忘れになられたのですか?」
その瞬間、先程と同じような走馬灯が流れ込んでくる。
フィオナはカレンの2つ上で、物心つく頃から一緒にいた。
フィオナとカレンは主従であり、姉妹であり、親友のような間柄だった。
っ......、ごめんなさいフィオナ。
忘れてなんかいないわ。だけど、頭に霞がかかったようにぼんやりとしていて......。
またも取り繕うように答える。
フィオナの顔は曇ったままだった。
「やはり、覚えておいでではないのですね。カレン様、いえ、めぐみさま、とお呼びした方がよろしいのでしょうか?」
.....!!
この子、気づいてる。
しかもなんであたしの名前......。
またも、走馬灯が走る。
フィオナも
それは
それで分かったんだ......。
だけど、それがわかったとして、あたしはなんて答えたらいい?
何をどう伝えたらいいの?
狼狽えるあたしに、フィオナが言う。
「カレン様、いえめぐみさま。
全てをお話ください。私も、全てをお話致します。」
どうやら、あたしが転生する前に、フィオナとカレンで話していたことがあるようだった。
あたしは、今の段階でわかること全てを包み隠さずフィオナに話すことにした。
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