初めて

 気付いたときにはアイと一緒にいた。


 同じ顔、同じ体、同じ声の、鏡みたいな生き写し。


 『もう1人いる』って思えて仕方ない。


 だからくっついて離れなかった。



 エイとアイはお人形だった。


 綺麗なおべべを着せられて、明かりに照らされて、色んな人の前で踊らされた。


 それで『ご主人様』が決まったら、エイとアイは引き取られる。


 どこかの部屋に飾られて、遊ばれるの。


 いつものことだった。


 パパとママは知らない、見たことない。



 エイとアイは捨てられた。


 ちょっと遊んだら飽きちゃうんだって。


 また色んな人の前に出て、次の『ご主人様』を探さないと。


 いつものことだった。



 エイとアイはキズモノになった。


 遊ばれるとキズはできちゃうものだから。


 次の『ご主人様』は『もうキズモノだろ』って、もっとひどい遊びをする。


 『ご主人様』が替わるたび、キズがどんどん増える。


 どうしようもなかったね。


 アザが痛くて、血も出てる。


 それで眠れない夜は、エイとアイでくっつくの。


 エイはアイのアザをさすって、アイはエイの血を舐める。


 『次はどこにキズができるかな』って笑いながら。


 いつものこと。



 エイはアイのために、アイはエイのために生きてきた。


 それでよかったし、それしかなかった。


 だからあの日、エイを守る力を神様がくれたんだ。



「ぎぃっ、ぶぇっ……」


 ご主人様、やめて、やめて。アイが死んじゃう。


「がはっ、ぐぇっ……」


 代わりにエイが何でもする、お願い。


 痛っ、痛い。突き飛ばさないで。


 『次はお前だ』って、そんなこと言わないで。


 「ぐぅっ……」


 アイ、アイ、苦しそう。


 ダメ、ダメ、行かないで。


 ひとりぼっち、イヤだよ。


 お願い、お願い……


 うっ、うぇっ……? げっ、うげぇぇぇ……


 え? 何、コレ?


 黒い、硬い、重い。


 ピストル? 何で口から……


「うっ……」


 あ、いいや、何でも。


 これならいける、きっとそう。


 アイを守れるなら、1人にしないでくれるなら、エイは何だってできる。


 銃だって吐けるから。



 はぁ、ふぅ、はぁ、ふぅ……


「げほっ、ごほっ、エ、エイ……?」


 これ、銃。やっぱり、銃。


 ご主人様、パタンと倒れて動かない。


 ドクドクドクドク、シーツが真っ赤。


 アハッ、やった、やっちゃったぁ。


「エイがやったの? その銃、どこから……?」



 アイに話した。


 口から銃を吐いたこと、引き金を引いたこと。


 こんな話信じてもらえるワケない。


 それでも全部話した。




「エイが、銃を、吐いて、撃った……」


 アイ、どんな顔をしてるの? 


 見れないよ、怖いよ。


 エイはアイじゃなくなった?


 もう一緒にいられない?



「エイ、さぁ……」


 ア……


「すっごいかっこいいじゃん!」


 イ、あ、え?


「かっこいいかっこいい! ね、もっかい吐いてよ!」


 い、いいよ…… うごぇぇぇ……


「キャ〜! ホントだ、ピストルだ! おもしろ〜い! まだ吐けるの? 何でも吐けるの? ねぇねぇ!」


 ど、どうだろ。


「手、突っ込んであげる! ほらほら!」


 あ、そんな、指、全部…… あぅっ、ぐっ、げごぉぉぉ……


「キャハハハ!」



 よかったぁ。


 アイもついてきてくれた。


 新しいエイとアイの形。


 何だってなれるんだね。

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