第1話

「ん……」


 目を覚ますと、目の前には見慣れない広大な草原が広がっていた。

 青空に浮かぶ白い雲、風に揺れる草花、そして遠くには小さな村らしき建物が見える。


「ここは……?」


 俺は身体を起こし、全身を確認した。

 両腕も両脚も無事だ。

 魔王ベルゼガルガとの決戦の最中、両腕両足を失い倒れ込んだはずなのに……。


「魔王の呪い……!!」


 記憶が蘇る。

 紫色の煙に包まれた俺は、15歳の姿に戻され、魔力を完全に封じられる呪いをかけられた。

 焦りを感じながら川へ向かい、自分の姿を映し出す。


「ガチかよ、若い……10年前の俺の顔だ」


 15歳。

 まだ冒険者になる前の姿。

 右手に魔力を込めようと力を入れるが、全く反応がない。

 魔力が完全に消え失せている。


「……クソがッ、本当に魔力が使えなくなっちまった……」


 全盛期の力はない。

 それどころか、ただの少年と変わらない身体になった自分に、思わず拳を握りしめた。

 しかし、嘆いていても何も変わらない。


「ここが本当に10年後の世界なら、どうなってるか確かめるしかねえな」


 立ち上がり、近くの村を目指そうとしたその時、草むらの奥からガサガサと音が聞こえてきた。


「……ッ、誰だ!?」


 咄嗟に辺りを見回す。


 くっそ、魔力を感じ取れねえのかよ!!


 魔力を感じ取る能力も失った今、自分の身を守る手段は限られている。

 近くに落ちていた木の棒を手に取り、音のする方向を睨む。


「ガルゥ……」


 草むらから現れたのは一匹のブレイブウルフ──頭に剣のような角を持つ狼だ。

 鋭い目でこちらを見据え、唸り声を上げながら牙を剥き出しにしている。


「ああ、最悪な気分だぜ……!!」


 ブレイブウルフが地を蹴り、一直線に飛びかかってくる。

 魔力が使えない今、頼れるのはこの棒と、自分の剣技だけだ。


「だがな、魔力なんざなくても──俺の剣技は鈍っちゃいねえ!! やってやるよ、この木の棒一本で殺してやるよ!!」


 棒を巧みに操り、狼の突進を受け流す。

 そして一瞬の隙をついて、首元に一撃を叩き込む。


「どうだ……!!」


 狼は地面に倒れ込んだ。

 その姿を見て、俺は息を吐く。

 魔力がなくても、剣技だけは身体に染みついている。

 かつての伝説を築いた力は、己の魂に宿っているのだ。



 狼を倒した俺は、汗を拭いながら近くに見える村へ向かった。

 朽ちた木柵や崩れかけた家屋、疲弊した空気が村全体に漂っている。

 

 一体ここで何があったのだろうか。


 村の中心に差し掛かると、干からびた井戸や、しおれた作物の畑が目に入る。

 水不足だろうか?

 村人たちの顔には深い疲れと不安が刻まれていた。


「すみません、この辺りで何があったんですか?」


 俺は近くの老人に声をかけた。

 ヨレヨレの服を着た老人は一瞬警戒したようだが、俺の姿を見て安心したのか、ぽつりぽつりと語り始めた。


「……山に住むゴーレムが川を塞いじまったんだよ。この村唯一の水源が枯れちまった……作物も育たねえ、水も飲めねえ。村の子どもたちは病気がちでね……」


 ゴーレムが原因?

 川を塞ぐなんてことをどうやって……?


「なんでゴーレムがそんなことを?」


 俺が尋ねると、老人は一瞬だけ周囲を気にし、小声で言った。


「……魔王の復活が噂されてる。そいつの手下が動き出してるって話だ。村を襲う魔物も増えてる……」


 魔王の手下?

 10年前、俺がベルゼガルガを倒したはずだ。

 それなのに、奴の影響が再び広がりつつあるのか?


 老人の話を聞き終えた俺は、思わず拳を握りしめた。


「よし、わかった。おっちゃん、そのゴーレムがいる場所、教えてくれてもいいか?」


 老人は目を見開いた。


「まさか……お前さん、一人で行くつもりか? ゴーレムは岩の巨人だぞ。あれを相手にするなんて無謀だ……!!」

「俺に魔力はないけどよ、剣技だけは誰にも負けねえ。だから大丈夫、安心してくれ」


 俺の言葉に老人はため息をつきながらも、村の背後に広がる山を指差した。


「……あの山の奥だ。ゴーレムは村人が近づくと襲ってくるから、誰も手を出せないでいる。気をつけろよ、坊主」

「ふん、この俺が負けるはずねえから大丈夫だよッ」

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冒険者アカデミーの魔力ゼロ天才剣士 〜魔力のない少年、実は魔王を倒し伝説の冒険者〜 さい @Sai31

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