冒険者アカデミーの魔力ゼロ天才剣士 〜魔力のない少年、実は魔王を倒し伝説の冒険者〜

さい

第0話

 ザァー。


 雨音は冷たいはずなのに、俺の肌に感じるのは焼けるような熱さだった。

 魔王城の瓦礫の中、俺は崩れ落ちながら剣を握り締めていた。


「これで終わりだアアア──ッ!!」


 渾身の力を込めた剣が、魔王ベルゼガルガの胸元を貫く。

 紫黒い血が飛び散り、魔王の目が見開かれる。


「お前の負けだ……」


 俺は息を荒げながら吐き捨てた。

 身体はボロボロだった。

 左腕はすでに失い、立っているのが奇跡のような状態だった。

 だが、それでも俺は勝った。


 ……長かった。

 本当に長かった。

 ここに至るまで、何人の仲間を失った? 

 両親も、親友も、村のみんなも──すべてを魔王軍に奪われた。


「ハハハ……ああそうだ、ワガハイの負けだ」


 魔王ベルゼガルガは剣が刺さったまま、不敵に笑っていた。

 口元は血で汚れ、身体は崩れかけている。

 それでもその目には光が宿っていた。


「だが──それは、お前の負けともなる」

「なに?」


 その言葉に、一瞬息が詰まる。

 次の瞬間、魔王の身体が紫色の煙となって崩れ落ち始めた。


「な、何が起こってやがる……?」


 煙はまるで意思を持つかのように渦を巻き、俺の周囲に集まってくる。


「地獄に行く前に、お前に置き土産をやろう……」


 ベルゼガルガの声だけが響く。

 煙が俺の身体に触れた瞬間、右腕と両足が見えない刃に切り裂かれるように吹き飛んだ。


「な……ッ!!」


 激痛が身体中を駆け巡り、俺はその場に倒れ込む。


「うああああ──ッ!!」


 身体中が燃えるように熱い。

 雨が降っているはずなのに、皮膚が焼け焦げるような感覚が止まらない。


「な、何をしやがった……てめえ!?」


 俺は震える声で叫ぶが、紫の煙はますます濃くなり、俺の全身を包み込んでいく。


「フハハハ、お前に呪いをかけるのだよ」

「呪いだと……!?」

「そうだ……ワガハイが滅んでも、お前は安らぐことはできぬ。これがワガハイの最後の贈り物だ」


 煙が俺の身体に染み込むように入り込んでいく。

 心臓が爆発しそうな勢いで脈打つ。


 ドクン、ドクン、ドクン……


 身体が熱い……頭が割れそうだ……!!


「お前はこれから10年前の姿として今から10年後に目が覚めるだろう……さらに、お前の身体から魔法を使えなくする!!」

「ふざけんな……ふざけんじゃねえ!!」


 俺は叫ぶが、声は虚しく闇に吸い込まれる。身

 体中の力が抜け、意識が遠のいていく。


「これが神であるワガハイを殺した罰だ……」

「んだと……俺の……結末なのか……? こんなことあるかよ、チクショーおおお!!」


 その言葉を最後に、俺の視界は完全に暗闇に飲み込まれた。


 

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