ベタ惚れしているメイドはご主人様に振り向かれたい

描空

契約

 あなたはご主人様で私はメイド。あなたは優しいからきっと私を許容してくれる。でもこの気持ちはあなたには伝えない方がいい。だって


 ある日突然神様が私の両親を花を摘み取るように奪っていった。神様からみたら両親はさぞかし綺麗な花だったに違いない。


 でも私は両親とは違い綺麗では無かったのだろう。その結果私は今も咲き続けている。


 私は住む家を失い、食べる物は無くなり、生きる気力を見出せなかった。ただ河川敷を何も考えずトボトボと歩くことしか出来なかった。


 橋の上から川に落ちたら楽になれるのだろうかなどと考えていた。


 もう歩く気力さえ無くなり、座って夕陽を眺めていた。


 そんな私の後ろをスーツをピシッと着た高身長でイケメンな男性が2人歩いていた。1人は後ろで荷物を持ち、もう1人は威厳のある佇まいをしていた。


 私はその人たちを見てアニメの主人公と頼れる老紳士という印象を受けた。


 私はその2人が通り過ぎていくのをカッコいいなと思い見惚れていた。しばらく見惚れていたので、流石に見過ぎだなと思い帰ろうと立ち上がった瞬間立っていられないほどのめまいを起こし気を失ってしまった。


 両親がいなくなったショックから不眠症になり、食事もまともに取っていなかったのが祟ったのだろう。


 目が覚めると知らない天井だった。


「体調は大丈夫ですか?」


 優しいおじいちゃんの声がした。


「あっはい。大丈夫です。」


 そのおじいちゃんは河川敷で見た老紳士だった。


 私は体を起こしここが何処なのか見渡した。


 とても綺麗な内装からこの家の家主がとてもお金持ちなことが一目で分かった。


「あっあの、ここは何処ですか?」


「ここは秀一郎様のお屋敷です。」


 頭に疑問符が浮かんだ。


「あの、秀一郎様って言う人はどんな人なんですか?」


 ガチャ


 部屋の扉が開いた。


「私がその秀一郎だ。」


 その人は河川敷にいた高身長でイケメンでいかにもアニメの主人公って感じだった。


 私はその人の容姿に目を釘付けにされしばらく見つめたままだった。


「あっ、助けて頂いてありがとうございます。」


「困っている人を助けるのは当たり前です。ましてや倒れている人がいたら尚更です。」


 私は少し恥ずかしくなり俯いてしまった。


 ぐぅー


 静寂に包まれた一室に私の腹の虫が鳴った。


 私は更に恥ずかしくなり布団にうずくまった。


「あははは!爺や消化に良い食事を作ってくれ。」


「分かりました。しかし旦那様、レディーに対して失礼ですよ。」


 そう一言言い残すと部屋から出ていった。


「いやー、すまん。実に面白かった。だが確かに失礼だったな許してくれ。」


 私は布団から出られなくなっていた。


「医者に一通り見てもらったが特に病気も無く外傷も無かった。どうして倒れていたんだ?目の下にすごいくまがあったがそれだけでは無さそうだが。」


 私は布団から顔を出し私の置かれている状況を要約して伝えた。


「そんな状況とは露知らず、先程は失礼な言動だった申し訳ない。」


 彼はそう言うと深々と頭を下げた。


「頭を上げてください、気にしていませんから。」


 コンコンコン ガチャ


「お食事をお持ちしました。」


「ありがとう爺や。」


 お盆の上には土鍋と水が乗っている。


「アレルギーなどは大丈夫でしたか?」


「大丈夫です。」


 私は土鍋の蓋をあけ中に入っている卵雑炊をゆっくり食べた。


「秀一郎様はどういたしましょう。」


「そうだな。」


 彼は悩みながら答えた。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」


「お粗末さまです。」


 食器を下げてもらい部屋には再び静寂が訪れた。


「あ、あの…もうそろそろおいとまします。いろいろとありがとうございました。」


「その前に一つ質問をしてもいいかな?」


「私に答えられることなら。」


 私は何を聞かれるのか少しドキドキしたが予想外な事だった。


「うちでメイドとして雇われてくれないか?」


「私メイドなんてしたことないんですけど雇っていいんですか?」


 私は至極当然なことを聞いた。


「それなら構わないうちにはメイドが3人と執事が4人いる。その者たちが懇切丁寧に教えてくれるから安心してくれ。前までもう1人メイドがいたが、辞めてしまったのだ。メイドになれば私の付き添いで、様々な場面に立ち会うことになる。それがストレスになるかもしれないということを念頭において考えて欲しい。」


 私は収入のことや今後のことなど様々な可能性を考え結論を出した。


「やります。」


「そうかそれは良かった!ならこれからは、私のことを旦那様と呼んでくれ。」


「わかりました旦那様。」


 旦那様はうんうんと嬉しそうに頷いていた。


 私はその姿に少し萌えと言う感情を覚えた。


「給与はどのぐらい欲しい?住み込みなら食費も家賃も払わなくていいでも、夜間に私のコーヒーを淹れるなどの雑務がある。」


 私は一気にいろいろなことを言われ少し困惑した。


「えっと、給与はどのぐらいが相場なのかわからないので旦那様が決めてください。住む家が無いので住み込みでもよろしいでしょうか?」


「そうか、なら30万でどうだ?まだ新人ということもあって少し少なめにしているが、経験を積んでいけば上げよう。住み込みなら余ってる部屋がいくつかあるから自由に使ってくれ。どの部屋にするかは決まったら報告してくれ。」


「わ、わかりました。」


 私は旦那様と住む世界が違いすぎて放心状態になりながら応えた。


 これから私がメイドとなる日々が始まっていくのに胸の高鳴りが止まらない。


 いろんなことが起こった私の1日は静かに終わりを告げ、明日への橋をかけた。

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2025年1月10日 12:00

ベタ惚れしているメイドはご主人様に振り向かれたい 描空 @kakunikominopaa

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