第19話 夢に溺れた記憶
リエーテの誤解を解いた直後、四人はリビングで雑談をしていた。何故一人いないのかというと、ルーダの家でお昼ご飯を食べて少し経った後にカイルは帰ってしまったからだ。
「もうこんな時間か…私はそろそろ帰るよ。ルーダくんが元気そうで良かった。」
「はい、また遊びに来てください!」
カイルの見送りが済んだ後は、今後の度の方針について話し合った。ミコヤの街に着いたばかりのときはちょうどお昼時だったのに、もう日が傾きかけている。時間が経つのは早いものだ。
「そういえば、ルーダくんはどうして旅に出たかったの?良かったら教えてくれない?」
「あぁ、それは…ボクの本当の家族を探すためです。」
「え、カイルさんの弟じゃないの?」
ロゼットは本気でそう思っていたのだが、リシュアからはかなり驚かれた。確かに、カイルがルーダに君付けをしている時点で、どう考えても二人の間に血縁関係は存在しないとわかるだろう。リシュアはロゼットの読解力のなさに絶望というより失望していた。リシュアが強面の体育教師より怖い顔でロゼットを見ている様子を見て、ルーダとリエーテは思わず吹き出してしまった。
「プッ…ククク…」
「ちょっと、何笑ってるんですか!こっちは真剣なんですよ!」
真剣な話の腰を折られたからか、それとも小さなことで一喜一憂している自分が恥ずかしくなったのか、リシュアの顔はみるみる赤くなった。その瞬間、リエーテの中に眠る妹を欲する気持ちが爆発した。
「か、可愛いー!アタシこういう妹が欲しかったの!」
「り、リエーテさん!今までのクールなお姉さんキャラは何処に消えたんですか!」
いつもと百八十度違うリエーテに全員が驚愕した。そして、興奮するリエーテの宥めるうちに何の話をしていたのか、誰も思い出せなくなってしまっていた。
この時、この瞬間、ルーダは確かにその夢の中にいた。もうハッキリと思い出せない、古き記憶の中を彷徨っていた。誰かと手をつなぎ、一緒に歩いている。その人は何も言わない、顔も見えているはずなのにわからない。
その人は小屋のドアを開け、中から会ったこともないお姉さんが出てきた。
「…さん、…をよろしく頼む。…はまだこの子の…でいる…がない。」
「本当にそれでいいんですか?…は貴方の…なのに?」
二人共何か深刻そうな顔で何かについて話している。言葉が難しくて理解できないが、一体何の話だろうか。背の高いお兄さんはしゃがんでこちらに目線を合わせた。
「いいか、お前は…にお世話…るんだ。お…さんが必ず…が友達と…せになれる…を作る。それまで、いい子で待ってるんだぞ。」
「…さん、待って!行かないでよ!」
どうしてかわからない、しかしこのお兄さんと離れることが嫌だった。自然と涙が溢れてきた。この人は自分にとって何なのかわからないのに、だ。
見知らぬお姉さんは自分の頭をなで、落ち着くまで一緒にいてくれた。泣きじゃくって全く動かなかったので、何も言わずおぶってくれた。
「急に…事になって…ね。君の…さんが帰って…まで、…と待っていよう?私の名前は」
落ちてしまいそうで怖かったので背中にしがみつくと、お姉さんは少し笑った。お姉さんの笑顔を見ると何だか安心する。お姉さんはそのまま奥に見える小屋に向かって歩き出した。後ろからそよ風が吹いて、周りの木々がなびく。
「カイル。」
そこで夢は途切れた。ルーダが目覚めると、そこは自分の家のリビングだった。部屋には自分しかおらず、布団の代わりにルーダ自身のマントがかかっている。玄関のハンガーにかけてあったはずなのだが、誰かが自分にかけてくれたのだろうか。
ガチャッ。誰かがドアを開ける音が聞こえた。どこからともなく美味しそうな匂いが漂う。辺りを見渡すと、ドアの前にリシュアが立っていた。
「あ、起きたんだね。晩御飯が出来たから、今起こそうと思っていたんだけど。」
「晩御飯…?作って、くれたんですか?」
まだ寝ぼけている状態で、ルーダはフラフラとテーブルに向かった。すると、テーブルの上に少なめのシチューとサラダが用意されていた。
「やっほー、家にあった食材を勝手に使ったんだ。何かごめんね。」
「あ、いえ気にしないでください。本当はボクが作るべきなんですから。」
ルーダが椅子に座ろうとすると、横からリエーテに顔を覗き込まれた。ルーダが不思議そうにすると、リエーテはより不思議そうに見ている。
「アンタ、泣いているのかい?」
「…え?」
試しに目元を触ってみると、本当に指先が濡れた。先程まで見ていた夢の影響かもしれないが、どんな夢だったかどうしても思い出せない。奇妙なこともあるものだ。
「あー思い出した!リエーテさんのせいで旅の目的についての話が出来ていなかったんだった!」
「そうですよ、リエーテさんが急に笑い出したから!」
突然二人に責め立てられ、リエーテは混乱した。そもそもあの時笑ったのはルーダも一緒だというのに、そちらは綺麗さっぱり忘れられているのが解せない。
「それよりもだ!旅の目的といってももうルペチオでの一件も片付いたし、旅をする必要性がないんじゃないのかい?」
「そのことですけど、私にはあの時決めたことがあります。ルペチオは龍によって狂わされた村でしたけど、きっと魔物に苦しめられている人々は大勢います。だから、私は魔物を全て討伐したいんです。」
「急にスケールが大きくなったね。まぁここまで一緒に旅をしてきて、断るっていう選択肢もないけどさ。」
リシュアはこの話を切り出した時、誰かにパーティーを抜けられてもしょうがないと思っていた。魔物の撲滅なんて途方も無い話だし、そのような夢物語に賛同してくれる人もごく少数派だろう。しかし、ロゼットが協力する意向を示した時、リエーテとルーダも頷いた。それが何より驚くべきことであった。
「自分で言っておいてなんですけど、こんな面倒事に自ら足を突っ込むなんて…正気ですか?」
「何、僕達が空気読んでこんな事を言っているとでも思ったの?皆リシュアを大切な仲間だと思っているからだよ。」
ロゼットが度々見せる覚悟の決まった表情は、いつもの様子から想像できないくらいキリッとしている。まるで自分より年上のようだ。ロゼットは今までこういう時に嘘をついたことはない、必ず口でいったことは実行してくれた。
「私、皆さんとこれからも旅が出来るなんて幸せです。必ず平和な世の中にしましょう!」
今後の旅の方針が決まり、後は行動に移すだけだ。たった一人の呼びかけで、何人もの人が手を差し伸べてくれる。リシュアはこの時、何にも代えがたい幸福を感じた気がした。
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