第15話 里帰りも旅のうち

 夜遅くの連戦から一晩経ち、雲一つない晴天の下でロゼットは気持ちの良い朝を迎えた。

「ふわぁ、よく寝た。いい朝だなぁ。」

「アメラさん、おはようございます。起きるの遅いですよ?」

「…え、誰!?リシュア!?」

ロゼットは起床後、真っ先にリシュアと会った。その時、いつも付けてる眼鏡を外していたので、ロゼットは一瞬誰かわからなくなったのだ。それでも、ロゼットのことを「アメラさん」と呼ぶのはリシュアだけなのですぐにわかる。

「ロゼット、リシュア!朝ご飯できたって、早く来な!」

ドアを開けて早々に、リエーテは元気に満ち溢れた大声を出した。ロゼットはそれで眠気が飛んでしまい、さっさと着替えて食堂に向かった。


 朝ご飯を食べ終わり、リシュアは二人にミゲルの街からルペチオヘ行くためのルートを説明し始めた。鞄から地図を取り出し、羽ペンで道のりをなぞり書きする。

「まず、ここからルペチオへ行くにはある洞窟を抜けていく必要があります。天井に陽の光が差し込む隙間が空いていて、そこまで暗くないです。洞窟を抜けたらこの地点に出るので、ここを真っ直ぐ進んで…」

リエーテは即座に行き方を覚えたが、ロゼットは知っての通り方向音痴だ。いくら説明されてもわからない。リシュアもそれをよくわかっていた。だから、最初から地図を持つ係はリエーテにやってもらい、自分は二人をリードする係になるつもりだった。その代わり、ロゼットには荷物持ちをやらせようと思っていた。無論、二人共それに異論はなかった。

「じゃあ、早速出発しましょう!」


「ここが例の洞窟です。さぁ、早く行きましょう。」

「リシュア、前から思ってたんだよ。やけに里帰りを急いでいるなって。そんなに重大事件なの?」

ロゼットがそう言うと、リシュアは深刻そうな顔で俯いてしまった。しかし、今から現場に行こうと言うのに、詳しい事情を何一つ知らされていないのは少し変だ。リエーテもずっと気になっていたのか、ロゼットに便乗した。

「そうだよ、一体何があったのさ?少しくらい話してくれても良いんじゃないのかい?」

「…着いたらわかります。今は、何も聞かないでください。」

リエーテは非常に不服そうに洞窟の中を進んでいく。ロゼットも心のどこかではモヤモヤしたままだった。

 バサッバサッ。前方からコウモリのような鳴き声が聞こえるが、所々に陽の光が差し込むようなところに生息している筈がない。恐らく吸血コウモリだ。動きが素早くて捉えにくいのが特徴で、こちらの個体も現在とてつもないスピードで飛んできている気がする。

 バサッ!ついに三人の前に姿を表した。ロゼットとリシュアが武器を出そうとすると、それをリエーテが手で制した。

「待ちな、こいつはアタシだけで十分だ。アンタらは大人しく見てなよ。」

リエーテは懐から手裏剣を三本取り出し、ジッとしている。吸血コウモリがリエーテに近づいたその時だ。ザクッ!コウモリの動きが急に止まった。よく見てみると、コウモリの胴体に手裏剣が刺さっており、その状態で壁に突き刺さっていた。

「ま、全く見えませんでした…凄いです!」

「もしかして、リエーテさんの職業は『忍者』ですか?」

「そうだよ、今更気づいたのか…」

リエーテは呆れてものも言えない様子だったが、その傍らでリシュアはその手際の良さと素早さに感動していた。

「あ、もう出口ですね。もうすぐで着きますよ。」


 洞窟を抜け、数分歩いているともう村が見えてきた。街中の様子までハッキリ見える距離に迫った時、ロゼットとリエーテは言葉を失った。

「何、あれ…どういうこと?」

 ルペチオに着いた一行が最初に見たものは、炎を囲んで踊り狂う半裸の男たちの姿。そして壊れた幾つもの家屋と地面に散らばる骨だった。

「何で皆あんな変態チックな格好してるの?寒くないの?」

「アンタねぇ、気にする所そこじゃないだろう?リシュア、こっちは聞きたいことが山程あるんだ。もうはぐらかさないでおくれよ?」

確かにロゼットの言う通り、踊っている男たちは明らかに寒そうだが、一心不乱に踊っている。しかし、それよりも子供や女性の姿が全くと言って良いほど見えない事の方が重大だ。

「シャッシャッシャッ、シャッシャッシャッ、ウェーベルンゲルヴァ。」

男たちはずっと同じ単語を口にしている。しかも、それは古代語のようだ。リエーテは古代語がわからないので、何と言っているのかわからない。ロゼットは遥か昔の魔導書を読むために古代語を学んだことがある。

「ロゼット、あいつらなんて言っているのかわかるかい?」

「えーっと、『生贄を、生贄を、龍神様の降臨だ。』って言っています。」

 リエーテはリシュアに鋭い視線を送る。リシュアは全てを話すと決心したようで、ついに重い口を開いた。

「あれは『ミコヤノ舞』と呼ばれる儀式です。ここルペチオには大きな龍が住み着いていて、古くからそれを守り神として崇める文化があります。男性以外に人がいないのは、女性や子供は生贄として龍に捧げられるからです。」

リシュアはポケットから手紙を取り出し、二人の前に差し出した。


《リシュアへ

 龍神様への次の生贄が貴方に決まったわ。一ヶ月後に儀式をするから、それまでにもどってきなさい。絶対に遅れてはダメよ、生贄を捧げないと龍神様の加護が亡くなってしまうのだから。わかっているわね?

貴方の母より》


「私が里帰りをすることになったのはそのためです。でも…私は…死にたくないんです!」

リシュアの目から大粒の涙がこぼれた。リシュアは袖で一生懸命涙を拭い、ロゼットとリエーテの顔を真っ直ぐ見た。

「二人に旅に着いてきてもらったのは、この村と文化を全て消し去るためです。」

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