第四巻
第13話 運命を見透かす銀色
地下三階を探索し、上の階に上がる階段を見つけるのにかなりの時間がかかった。あの小部屋を出て以降、ロゼットとアンネの間には険悪な雰囲気があった。誰も、何も喋ろうとしないし、気安く誰かに話しかけられる空気でもない。リシュアはそんな状況を打開できずにいた。
「(二人共本当に言葉を発さないなぁ。気まずいよ…)」
現在の位置は地下二階。段々と廊下の分かれ道が増えてきており、かなり迷っている。しかし、地下三階はどこもかしこも牢屋や怯えた声を上げる人々ばかりだったので、それよりかは幾分マシだ。
「あっ、階段ありました!ここです!」
ロゼットがようやく声を発し、この奇妙な静寂は打ち破られる事となった。リシュアはそのとき心底喜んだ。アンネとリシュアはロゼットの声がする方へ走った。
二人がそこにたどり着くと、ロゼットは無言で奥を指さした。奥には大きな階段があり、そこから上へ行けそうだ。リシュアが階段に向かって歩き出した時、ふと何者かの足音が聞こえた。ギルドの職員が見回りにきたのだろうか。アンネはすぐに隠れられそうな物陰を見つけ、そこで二人に手をこまねいた。
少しずつ足音が近づいてくる。ロゼットがこっそりと階段の方を覗くと、そこには透き通るような銀髪に青色の瞳をした人の姿が見えた。ひと目見ただけでは男性なのか女性なのか判断がしにくい。少なくともギルドの職員ではないようだが、それでは何故ここにいるのだろう。ロゼットが疑問を抱えていると、その人はこちらを見て呼びかけてきた。
「大丈夫、ギルドの職員ではありません。出てきてください。」
リシュアはその人を警戒して出てこなかった。アンネは少し戸惑い、迷っていたが物陰からゆっくりと出てきた。ロゼットはリシュアのことが心配だったので、引き続きリシュアと共に隠れていた。アンネは疑り深い目でその人を見つめた。
「アンタ、ギルドの職員じゃないと言ったね。それじゃあ、何でここにいるんだい?」
「ちょっとした調査ですよ。残念ですけど、私はそこの二人に用があるんです。」
身を隠す以前に、最初から三人いるとわかっていたようだ。もう隠れる意味はないので、ロゼットは物陰から出てきた。ロゼットが小声でリシュアを呼ぶと、リシュアは何だか観念したような様子だった。その人は少しニコッと笑みを浮かべた。
「すみません、まだ名前を言ってないですね。私はカイルです。」
「カイル…さん。その、僕たちに用事って何ですか?」
「あの子に、ルーダくんに会いたいんじゃないかなって。」
その瞬間、二人共開いた口が塞がらなかった。今、カイルの口から「ルーダ」という名前が出てきた。そう、少し前に買い物をした時に知り会った、あの少年の名前だ。リシュアは余計に謎が深まり、より頭の整理がつかなくなった。
「ど、どういうことです?ルーダくんは、私達を探しているということですか?」
「ふふ、どうでしょうね?その前に、貴方達にはまだやるべきことが残っているのではないですか?」
解決するはずだった謎は深まり、二人は顔を見合わせた。ロゼットもリシュアもどういうことかはわからない。しかし、無関係のアンネは勿論意味がわからない。当然だ、アンネからしたら二人の「やるべきこと」の正体も明らかではないのだから。
「さっきから何を意味のわからないことを言っているんだい?それに調査って何?」
「ギルドの誘拐事業についてですよ。リブロスの街の行方不明者数と過去にここの牢屋にいた合計人数が一致していること。前職員の誘拐の指示についての証言。誘拐する時に使った毒薬の成分、全て調べがついています。」
カイルは懐から一枚の書類を取り出した。見たところ誰かの履歴書のようだ、顔写真や個人情報が記載されている。ロゼットはふと疑問に思ったことがあった。履歴書の顔写真に、何か既視感を感じたのだ。カイルは淡々と履歴書の情報を読み上げた。
「WXX年2月29日生まれ、住所リブロス北区域。氏名リエーテ・セラヴィス。これ、貴方の履歴書ですよね。」
カイルがそれをアンネ、いやリエーテの目の前に突き出すと、リエーテの顔色がみるみる青ざめていった。確かに言われてみると写真と顔が瓜二つ、というか同じ顔だ。カイルはリシュアとロゼットの方を見た。
「ここの近くの角を右に曲がって進めば、左手に小部屋が見えてきます。そこの転移装置から地上に戻れますよ。ミコヤの街で待っています。やるべきことが終わったなら、あの子の家まで案内しましょう。」
そう言い残し、カイルはどこかへ去っていった。急に現れ、急に去っていく。まるで風のような人だった。
一方、リエーテは大きくため息をつき、二人の方を見た。
「バレないと思ったんだけどね…残念だよ。」
「貴方は、本当にリエーテさんなんですね?」
「そうさ、アタシはリエーテ。誘拐した人々を監視するギルドの職員。」
正直もう少し悪あがきをすると予想していたが、リエーテはあっさりと自分がギルドの職員であると自白した。カイルの口ぶりから、既にギルドの誘拐事件は告発されていると考えてよい。そのため、リエーテはもう自分の正体を隠す必要性がないと判断したのだ。
「まぁいいや、ほら、早く地上に戻るよ。事件の調査員が来たら面倒だ。」
その後、転移装置により三人は地上に出た。予想通り、ギルド周辺には沢山の人が押しかけて大騒ぎになっていた。誰にもバレないようこっそりとその場を離れた後、ロゼットはリエーテに質問をした。
「大事件が勃発してるし、もうギルドの職員には戻れないですよ。貴方、これからどうするんですか?」
リエーテは今まで見せなかった微妙な顔つきでロゼットを見た。
「どうしようか…まだ決めてない。」
「少し提案があるんですけど、僕たちの旅に付いていきませんか?」
辺りを、何とも言い難い沈黙が支配した。リエーテは突拍子もないことを突然言われ、唖然呆然だ。リシュアは自分たちをつい先程まで騙していた人を、ロゼットが仲間に引き入れようとしていて理解が追いつかない。奇妙なことに、二人の第一声は全く同じだった。
「今なんて?」
「今なんて?」
ロゼットは少し笑い、訳もわからず固まっている二人に理由を説明した。
「だって、リシュアは故郷の問題を解決するために人手が必要なんでしょ?それに、リエーテさんはもう無職も同然でしょ?それなら、お互いもう一度協力すればいいんだよ。」
「アンタ、アタシのことをあれほど信用していなかったのに、こんなときだけ利用するというのかい!?」
「それはリエーテさんが自分の正体を偽っていたからですよ。今はもう隠し事はないし、する必要もないですよね?」
ロゼットがあまりにも堂々とした口調で話すので、何だか二人はそれで良いような気がしてきた。こうして、ロゼットは上手く二人を丸め込み、旅の同行者を一人増やすことに成功したのだった。
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