第12話 どんな場所でも全力で
目が覚めると、ロゼットは何処かの牢屋の中で横たわっていた。どうやら誰かに捕獲されたようだ。リシュアは何処か探すと、ロゼットのすぐ後ろで気を失っていた。リシュアは目覚めるやいなやパニックになった。
「ここは何処ですか!?私達捕まったってことですか!?」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。僕もここが何処かわからないんだよ。は!財布がない!」
何もした覚えはないが、荷物を全て取られた状態で投獄されている。それにしても、二人が入るには大きい牢屋だ。他にも誰かいるのだろうか。そのとき、どこからともなく足音が聞こえた。警戒しながら周りを見ると、自分より年上の女性がこちらに近づいてきた。
「貴方、誰です?」
「そんなに警戒しないでおくれよ。アタシも気がついたらここにいたんだ。アンタたちに提案があってきたんだ。」
明らかに怪しい人だ。もしかして、自分たちに毒を持った犯人なのだろうか。そういえば、目が覚めたら腫れていた顔も体の痺れも治っていた。解毒剤でも投与されたのだろうか。
「アタシはアンネ。アンタたちは?」
どうしてもアンネと名乗るこの女性の怪しさが拭いきれず、ロゼットは悟られないようにリシュアに耳打ちをした。
「(この人なんだか信用できないよ。適当に偽名を名乗っとこう。)」
「(わかりました。)えっと、私はアスカです。」
「僕はトヴィンといいます。短い間になると思いますが、宜しくお願いします。」
リシュアが名乗ったのは東洋系の名前だった。ここらへんには東洋の人は中々いない。珍しい名前で驚いたのか、アンネはとても興味深そうだった。しかし、今は名前を気にしている場合ではない、一刻も早くここを脱出しなくては。
まずは牢屋から抜け出すことが最優先だ。ロゼット(トヴィン)は周りを注意深く見渡したが、残念なことに牢屋には窓がついていなかった。鉄格子には鍵穴があるようにも見えるが、当然こちら側からでは開けられない。
「さっき少し調べてみたんだけど、ここは地下四階らしい。」
「…やけに詳しいですね。」
アンネは一体何処で知ったんだと言わんばかりの情報を提示してきた。わざわざ嘘をつくメリットもない気がするので、恐らく本当のことなのだろう。しかし、アンネは何故それを知っているのか、正体は何なのか、謎は深まるばかりだ。
「うーん、出口が見つかりません…どうしよう。」
「落ち着いて、アスカ。二人共天井を見てみな。」
言われた通り天井を見ると、年季が入っているのか所々ヒビが入っている。何かで強く叩けば天井を突き破れそうだ。しかし、あいにく身ぐるみを剥がされているため、一切の武器を持っていない。床にも埃しか落ちていない。八方塞がりの状況だが、アンネは落ち着いた声でこう話した。
「アタシがトヴィンを肩車するから、何とかして頂戴。」
アンネは天井を物理的な力で壊そうとしているようだ。しかしその瞬間、ロゼットは楽に天井を壊す方法を閃いた。これならわざわざ肩車をされる必要もないし、すぐに終わるしで一石二鳥だ。
「いや、大丈夫ですよ。今さっき別の方法を思いついたんです。二人共少し離れててください。」
アンネもリシュア(アスカ)もよくわかっていない様子だが、とにかくロゼットからは離れた位置に移動してくれた。ロゼットはある魔法を詠唱した。
「フロート!」
そして、見事天井に頭が辛うじて入るくらいの穴を開けた。
「わぁ、穴が開いた…本当に何でもありですね、トヴィンさん。」
それでは説明するとしよう、ロゼットの策を。まず「フロート」は人や物などを浮かせる魔法だ。その原理は、対象の足元に微弱な風を起こして浮かせることだ。そして、風の強さは魔法に込めた魔力の量によって決まる。ロゼットは多くの魔力を込めて部屋の埃に対しフロートを詠唱し、その強い風力で天井に穴を開けたのだ。
「じゃあ、ここから地下三階に上がりましょうか。」
地下三階に上がると、そこも牢屋だらけだった。不幸中の幸いか、三人が今いるところは牢屋の外側だったので、ある程度は自由に探索できる。階段か移転装置を探してフラフラと歩くと、側に一つのドアが見つかった。鍵はかかっていないようだが、誰がいるのか検討もつかない。
「怪しいね…どうする、開けてみるかい?」
「そうですね、気をつけてくださいよ。もしかしたら急に襲われるかもしれませんから。」
アンネは慎重にドアを開け、部屋の中を見渡した。見た限りだと無人の部屋だ。しかし、本やペンなどが部屋中に散らばっており、壁の所々に血痕らしきものがついている。明らかに普通ではない。部屋の中に入ってみると、机の上に誰かの手記が見つかった。
《XXX年5月18日
私はずっと大きな勘違いをしていた。ギルドは決して潔白な組織ではなかったのだ。奴らは人々の依頼を取り扱う場所などではない、ただの犯罪集団だ。近年の連続行方不明事件は、全て奴らが…》
「なんか、闇が深そうだな…あれ、ここから筆跡が少し違うような気がするぞ。」
《XXY年6月7日
私達ギルドは金に困っていた。今まで何度も助けを求めたのに、今まで何度も助けてやったというのに、奴らは恩を仇で返した。これは復讐であり、私達の生存競争だ。何も頼れないというのなら、どんな手を使ってでもギルドは存続させてみせる。》
「ギルドはお金に困っていて、募金活動に人々が応じなかったから、誘拐事業でお金を稼いでいるんですね。ここからも筆跡が違う、今度は誰が書いたんでしょう?」
《XYY年10月23日
昔はこうではなかった。募金活動を始めた時、ギルドを仕切っていたのは街一番の人格者だった。だから人々は皆手を差し伸べたのだ。しかし、彼を快く思わない者たちによって彼は暗殺された。この事件をきっかけに募金活動は上手くいかなくなり、ギルドは経営難に陥った。
少し前、ある少女が起こした傷害事件で街の人々の約三分の一が犠牲になった。これで良かったのかもしれない。この街を汚したギルドの者たちにも、それを見て見ぬふりをした者たちにも死傷者が出た。
私はもうここからでることは叶わないだろう。もしこの日記を読んだ者がいたなら、どうか真実を突き止めて自由になってくれ。それが、私の…》
ここから先は、手記にこびり付いた血痕により読めなくなっていた。恐らくこの手記の持ち主たちは皆他界したのだろう。手記に出てきた傷害事件は、きっと四年前にラヴィーネが起こした事件のことだ。そう考えると、その人が他界したのも最近のことなのかもしれない。 今までここが何処か、何故閉じ込められたのかわからなかったが、これで明らかになった。この部屋にたどり着くまでに沢山の牢屋と人を見た。あの光景は、何年も続いた汚職事件の全貌を表していたのだ。終止符を打つためにも、早く脱出しなくてはならない。
「手記はここまでですね。じゃあ、先を急ぎましょう。」
「待ちな、トヴィン。アンタさっきからずっとアタシのこと疑っているみたいだけど、アンタも十分怪しいからね?」
「…別に僕のことを信用してほしい訳ではありません。貴方のことは確かに怪しいと思っていますし、僕のことも疑ってくれて構いません。ただ、今のところのお互いの利害が一致しているだけです。」
ロゼットはキッパリとそう言い放ち、小部屋から出た。地上まであと二階層、街と太陽の光を拝むまで、三人は進み続ける。
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