屋台4・ビーフハンバーガーとコーラ

 今日も私は飢餓迷宮を歩いていた、目的はあの屋台だ。私の知らぬ料理を出してきて、しかもこれがとてつもなく旨い。空腹の極みになっているとはいえ、あそこまで美味なのは今まで食べたことが無かった。何故迷宮に屋台があるのか、そんなことは最早どうでもいい、空腹という最高の状態であれが食べられるのだから。


 順調に下層に降りてきて五層目、空腹もピークを迎え腹の虫が唸りをあげている、恐らくそろそろのはずだ。前回、前々回と条件は同じだ……と思うも束の間、鼻孔をくすぐる芳香が漂ってきた。肉の焼ける匂いと、香ばしいパンの匂いが混じっている。さて、今回は何を食べさせてくれるのか……期待に胸を膨らませ、へこみきった腹を擦って通路を進んで行った。


 長い通路を歩いて数分経っただろうか、あの屋台が見えてきた。前回と微妙に場所が違うが移動でもしているのだろうか?まあ屋台だし場所を移すこともあるか。


 暖簾のれんを潜ると店主のアラクネ、それと牛頭に馬頭が居る。この二人毎度いるな、常連なのか?


「よー姉ちゃん、また来たか」


「ここにハマっちまったか?まあ旨いからな無理もねぇか」


 二人は笑って私を迎え入れる、普通魔族は人間と敵対していて、殺し合うことも日常茶飯事なのだが、どうもこの連中はそうではない。魔族にも色々居るのだろうか。


「いらっしゃいであります、丁度出来たのでお出しするであります」


 席に着くや、料理が出された、今回は早いな。


「これは素手でも食べられるので、底に敷いてある紙で掴んで食べて欲しいであります。こちらの飲物はセットであります、手が汚れたらこのおしぼりをどどうぞ」


「きたきたー!!」


「今日はハンバーガーか、いいねぇこういうのも」


 出てきた白い皿の上には茶色い紙が敷かれていて、その上に丸い物が置かれている。見たことのない、パンか何かで焼いた肉と野菜を挟んでいるようだが。二人を見ると、挟んだまま食べているな……サンドイッチみたいな物か?


 私も真似てそれをかぶりついた。


「ーー!!」


 噛んだ瞬間肉汁がほとばしる、これは牛肉か?驚く程のジューシーさ、そして肉々しさ。胡椒か何かで味付けしてあるのか、ガッツリとした旨味がある。

 挟んであるのは肉だけでは無く、輪切りにされたトマトとレタス。トマトの甘味を含む酸味と、レタスの若干の苦味が調和して、肉だけではクドかろうそれを補っている。

 中にソースが掛けられていて、一つは白い……これはマヨネーズという物だな、酸味と脂味がありクリーミーだ。何度か味わったことがある。そしてもう一つは茶色、こちらは複雑な味、トマトの風味があるのだが、色々香辛料が入っているのかスパイシー。

 パンは香ばしく焼かれていてふっくらしており、表面には白い粒、これは胡麻というらしい、豚骨ラーメンにも入っていたな、それがまぶしてある。輪切りにされた部分は軽く焼いてあり、パンの香ばしさが増している。


 これら全てが融合して、極上の味へとなる。決して上品ではないのだが、別方向での旨さがある。


 ハンバーガーを半分食べたところで、出されていた飲物を手に取る。硬い、紙らしき物で出来ている白い縦長のコップ、半透明でこちらも硬い、見たことの無い蓋が被せてあるが……中には黒い液体が入っている。蓋を外すと嗅いだことのない、鼻を抜ける匂いが溢れる、何やら泡立っているが……エールだろうか?一口飲むと……


「ーー!!?」


 口の中が弾ける、何という刺激か、そして驚く程に甘い。そしてただ甘いだけでは無く、香辛料のスパイシーさと爽やかさ、これはハンバーガーと実に合う。ハンバーガーを食べてこの飲物で流す、これは止まらない。


「っか~!!コーラうめー!!」


「疲れた身体にこの味は効くよなー」


 成程、これはコーラというのか。そしてハンバーガーとコーラがあっという間に消える、うむ、全く足りぬ。


「おかわり!!」


「あ、俺も」


「こっちも頼むぜ」


 三人とも追加を要求する。


「分かったであります」


 待ってる間におしぼりで手を拭き……ふと思ったことを聞いてみる事にした。


「一つ聞きたいのだが、その方、牛を食べても大丈夫なのか?」


 牛頭は一瞬きょとんとして、大きく笑いだした。


「あっはっは!!よくそれ言われんだよな、平気平気、そもそも種族が全く違うからな。確かに俺はこんな顔してるけどよ、牛じゃあないし。人間が家畜食うのと変わんないのさ。豚みたいな奴が豚食っても共食いにはなんないだろ?魚だって魚食うしよ」


「そういうものなのか、成程」


 言われてみればそれもそうか、納得がいった。


「お待たせであります!!」


 牛頭との話が終わると追加のハンバーガーとコーラが出される。それから何度かおかわりを繰り返し、六セット平らげた。


「さて食ったしそろそろ帰るか」


「そうだな。軍曹、持ち帰り頼むよハンバーガー二つとコーラ一つ」


「俺はハンバーガー三つとコーラ二つで」


 食べ終わって帰ろうとしたとき二人が気になる事を言った。


「持ち帰りも出来るのか?」


「出来るでありますよ、ハンバーガーを包んで紙袋にコーラと一緒に入れて渡すであります」


 二人の持ち帰り分を用意しながらアラクネが答える、つまり家に帰って食べることが出来ると言う訳だ、ならば答えは一つしかない。


「ではハンバーガーが12とコーラを3で!」


「分かったであります」


 またもや財布は軽くなったが手土産で一杯になり、私はアラクネの魔法で迷宮から帰還した。

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