屋台3・豚骨ラーメンとライス

 ぐぎゅるるるるるるるる


 私は飢餓迷宮を歩いていた、進めば進むほど空腹が襲ってくる飢餓迷宮。今日も奥底を目指し歩を進める。


 ぎゅるるるるるるるるるるる!!


 歩を……進め……


 ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるる!!!


 む、無理だ……!!もう限界だ!!食料等とっくに食いきってしまったし、食えそうな魔物すら出てこない……何か落ちていないか、食えるなら何でも……


 と、私は立ち止まった、……匂いがする、そういえばこの前もこんなことが有ったと思い出す。以前とはまた違う香りのようだが……旨そうで抗えぬそれに釣られて、自然とそちらに引っ張られるように進んで行った。


 匂いを犬の様に辿って行くと、角を曲がった先にそれはあった。見覚えの有る赤い三角屋根の屋台、普通は迷宮にこんな物が有る訳が無いのだが、何故か有る。まあ今はそんなことどうでもいい、旨い匂いがそこから漂ってくるのだから。


 紙製でオレンジ色の照明が灯っているので営業しているはずだ。屋台に近か寄り短い垂れ幕……これは暖簾のれんというらしい、を潜ると、先客が二人座っていた。牛頭と馬頭……思い出した、前回牛丼を私と一緒に食べた連中だ。


「いらっしゃいであります、おや、この前来たお客さんでありますね」


 店主のアラクネがこちらを向いて挨拶をしてくる。


「お?あんときの騎士のねーちゃんか」


「良い食いっぷりだったよな」


 牛と馬が振り返り気さくに話してきた、こいつら本当に魔族なのだろうか?空いてる席に座るとアラクネがカウンターにグラスを置く。


「はいお水であります、もうすぐ出来上がるんでお待ち下さいであります」


 ……ふと思った、前回も今回も注文はしていないのだが勝手に出てきたな……


「この店にメニュー等は無いのか?」


 疑問に感じたことを質問すると牛が笑いながら答えた。


「はっはっは、ここは軍曹が毎日メニューを変えてるからな、日替わりみたいなもんだ、だからメニューは無いぜ」


 軍曹、店主のことか。成程、特に料理が決まっている訳ではないのだな。では今日はこの前と違う物が出てくるのか?


「お待たせしましたであります、豚骨ラーメンとライスであります!」


 目の前に大小二つの器が置かれた。大きい方は大量の白っぽいスープに、浸かったスパゲティの様な細く長い物と幾つかの具材、小さい方は……これは牛丼のときのご飯という奴か?ライスと言ったが同じ物のように見えるな。


「くー、今日は豚骨ラーメンかー」


「ライス付きが嬉しいねぇ」


 牛と馬が豚骨ラーメンとやらを食べ始めたので私も頂くとする、腹も鳴りっぱなしだしな。スパゲティ?の上の具材は殆ど見たことが無いな……赤いのはこの前に食べた紅生姜か、楕円のは卵を煮たのを半分にしてあるのだろう。後は……刻まれた緑、丸い肉っぽい物、白い粒と黒くてフニャフニャしている何か。


 取り敢えず一つ一つ確認してみよう。まずは緑のから、嗅ぐと青臭さがあるが鼻を抜けると清涼感がある。苦味はあまり無く、ほんのり甘味が感じられシャキシャキとした感触だ。肉っぽいのは……これは豚だろうか、甘い脂が乗っていて柔らかく、これだけでも充分メインになりそうだ。

 白い粒は香り高く噛むとプチプチしていて、黒い方は特に味も匂いも感じないがコリコリした食感が楽しめる。


 紅生姜は前のときと変わらぬな、卵は牛丼に近い味で煮込まれているようだ、黄身がトロリと濃厚だ。


 さて、それではスパゲティ?の方を。フォークで持ち上げると、とろみのあるスープが絡んでいる、スープは独特の匂いでやや獣臭さもあるが嫌な感じはせずむしろ食欲を掻き立てる。それを食すと……これは!!


 スパゲティだと思っていたそれは弾力が強く、食べ応えがあり、スープは濃厚で凝縮された旨味!!こってりしているがクドくなく、コクが強くクリーミィ。一度食べ始めたらもう止まらない、具材と一緒に食べるとまた違う味わいがある。あっという間に食べきってスープが少し残る。飲み干そうと器を持とうとして、ふと思った。……そういえばこっちのライスとやらは何の為に……?


 豚骨ラーメンをおかずにする為?いや、豚骨ラーメンに入っているスパゲティとは違う物で充分主食足り得ると思うが……


 色々考えていると……牛と馬は何とスープの残った器にライスをぶちまけた

 ではないか!!


「やー締めはこれだよなー」


「濃いスープと合うんだよなー、白飯と」


 ライス、いやご飯でいいのか?をスープと混ぜて口に掻き込んで二人は食べている、むう……はしたないと思うのだが……ここは二人に倣うか。

 同じようにご飯をスープに入れ食べてみた。


 ……う、旨い!!!


 濃いスープがご飯に吸われ、そのまま飲むと些か重いそれが程よくなり、ご飯の甘さも加わり旨味が増した。するするとご飯はスープと共に胃に流れていき、あっという間に器の中から消えていった。


「ふぅ……」


 全て食べ終えたのだが……まだ足りぬな……よもや再びこんな物に魅了されようとは、何か負けた感がするが、だが食べたい。よし決めた。


「おかわり、大盛で!!」


 結局今回も更に4杯おかわりして財布は空になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る