屋台2・牛丼と紅生姜
「お待ちどうさま、牛丼であります」
「お~きたきたー」
「旨そうだぜ!!」
深い器が三つ、私と牛、馬の目の前に置かれる。これは……肉だろうか?煮込まれているようで全体的に茶色、野菜みたいなのも混ざっている。それが沢山の白い粒の上に乗っていた。汁気を含んでおり、湯気が昇り今まで嗅いだことの無い香ばしくもほんのり甘い匂いがする。ずっと漂って来ていたのはこれで間違いない。
「うんめぇ~!!」
「これこれ、この味付けが白いご飯と良く合うんだよなぁ!!」
ふむ、この白い粒はご飯というのか……そういえば聞いたことがあったな、何処かの国では白く変わった主食があると、これがそうなのか?二人とも旨そうに食っているな、どれ私も……一緒に置かれている銀のスプーンを取り中身を
「ーー!!!」
衝撃が私を貫いた、な、何だこれは!?口内に入った瞬間、旨味の暴力が響き渡る!!何とも言えぬ、強すぎぬ塩味と、やや甘めの味付け、そしてこの不可思議な香ばしさ。肉は……これは牛肉か?とても柔らかく煮込まれており、一緒に入っているのは多分玉葱だ、こちらも
そしてこのご飯だ、淡白ながら甘味が感じられる。これ自体は味も強く無いのだが、それが上の味付けされた肉と驚くべき調和を果たしていた。決してお互いを邪魔することなく、完璧な融合だ。肉の脂を吸った部分のご飯は最早極上、肉とご飯が口の中で混ざり合う度に至福に包まれて行く。
そして気がつけば器は綺麗に空となっていた。だが……まだ食べたい、こんな、魔族が作った物で……しかし抗えぬ欲求が頭をもたげる、そして私は叫んだ。
「おかわり!!大盛で!!」
「あ、俺もおかわり」
「軍曹、こっちも」
「少々お待ちをであります」
アラクネが手早く、順に器に牛丼を持っていく。
「お待ちどうであります!!」
二杯目が並べらて、再び食べ始める。と、牛と馬がカウンターに置かれている小さな壺から赤い何かを取りだして牛丼に入れているのが見えた。アレは一体……?気になったので私は聞いてみることにした。
「すまない、一つ訪ねるが、今入れたものは何なのだ?」
「ん?これか?これは紅生姜っていってな、牛丼に合うんだ」
「さっぱりしてて、牛丼が進むぜ?」
「ほう紅生姜か……」
どれ、試してみるか。私も紅生姜を少し入れ二人のように牛丼と一緒に食べてみた。
「こ、これは……!!」
塩辛いが酸味と辛味がある紅生姜が、二杯目でやや慣れてきた牛丼の味をリフレッシュしていく。それ単体では味が強すぎるが、一緒に食べることにより、バランスが取れ旨さも増している。
「うむ、これは旨い!!」
二杯、三杯と食べ進め、五杯食べた辺りでやっと腹が満たされた。
「ごっそーさん、また来るぜ」
「料金はここに置いておくよ」
牛丼を食べ終えた牛と馬は銅貨数十枚を支払い屋台を出ていった。この銅貨は流通している一般的な通貨と同じだな、何処で手に入れたのか。
さて、私も出るとするか。
「料金を払いたいのだが」
器を片付けているアラクネに声を掛ける。
「えーっと、牛丼が五杯で大盛も含めて金貨九枚であります」
ぐぬっ!金貨九枚!?予想外の値段に驚愕する、さっきの二人は銅貨だったのだが……そういえば人間は料金上乗せと言っていたが……ここまで高いとは……財布を取りだし中を見ると、金貨が十枚。取り敢えずは足りるか……金貨をカウンターに置く。
「これでいいだろうか」
「はい、大丈夫であります」
料金も支払ったし屋台を後にしようとすると、アラクネに呼び止められた。
「あ、このまま進むとまたここに戻ってくる羽目になりますが、大丈夫でありますか?」
一瞬言っている意味が分からなかったが思いだした。ここは飢餓迷宮、食料が尽きた状態では直ぐ様飢えが襲ってくる。
「いや、大丈夫ではないな……」
「だったら地上まで送るであります。これはサービスなんで料金は発生しないであります」
私は少し悩んだが、頼むことにした。
「では頼む」
「お任せあれであります」
アラクネと屋台の外に出ると私の足元が光輝いた、どうやら帰還の魔法らしい。
「それではご利用ありがとうであります」
視界が揺らぐと、私は飢餓迷宮の外に出ていた。
さて、使った金貨をまた稼がねば……腹は満たされたが財布は空いたな。
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