迷宮屋台~女騎士は空腹に抗えない~

トイレの花子

屋台1・初遭遇

 薄暗い通路を歩き続ける、時折襲い掛かってくる魔物達を斬り伏せながら私は独り、広大な迷宮をさ迷う。


『飢餓迷宮』と呼ばれるこの迷宮は難攻不落と言われている。ここでは異常な早さで腹が減ってくる、原因は未だ不明だが、とにかく腹が減る。下層へ潜れば潜る程加速度的に飢餓が襲うのだ。

 現在は5層目だが既に食料は底を尽き、食えそうな魔物で何とか凌いでいるものの……


 ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅ


 盛大に腹が鳴り響く、騎士の身でありながら羞恥の極みだが、もう限界寸前、形振なりふり構って等いられぬのだ。何かないか……何か腹に納められる物は……


 そのときだった、何処からともなく漂ってくるこの匂い……これは?

 その、鼻孔を激しく誘惑してくる匂いに誘われ、つい足がそちらに向かってしまう、抗いようがない。何度か通路を曲がり、匂いが強くなる方にへと進むと……


 通路の端に何かが建っていた。何だこれは?荷馬車……?赤い三角屋根に側面は短い垂れ幕付きのカウンターのようなもの、前には引っ張る為と思わしき手押し用の木枠、そして木製の丸椅子が並べてあり、紙で出来ているのか?楕円状のオレンジ色をした照明が幾つか荷馬車の側面でぼんやりと光っている。


 匂いの元はここか……面妖の極みだが構って等いられぬ、もう私の腹は限界を越えているのだ、意を決してそれに向かうと垂れ幕を潜った。


「お、いらっしゃいであります!」


 荷馬車には人が居た、元気に挨拶をされ一瞬驚くが冷静になる。……この者はこんな場所で一体何を……?だがそんな疑問は次の瞬間吹き飛ぶ。

 人だと思ったそれは人ではない、見れば下半身が巨大な蜘蛛だった、こいつ、アラクネという奴か!!初めて見たが聞いたことがある。音も無く忍び寄り、鋭い爪で相手を殺す魔族の暗殺者。


 咄嗟に後ろに飛び退き剣を構える


 だが、アラクネは何かしているのか、こちらを気にせず手元を動かしている。


「お客さん、ここでは争い事は御法度であります、その剣は取り敢えず預からせて貰うであります」


 周囲に気配が生まれた、何処からともなく小さいアラクネ達がワラワラやってくると、手にした剣を奪い取り、あっという間に去っていった。


「なっ!?」


「後でお返ししますんで安心して欲しいであります。どうぞ座って下さいであります」


「……」


 適当な席に無言で座る、害意は無いようだが……一体何を考えている?というか先程から何を作っているのか……匂いはそこからしているのだが。


「お客さんはこの店初めてなんで説明するであります。ここは料理を提供する屋台であります、定期的に営業してるであります」


 ……迷宮で屋台……?しかも魔族の暗殺者が?疑問がドンドン増えていく。


「商売なんでお代は頂くであります、人間相手には料金を上乗せしていますが、決まりなんでご容赦願いたいであります」


 成程、金は取るのか。料金の上乗せが気になるが……もう我慢出来ぬし仕方無いか。


「説明は以上であります、もう少しで出来るので待って欲しいであります、この水はサービスなんでどうぞ」


 グラスに注がれた水が置かれた、少しだけ口を付けるが毒は入っていなそうだ。空腹を紛らわすようにそれを飲む。さて何が出てくるのか……少し期待しながら待っていると、背後から気配を感じた。


「お、やってるやってる」


「や~腹減ったな~今日は何食えっかな」


 もしや冒険者か?そう思い振り替えると……入って来たのは頭が牛と馬の二人組だった、どう見ても魔族だ。空いてる席に座ると会話を始める。


「いらっしゃいであります」


「軍曹、今日は何だい?」


「牛丼であります」


「おお、いいね、こいつは楽しみだ」


 ……牛丼?聞いたことが無いな……一体どのような料理なのだろうか。

 私の腹はもう限界突破寸前まで来ていた、一刻も早く食いたい。

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