何でも言う事を聞く君(王子視点)
その頃ヨシュア王子は、久々の自由を謳歌していた。
視界の端に滑り込むピンクがいない。
確かに見た目は可愛らしいが、うっとおしい気持ちの方が大きかった。
学園にも一人で行き、何時ものように子爵令嬢であり今後妻にしようと思っているレミシアと寄り添って過ごす。
「ねぇ、本当に私が正妃になれるのですか?」
「なれるよ。実は昨夜公爵家の者が来てね。婚約解消をしたんだ。あとは彼女を側妃に、という話は本人にしてある。僕の言う事は昔から何でも聞く子だから、問題ないだろう」
レミシアの問いかけに、甘い笑顔を浮かべてヨシュアが応える。
礼儀作法も勉強も執務も、子爵令嬢のレミシアには荷が重い。
それは本人も分かっているところだ。
「でも、側妃がいるのは嫌だなぁ」
ぽつりと呟くレミシアの、細い肩をヨシュアは優しく抱き寄せた。
「正妃になって、リリアヴェルを側妃にしないとなると、君が彼女の仕事を引き受けなくてはならないよ?出来るかい?」
無理だと分かっていてヨシュアは、レミシアの美しい顔を覗き込む。
むっと唇を尖らせて、レミシアは噛みつくようにヨシュアに口づけた。
「無理。だって、大変だし、面倒だもの。私はヨシュアを癒す大事なお仕事があるでしょう?」
「ああ、そうだよ」
適材適所。
お馬鹿で賢いリリアヴェルは、今までも課題を与えれば与えただけ熟してきた。
ヨシュアもきちんと自分の執務はしていたが、面倒な調査や事前情報の収集、資料の整理などは文官達以外にもリリアヴェルを上手く利用してきたのだ。
仕事自体が面倒な時があれば、体調不良だと言えばリリアヴェルがやってくれる。
それに。
リリアヴェルが仕事を引き受ければ、周囲の人間たちもそれを支えようと力を尽くす。
普段から彼らと苦楽を共にしているリリアヴェルは、使用人からも民からも人気が高いのだ。
強かで要領の悪いレミシアは、ヨシュアの自尊心を満たすのにちょうどいい。
何も出来なくても顔と身体と、すこしばかり刺激的なその性格があれば、飽きる事はなかった。
恋人との逢瀬を楽しんで城へと帰る。
戻ってきているかもしれない、と注意深く辺りを見回すが、リリアヴェルの姿はちらとも見えなかった。
何時も何日か休みを申請しても、一日で戻ってくるのがリリアヴェルである。
今回は別れ際に「早く戻っておいで」と声をかけてやったのだから、戻ってきてもおかしくはないのに。
はて?とヨシュアは首を傾げる。
「まあ、明日になれば戻るだろう」
独り言を呟くが、果たしてその予想は大きく外れたのである。
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