妹よ、お前、チョロ過ぎやしないか?

「ああああああの、わ、わ、わたくし、男性と触れ合った経験が、なく、あの……心臓が壊れそうです……!」


ぷるぷると顔を真っ赤にするリリアヴェルを見下ろして、メグレンは思わず「ふはっ」っと笑った。

色気がある大人のメグレンの、少年のような快活な笑顔に、リリアヴェルの株はストップ高に到達する。


「それは光栄だな。君を躓かせた石に感謝をしないと」

「ま、まあ!それではわたくしの家宝にいたしますっ!」


とんでもない事を言い出して、早速石を探そうと地面に目を向けるリリアヴェルを見て、更にメグレンは楽しそうに笑った。


「いや、今は私を見てくれないか?折角の時間が勿体ない」

「あ、あ……でも、あの……あえぇえあ……」


顔が、いい!!!!!!!!!!!


もはやストップ高という上限を超えて、リリアヴェルはキラキラと輝くメグレンの顔に釘付けになっていた。

そんな甘い言葉をヨシュアから聞いた事は無い。

「私を追いかけるより勉学に励め。時間が勿体ないだろう」

と虫でも見るような目で見られた事ならある。


その時は確かにそれも美味しいご褒美だったのだが、もう思い出せなくなりつつあった。


「わ、わた、わたくしそんな風に優しいお言葉を頂いた事がなくて、あの……恋をしてしまうかもしれません……」


はい嘘!もう恋してます!!


でもそんな事はしたなくて言えないのである。

目を逸らせないまま言えば、少年のような笑みから一転、華やかに甘い優しさを込めた笑みをメグレンが浮かべた。


「それは嬉しいな」


もうわたくし、爆発するのではなくって!?


そうリリアヴェルが思う位に、頭がくらくらと熱を帯びていた。

今交わされた言葉は、きっと。

「婚約したいです……」

「結婚しよう」

と同じ意味なのではないか?とリリアヴェルは勝手に感じていた。


「おい、庭に出てくるまでどれだけかかってるんだよ」


庭の方からカインがひょっこり顔を出す。

胸に真っ赤な顔で寄り添うリリアヴェルと、手と腰に手をやって支える格好のメグレンを見て、カインは思わず呟いた。


「手が早い」

「いや、これは事故だ」

「運命の事故ですわ!」


男友達同士の軽口に、リリアヴェルが言い添える。

完全に堕ちていた。

カインはある意味チョロ過ぎる妹に、心配しつつメグレンを見れば。

メグレンもニコニコと幸せそうに微笑んでいる。


「正式な婚約は今日親父が戻ったらにしてくれ」

「いや、こちらも用意に時間がかかる。だから、申し込みはこの茶会の後に王城まで出向くことにする」


頭越しに交わされる会話を聞いて、リリアヴェルは歓喜に胸を震わせる。

妄想だけど、妄想じゃなかった!!!


善は急げというし、早く申し込んでほしいけれど、リリアヴェルは同じ位メグレンと離れたくないと思っていた。

力強い腕の感触も、頬を寄せた胸の感触も、全てが心地好い。

妙に大人しくしているリリアヴェルを見て、一応、というようにカインが確認する。


「お前も、異存は無いな?」

「はい!全くこれっぽっちもございません!」


昨日まであんなにべしょべしょと泣いたり落ち込んでいた妹が、今はすっかりメグレンの虜になっていて。

メグレンはカインにとっても親友であり尊敬できる相手であり、たまたま留学中だったから良かったけれど、下手をしたらリリアヴェルが顔が良いだけのヨシュア王子だけでなく他の男にホイホイと惚れたかもしれないと思うと、悪寒がする。


だが、まあ、結果良ければすべてよし!

一瞬でメグレンの虜になってしまったチョロい妹を半眼で見ながらも、カインは安心したように頷いた。

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