2-3

「相棒……」

 そんなことは、姉から聞いていない。しかし姉の『大丈夫』という言葉の意味はようやく分かった。信頼できる者がこの場にいると知っていたのだ。彼女なら、必ず私を助けに入ると。

「そ。あれ、というかフォスの妹ちゃんで合ってるよね?」

「あ、はい」

「よかった」ドニーさんは胸を撫で下ろす。「剣同じで顔同じで名字同じだから、まず間違いないとは思ったけど。よろしくね」

「よろしくお願いします」私は頭をぺこりと下げる。

「さあさ戻ろうか。疲れたでしょう」

 ドニーさんは私の肩を抱いて会館へ向かう。

 その前に。周りで見ていた人々――同僚ということになるのだろうか――が立ちはだかった。

「俺たちともどうだ。フォス・トイニムの妹」

 よく見れば真ん中にいるのは先程の男だ。ただ申し訳ないが今の模擬戦で体力は使い果たしているから相手はできないし、そもそも体力満タンだとしても遠慮したい。というかてっきり、ドニーさんとの戦いで、無様を見せたと思ったが、意外と実力を納得してもらえたのだろうか。

「どけ」

 再びドニーさんは冷たく言う。

「しばらく待ってる時間があんだろ。別にいいじゃねえか」

「じゃあ私がやってやるァ」

 二人は剣を抜いた。そうしてなぜか戦いだす。私は慌てて危険のない場所へ避難する。

『ツルギー、おつかれさま』姉が話しかけてきた。

「姉さん」私は腰を下ろして、そう口火を切った。

『言いたいことは分かっているよ、ごめんね、ドニーのこと言っていなくて。でも先入観なしで戦っているところが見たくて』



「私、どうだった?」



 それは。私がすぐにでも訊きたかったことだ。周りからの評価などどうでもいい。師たる姉が、どう評価してくれるか。周りの評価が悪くとも姉の評価が上々ならそれで大満足だし、周りの評価がよくとも姉の評価が低ければこれから更に、鍛錬を積むしかない。

『そうだね』姉は。『よかったと思うよ。特にドニーとの力比べで勝ったところは素晴らしい』

 私はパッと顔を明るくする。「ほんと――」

『ただし』姉は。『振りかぶりが大きすぎる。相手の剣の間合はもっと意識すること。力が入り過ぎてて動きが固くなっていたし、左から攻める切り替えはよかったけれど自分の右を開け過ぎ。私だったらそこを狙っていた』

「…………」

 全てその通りだと思った。やはり私はまだまだ姉には追いつけない。


『まあ、にしてはよくやったよ』

「……うん」


 私は喜びを表現するため、笑顔を作る。

「ツルギー・トイニムさん。査定結果が出ました」

 受付の人が、そう私を呼んだ。私は会館に戻り、ドニーさんたちも気づいてついてくる。

 受付にて、小さな木の板を渡される。

「組合員証です。なくさないで下さいね」まずそう言われ、「では査定結果です。ツルギー・トイニムさんは――


 ――星一つとよつ欠片かけです。これからよろしくお願いいたします」


 おおっと歓声が上がった。

星一つと四欠片いちよんっていうと、フォスが入った時と同じランクだ」

 ドニーさんの言葉で、歓声の意味が分かった。よく見ると、組合員証に綺麗な星が一つと少し欠けた星が一つ並んでつけられている。

「宿舎に案内しますのでこちらへどうぞ」受付の人の説明はそのまま続く。



 手続ならびに説明が全て終了した。

「明日の仕事を受注できますがどうされますか?」

「えっと……」

 突然言われて、どうしようかと考えるが、

「よし、私が見繕うよ」ドニーさんがそう言うので、私は「お願いします」と返す。

「じゃあコレだね」

 彼女が選んだのは――、と記されていた。


   ◎


「姉さん、なんでドニーさんのこと、教えてくれなかったの?」

 その日の夜。宿舎の部屋で、私は姉にそう質問した。

『え。ああ、わたしの知り合いだと分かったら、遠慮したり躊躇したりするかなと思って』

「なるほど」私は納得する。確かにそうなっていたかも知れないとは思う。何せ村とは違い、全く知らない人たちしかいないのである。間接的でも自分との繋がりがある人ならそれをたのみにしたくなるだろう。

『これからはいくらでも助けてもらうといいよ。ドニーのほうからも、そうしてくるだろうし』

「うん」

 私は頷いた。「そういえば、私が明日やる、街道巡回ってどういう仕事?」

『街道巡回か。懐かしい』姉の声は笑いを含んでいるようだった。『わたしも最初に受けた仕事がそうだったよ』

「それは、ドニーさんと?」

『ドニーと。まああの時はドニーも、組合に入って一年とかで、かなり尖っていたけれど』今も充分尖っていないか、とは敢えて言わないでおく。『いい思い出だよ。途中――いや、行ってからのお楽しみのほうがいいか』姉は意味深なことを言って話を終える。

「なに。出てくる動物?」

『そうだね』それ以上のことは姉は語らなかった。言った通りのにしろということだろう。少なくとも、猪は出ないでほしいと強く願う。

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