1,序章2

 窓からし込む朝日あさひに、僕はゆっくりとまぶたをひらく。朝のさわやかな日差しがなんとも心地よい。枕元まくらもとのデジタル時計は午前7時3分を刻んでいる。なんだか懐かしいゆめを見たような気がする。

 そんな気がするのだけど。だけど……

「なあ、いつまで僕の体にしがみついているつもりだ?きられないんだけど」

「ん、んみゅぅ……」

 義理ぎりの妹、高橋たかはしまいが僕の体にしがみついてぐっすりと眠っていた。いや、なんでだよ。いつも思うけど、どうして毎回僕のベッドに侵入してくるんだ?

 小柄で小顔な、短い黒髪に綺麗きれいなヒスイ色のひとみをした全体的にミニマムな少女だ。

 そのことからも分かる通り、彼女は母親が外人がいじんだ。確か、ヨーロッパけんの人だったか。まあ、それはともかく。舞は一向に目をまさずにかわいい寝言ねごとを返してくるだけだった。

 いや、それにしても寝言がかわいいな?そう思うけど、さすがにこのままじゃ起きることができないので、少しだけ強めに起こすことにする。

 すこし、強めに舞の体をゆする。ちなみに、舞は僕の片腕を枕代わりにしているため僕は自然ともう片方の手で舞の体をゆする。傍目はためから見たら、少しだけ危ない構図になるような気がする。けどまあ、そうも言ってはいられないだろう。

「舞?ほら、舞?そろそろ目をまさないと……ほら、」

「んんぅ……義兄にいさんのエッチ」

「いや、なんで?さすがに僕はわるくないよね?」

 困惑こんわくする僕に、義理の妹は蠱惑的こわくてきな笑みで僕を見つめる。

「ふふっ、義兄さん私をそんなに強くきしめて。心配しなくても私はもう義兄にいさんのものだよ?」

「さすがに暴論ぼうろんすぎる!義理とはいえあにのベッドにもぐりこんできて、さすがにそれはやめてよね⁉」

「……むぅ、義兄さんがつれない」

「まったく……義理の妹は本当にかわいいなちくしょう」

 そう言い、僕は深々ふかぶかとため息をついた。もちろん皮肉ひにくだ。さすがに義理とはいえ妹相手に発情はつじょうなんかしない。

 それに……

 僕は、そっと脳裏のうりに一人の少女を思い浮かべた。それが気に食わなかったのか、舞は少しだけ不機嫌ふきげんな表情をかべた。

「……やっぱり、義兄さんは今でもあの女のことがきなの?」

 あの女、というのは僕の初恋はつこいの少女のことだ。僕がすべてを失って、すべてに絶望ぜつぼうしていた時に僕をすくってくれた少女。

 僕はあれからあの少女のことが大好だいすきなのだ。

「ああ、大好きだよ。もうべたれさ」

「むぅっ、義兄にいさんなんかもうらない」

 そう言って、舞はそのままベッドからりて部屋から出ようとする。しかし、それを僕は半身はんしんだけ起こしてび止めた。

「待て、舞」

「なによ、義兄さんはその女のことが好きなんでしょ?だったら、」

「確かに、僕は彼女のことが大好きだ。それだけは絶対にわらない。けど、それでも舞は僕の義妹だ。義理とはいえ妹なんだ」

「?」

「だからさ、舞がこうしてあまえてくれるのは、僕としてはうれしいんだよ」

「っ⁉ふふ、ありがとう義兄にいさん♪」

 そう言って、舞はそのまま機嫌をなおしてそのまま部屋を出て行った。ふぅ、やれやれ義兄はつらいね。

 そう、心の中でふかくため息をついた。まあ、別にさっきの言葉にうそはないけどさ。

        ・・・ ・・・ ・・・

 衣服を着替きがえ、部屋を出ると僕は洗面所せんめんじょに向かった。そこには既に、義父の高橋たかはしすばるが顔を洗っているところだった。

 高橋昴、黒髪に黒い瞳をしたやさしげな顔の純日本人。そこまで筋肉質というわけでもないけど、別段太っているわけでもない。背はそこそこに高いほうだろう。

 彼は、僕の両親の親友しんゆうだったらしい。らしい、というのは僕自身昴さんに保護されるまでったことがなかったからだ。けど、どうやら昴さんは僕のことを知っていたらしく、両親からもし何かあった場合ばあいは僕のことをよろしくと言われていたらしい。

 というのも、昴さんはそこそこ腕の立つ医者いしゃだからだ。僕は昴さんのことをよく知らなかったけど、僕の両親は昴さんのことをかなり前からよくたよっていたらしい。

 それから、昴さんが僕の両親と同期どうきだったとは信じられないくらいに童顔どうがんだったことも信じられない要因よういんの一つではあった。

「ああ、晴斗はるとくんですか。もうきたんですか?」

「ええ、なかなか刺激的しげきてきな朝でした」

「?ああ、舞ですか。舞も晴斗くんのことをいているんですよ」

「うんまあ、それは重々理解していますけど。理解はしていますけど、うん」

「あはは、舞はかなりぐいぐいと好意こうい前面ぜんめんに出してきますからね。でもまあ、そこは母親似ははおやにじゃないですかね?」

 母親もあんな感じなのか……

 うん、まあさすがにあれだけ熱烈ねつれつに好意を前面に出されればね。さすがの僕でも気づくだろうと思うけど。うん、本当にやれやれだ。

 そんな僕に、昴さんは苦笑くしょうを向けてくる。うん、やっぱり昴さんはい人だ。こうして僕の気持ちをしっかりと慮ってくれる。昴さんからしたら、実の娘がどこぞの馬の骨に好意を全開ぜんかいしている状況だろうに。

 でも、それは敢えて言わない。そんなこと、僕と昴さんの間では言うまでもないことだから。

「じゃあ、僕はそろそろ朝食ちょうしょくに向かいますから。晴斗くんも顔を洗ってうがいを済ませてからリビングにきてくださいね?」

「はい」

 そう言って、昴さんは洗面所を出ていった。そのまま、僕は洗顔せんがんとうがいを済ませてからリビングに向かった。ちなみに、この家は昴さんと舞、それから僕の3人だけだ。舞の母親は、つまり昴さんの妻は舞をんですぐにくなったらしい。

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