第11話
1990年頃。
これは、ジャングルジムから落ちて膝を開放骨折したまま行方不明になった女児の家族の後日談となる。
数年後、夫婦に子どもが男の子が生まれた。
夫婦がようやく悲しみから立ち直り、子どもを設けようと決意するまでにはかなりの葛藤と苦悩があった。何度となく離婚話が出たし、どちらも子どもがいなくなった場所から引越したがっていた。
男の子が生まれた頃、団地内で膝を怪我した女の子の霊が目撃されるようになっていた。
その子は膝から骨がはみ出している。
このことは母親と警察しか知らない事実だった。
下半身は血だらけということだった。
そんな状態で無事だった右足でけんけんをしながら、団地の敷地内を移動したり、建物の内階段を登ったりするということだった。何号棟の階段で夜中足音がするから見てみたら、女の子が片足で階段を登っていたという話もあった。
「きっと子どもたちが面白おかしく言いふらしてるのよ」
「あの子は生きてるかもしれないんだし」
「妖怪みたいに言って腹が立つわ」
「まるで唐笠おばけみたいじゃない。本当に残酷ね」
母親は悔しがって泣いた。人の気も知らないで、みんなで事故のことを面白おかしく笑い話にしているのだ。
娘の名前はすっかり有名になっていて、何年経っても、マスコミで取り上げられていたし、全国規模での有名人だった。わざわざ現場を見に来るやじ馬もいた。
それでも、女は幸せだった。次に生まれた男の子と新たな生活を送っていたからだ。その子は、見た目がよかったし、性格も人懐っこく、家庭は一気に明るくなった。以前は家庭を顧みなかった旦那も優しくなって、週末は飲みに行くよりも家族で過ごすようになった。まるで人が変わったように思いやりのある人になり、仕事面では役職が付いて収入も増えた。すべてが順調だった。娘のことを思い出すことはほとんどなかった。
ある日、女は子どもを公園に連れて行った。あの忌まわしいジャングルジムには登らないようにと常々言っていたが、女が目を離している隙に、男の子が一人で登ってしまった。
そして、足を滑らせて転落してしまった。
両足で着地したので、膝に強い衝撃がかかってしまった。
女はその現場を目撃して悲鳴を上げた。
その時も、子どもの膝から骨が見えていた。
そこをたまたま通りかかった男性がいた。白衣を着て、黒い革の鞄を持っていた。
「これは酷い。僕は医者です。奥さん、救急車を呼んで来てください」
「いいえ。あなたが呼んで来てください」女は言い張った。そこで何分か押し問答があった。
「私はここでこの子を見てます。応急処置をしなくちゃ!」
「またこの子を連れて行ってしまうと困りますから」
「はあ?」
「そう言って、娘を連れていったじゃない」
「いいんですか?放って置いたら静菌感染して足を切断することになりますよ」
「それでも、お願いします」
男は立ち去った。しかし、いつまでも戻って来なかった。
男の子は最終的に組織が壊死してしまい、膝下を切断することになったということである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます