第4話
「子どもさん、何歳?」運転手は心配そうに尋ねた。きっと孫が同じくらいなのだろうと女は想像した。いい人なんだろう。うちの親とは大違いだ。
「5歳です」
「5歳?そりゃかわいそうだ。今どうしてんの?誰か兄弟とかが見てくれてんの?」
「いいえ。うちは一人っ子なので…」
「じゃあ、公園にいるお母さんとかが見てくれてんの?」
「いいえ。たまたまお医者さんが通りかかって…」
「知ってる人?」
「いいえ」
「その人本当に医者なの?」
「はい。診療用の鞄を持ってて」
「奥さん、知らない人に子ども任したりしたらだめだよ!娘さん女の子?」
「はい」
「危ないよ。知らない人に子ども預けたりしたら。何されるかわかんないからね。絶対だめだ」運転手は女を責めた。
「物騒な事件もあるから…まだ捕まってないよね。何年か前に小さい女の子が誘拐されて…」
女は運転手に心の中で反発した。何で私が怒られなきゃいけないんだ。私の目に狂いがあるはずがない。私は人を見る目はあるんだ。でも、運転手の言葉には愛情があった気がした。
「怖いですね。気を付けます」
女は一応同意した。『そう言えば犯人見つかってなかった…。あの子が誘拐されればいいのに。そしたら…。次はもっと顔のいい人と結婚して、かわいい子どもを産めばいい。
『あそこです』
左手に公園が見えた来た。小学生くらいの子どもたちが4から5人くらい普通に遊んでいる。女はその中に自分の子どもがいるような気さえした。「ちょっと待ってください」女はタクシーを降りた。ジャングルジムの方を見ても誰もいない。錆びついた遊具がいくつかあって、木が何本か植えられていた。
殺風景な公園だからすぐに見渡せるのだが、そこにはあの医者も娘もいなかった。ジャングルジムの下に血だまりだけが残っていた。
どうして?
あの人が〇子を連れ去ってしまったんだ。
また騙された。
女は膝から崩れ落ちた。
「奥さん、大丈夫?」
さっきの運転手がタクシーから降りて、慌てて走って来た。膝が悪いのか不格好な走り方だった。女を抱きかかえようとわきの下に手をかけると、女はわなわなと震えながら声を上げた。
「子どもがいない」
女は力なく運転手の腕に倒れ掛かった。顔を見ると女は目を閉じて失神していた。ぷんと嫌なにおいがして、失禁してしまったのがわかった。こりゃ、大ごとだ。運転手は真っ青になった。
「おーい。ちょっと、みんなこっち来て」
運転手はそこにいた子どもたちを大声で呼んだ。子どもたちは、全員が小学校低学年くらいの男子だったのだが、女の人が倒れているのに気が付くと、わくわくしながら駆け寄って来た。
「さっき、ここに子どもが倒れてなかった?5歳くらいの女の子だって言うんだけど」
「ううん。さっき来た時は誰もいなかった」
「途中で誰かとすれ違わなかった。足を怪我してる女の子とか…」
「ううん」
「みんな、何時頃来たの?」
「ちょっと前」
子どもは公園にあった時計を見上げて行った。
「10分くらい前」
「救急車来なかった?救急車来たらサイレンでわかるだろ?」
「来ないよ」
「ちょっとこの人見ててくれない?おじさん今から警察呼んでもらうから」
子どもたちは嬉々として、「この人どうしたの?〇んでるの?」
「気絶してるだけだよ」
「誰か家が近い人がいたら、大人の人呼んで来てもらって」
「うん」
男の子がすぐに駆け出した。その後をもう一人ついて行く。運転手は子どもに女を任せてタクシーの車両に戻った。無線機のレシーバーを取ると言った。
「こちら〇〇〇号車。本部応答願います」
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