第6話

  八月になった。雄一が奄美に来て、一年が経過しようとしている。早いものである。初めての離島暮らしで、しかも単身赴任と言う未経験な生活に、どう対応して良いか不安であったが、今では、楽しく、充実した日々を過ごしている。

 これからは気温の高い毎日が続く。体調だけは気にしなくてはいけない。昨年はアパ-トに入居して、部屋の気温が四十度の目盛りを指しているのを見て、驚いたものである。鉄筋コンクリート造りの最上階の四階の部屋であったので、屋上まで、何度も水をバケツに汲んで運んで、きに上がって行ったのが思い出されるのだった。

 でも、それも余り効果はなかった。ただ、屋上に干した洗濯物は良く乾いた。

 店休日に店長の米谷よねやさんから、海に泳ぎに行こうと誘われた。いつものメンバ-が集まった。衣料品のレディス担当の吉川課長、鮮魚担当の脇川課長、野菜・果物担当の八谷課長、精肉担当の村田課長と雄一であった。店長がマイクロバスのレンタカーを借りていた。瀬戸内町せとうちちょうの『スリ浜海水浴場』まで行くらしい。

 飲み物、つまみ、おにぎり等も準備されていた。流石さすがは遊び好きの米谷店長である。抜かりが無い。

 米谷店長も取り巻き課長たちと居る時が、一番リラックスできるようであった。

 雄一は海水パンツを持って来ていなかった。鮮魚の脇川課長もそうだった。それで二人は、荷物の監視役をしながら、もっぱら飲むことに専念することにしたのである。他の課長と店長は、海に入って泳ぎ出した。

 空は真っ青で、何処までも高く、目の前に広がる海はコバルト色であった。浜辺の後ろには、新緑色の葉を茂らした椰子やしの木が海風うみかぜにそよいでいた。実もたわわになっていた。まさに南国である。


 昼前に、「こんにちわ!」と微笑みながら若い女性が近づいてきた。良く見ると、店長と雄一たちの今日のメンバーが飲みに行くスナックの女性たちであった。

 店長が呼んだのだ。二人の女性が入って、賑やかになり、華やいできた。店長のやる事には卒がない。雄一は感心したのである。

 脇山課長が雄一の耳に顔を近づけて呟いたのである。

「次長、あれは店長の女ですよ!」と。雄一は

「えっ、そうなの?」と改めて、その女性を見直したのだった。店では源氏名げんじなで、【蘭子らんこ】と呼ばれている女性であった。もう一人の女性は、源氏名を百合子ゆりこと言った。店の名前が花園なので、皆、花の名前であった。

 奄美の太陽を全身に浴びて、きれいな海で泳ぎ、真っ白な砂浜で酒盛りをした。

 本当に楽しい休日であった。帰りは代行運転を契約していたのである。

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単身赴任 本庄 楠 (ほんじょう くすのき) @39retorochan

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