第5話

 五月になった。奄美の五月は雄一にとっては初めてであった。天気は晴れた日が多く、島に来てから一番快適な毎日であった。

 ゴ-ルデンウイ-クに、家族が奄美に観光に行きたいと言ってきた。明美も来年は高校受験なので、今年は少しだけ遊びたいらしい。

 予定としては、五月二日に奄美に来て、四日の昼には福岡に帰るスケジュールを組んでも良いかとの事であった。

 雄一は困った。小売業にとっては、この時期は一番の稼ぎ時である。来ても良いが相手は出来そうに無かった。それでも一応、駄目もとで店長に相談してみたのである。そしたら店長は「岡谷次長。折角ご家族が見えるのだ。有給休暇を取って島を案内してあげなさい」とあっさりと有給休暇の許可を出してくれたのである。

 彼は、有給休暇を利用して、妻と娘を迎えることができたのである。二人は予定通りに二日の昼過ぎに奄美大島に到着した。

 案内すると言っても、三日の日一日だけである。雄一は知人に頼んで、奄美タクシ-を一台貸切って、観光をすることにした。料金は二万五千円だった。これなら効率的に島を廻れると思ったからである。

 当日は、朝九時から十七時まで、観光付きのタクシーで、車で廻れるスポットを親子三人で観光した。名瀬市では、奄美博物館で、【田中一村たなかいっそん】遺作展を観て、ハブセンタ-で、ハブとマング-スの戦いを見物して、その後、半潜水船はんせんすいせん【ニュ-オリンピア号】に乗って、奄美の海底遊覧を楽しんだ。これは船底から海が観える遊覧船である。平有盛たいらのありもり神社にも参拝した。これは源平合戦で敗れた平家の落ち武者の武将を祀った神社との事。

 龍郷町たつごうちょうでは、蘇鉄そてつ群生地を見学した。更に、西郷南洲(隆盛)が蟄居ちっきょしていたと言う家にも上がった。そして、大島紬おおしまつむぎ村では、紬の出来る工程を見せて貰った。

 笠利町かさりちょうに入って、あやまる岬に立って、その景観に感動した。

 かなりハードなスケジュールではあったが、由美子も明美も楽しんでいた。アパ-トには、夕方五時過ぎに帰って来た。

 夕食は勝浦食堂で食べた。店主には昨日から連絡していたので、いろいろ料理を用意して呉れていた。雄一は、由美子と明美を食堂の家族に紹介したのである。

「いつも主人がお世話になっておりますそうで、有難うございます」由美子は博多から持って来た『通りもん』のお菓子を奥さんにお土産として差し上げた。

「まあ、わざわざ済みません。有難うございます」

 そこへ、慎之介が奥から走って来た。「おっす!」と声を掛けて雄一は、いつもの様に慎之介の頭を撫でたのである。

 食事を終えて、帰る時に、奥さんが時計草をもってきて、由美子に手渡した。由美子が欲しがっていたのである。持って帰って家に植えたいらしい。

 翌日の午前中の便で由美子と明美は帰って行った。

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