ダンジョン配信をしてみたかっただけなのに
早緑いろは
ダンジョン配信をしてみたかっただけなのに
日本各地に突然ダンジョンが生まれ、街は混乱した。まあ、なんやかんやあり、今やダンジョン配信に動画配信者がほぼ毎日訪れるスポットと化した。順応性が高いのが、我が国の良いところである。
俺も、あまりに流行ってるのでじゃあ興味本位で行ってみよう、と思い立った。とはいえ大帝のダンジョンはすでに何人も言っていて面白みがない。ある意味安全である、と保証されてはいるのだが。
しかし俺はあまのじゃく。唯一先駆者がいない、T駅近くにできたダンジョンに行こう、と思い立った。これは、単に家から一番近いという馬鹿みたいな理由もあるのだが。
昔はビデオとか使う必要があって数人で組む必要があったが、スマートフォンのおかげで一人でも行ける。文明の利器はありがたい。
しかし配信はともかく、ダンジョン内部での備えとして、日帰り登山に行く程度の装備はしておいた。数年前に事故で骨折してから行っていないが、もろもろ残していたから準備が楽だった。壊れていたコンパスとサバイバルナイフを買い足して、消耗品を補充するくらいで事足りた。ザックも靴も壊れていない。さて、いざ出発だ。……恰好的には、高尾山とかにハイキングへ向かう人っぽい気はするが。
しかしダンジョン配信が流行ってるだけあり、俺みたいな恰好のやつは電車の中でちらほら見かけた。しかし降りる駅は違った。普通に登山かな?なんか恥ずかしい。
俺は初参戦なので、前の人についていくように歩いた。しかし前に歩いていたのは女子大生くらいの、かわいい女の子だったので、かなり距離を取った。ちょっと前に流行った山ガール風のファッションに身を包んでいる。こんなアラフォーのおっさんが近寄ったら怖がらせてしまうからな。それにあらぬ疑いで人生詰みたくないし。
しかし、どうも動画配信でやたら人が来過ぎた弊害らしい。ダンジョンの入り口には、神社にあるしめ縄みたいなのが吊るされて、立ち入り禁止の看板が立っていた。ここまで来てそりゃないぜカミサマ。
前を歩いていた女の子も、がっかりした様子で仕方ないから箱根行くか、と言い出した。高尾山じゃなくて箱根を選ぶのは、観光地ブランドか?高尾山も温泉があっていいところだぞ。
俺もそれならと、踵を返した時だ。後ろでぎゃはは、と品のない笑い声が聞こえてきた。振り返ると、これまた大学生か社会人なりたてくらいの若人が、しめ縄をちょん切ったうえ、看板を破壊していた。こいつら常識とかないのか?
警察を呼ぶか、と110を押して通話ボタンを押す。一瞬、女のオペレーターの声が聞こえたが、通話はぶつんと途切れた。なんでだ、と思いスマホを離す。すると、何となくさっきより暗くなっているように思えた。恐る恐る見上げると、黒々とした大きな影が、そこを覆っていた。完全に陽を覆ってしまって、何の姿かわからない。とりあえずやべーやつだというのはわかる。命に関わるやつだ。
「人間はいつまでも愚かだな」
なんだその、上位存在みたいなセリフ!いや多分そういうやつなんだろうけどさ!俺はあまりのことに何も言えなかった。え、ダンジョンじゃなくてあれ祠的な奴だったんですか?それ壊しちゃったからお宅が出てきたの?おいおい、勘弁してくれよ。俺が持ってるの、新品のサバイバルナイフくらいだよ。
神様とかならなんか備えたら鎮まってくれるかな。そう思ったが、俺はその祠を壊したやつらの末路を見て絶叫した。奴らは全員、まるで水分を抜かれたように干上がった姿で、道路に横たわっていた。さっきまでの騒がしさはかけらもない。まじかー、怒らせちゃダメな奴じゃん。
「お前は、その
命が惜しいので俺は素直に従った。行動食に持ってきた握り飯と果物、それからお茶。それをひとまずダンジョンの入り口において、手を合わせた。すいません、勘弁してください。命だけは助けてください。俺まだ生きてたいです。
「果物もくれたから、ちゃんと家まで帰してやる。でも、私のことは広めるなよ」
「……あの、あなたはいったい」
「こんなふうに出る予定ではなかった。気分よく寝ていたのに汚い声で起こされたから腹が立った」
質問の答えにはなってないが、あの末路の理由は語ってくれた。まあそうだよな。祠壊しは大罪だ。とりあえずこの影はカミサマとかの類と納得した。俺は顔をまともにあげれないまま、帰路についた。
ゴトッ、という音がして、目が覚めた。間抜けにも俺がベッドから落ちたのだ。……どこから夢だ?ひとまず、ダンジョンが突如現れたところは現実だ。配信が流行っているのも。だが、ひとまずあのダンジョンがどうこうというのは、特にネットニュースになっていない。
俺は、恐る恐るザックの中身を検分した。山登りをしていないのに、床に置いてある時点でおかしいという事実には目をつぶった。タオル、救急セット、ヘッドライト、モバイルバッテリー。この辺りは、もともと持っていた。だが、検分するうちに、さっきのは夢じゃなく現実だという気持ちが強くなった。
コンパスと、サバイバルナイフが新品だ。どっと汗が出てきた。背中が濡れて気持ち悪い。
とりあえず今日が日曜日で助かった。こんな気分で仕事に行きたくない。ひとまずテレビでも、と電源を付けた。ニュース番組だ。真面目な顔でアナウンサーが原稿を読んでいる。朝からご苦労だなあ、と考えながら見ていた時だ。
「先日、T駅付近に出現したダンジョンですが、何者かによって封印がとかれ、中の魔物が飛び出したそうです。魔物は言葉を解し、食べ物を持ってくるなら今は何もしない、と言っているとのことです。現在、政府は対策チームの設立を……」
魔物でいいのか、あれは。まあ、政府が動くなら近寄れなくなるな。のん気に構えていたら、今日日誰も鳴らさない固定電話が鳴った。なんだよ、と思いながら、自動応答ボタンを押した。これを押しておくと、自動音声が何者か尋ねてくれる。クソ迷惑なセールスはこれが出た時点で切る。便利な時代だ。
今回は、その手の電話ではないらしい。2コールくらいなった辺りで、女の声が聞こえてきた。いかにも仕事ができそうな感じの。
「わたくし、内閣府ダンジョン対策室の
そう言って、電話は切れた。どうも留守番につながったと解釈されたらしい。よく俺のことがわかったな。ダンジョン対策室ってなんかできたらしい、とは聞いたことがあるが、そんなところから電話がかかってくるって。これ普通なら対策室に仲間入りしてモンスター退治の流れなんだろうが、そういう感じじゃないよな。そもそも俺、アラフォーよ?そんな体力ないよ。
しかし、脳内でガキの頃の俺が、すげー、面白そうとはしゃぎだした。そう、状況的には結構面白い気がする。面白いとか言っていいのかよくわからんけども。あのカミサマがやべー奴なら、生贄にされるかもしれないんだぞ?
だが、結局俺は面白そう、という己の声に負けた。一応番号を検索して、実際に省庁の電話らしいということを確かめる。リダイヤルして繋がるのを待つ。いったいこれからどうなるんだ、という不安と期待がごちゃ混ぜの気持ちのまま、電話を架けてきたスエナガさんを呼び出した。
ダンジョン配信をしてみたかっただけなのに 早緑いろは @iroha_samidori
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