第4話 先輩転移者
中年男性の言葉を聞き一瞬息を飲んで思考が止まった二人だったが、月夜のほうが先にハッと再起動して聞き返す。
「あの…… もしかして、おじさんも?」
「あ、やっぱりね。 うん、そうだよ、僕も日本人の転移者」
それを聞いて月夜は全身の力が抜けるような気がした。助かった……と、心の底からそう思った。
「心細かったよねぇ。 信じてくれるかどうか分かんないけど、安心して。 とりあえず中に入って落ち着こう」
そう言って男性は中を手で指し示して促しながら立て掛けてあった扉のノブに手を掛ける。陽太が破壊し、月夜が偽装した扉は男性が少し力を加えるとグラッと傾きバタンッ!と音を立てて地面に倒れた。
サッと月夜と陽太の顔から血の気が引いた。今からお世話になろうとしている人の家を壊したのだ。しかし男性は「ああああっ!」と倒れいく扉を追いかけるように腰を屈めると「あ~あ、ついに壊れたかぁ」と呟きながら扉を手にし、壁に立て掛ける。
「ごめんごめん、驚かしちゃって。 さ、入って入って」
ニコニコとしている男性を見て、バレてないとホッとした二人だったが心の中で、後でちゃんと直そうと誓うのだった。
通された家の中は、外観からの想像通りに貧しそうだった。部屋に案内された二人は「ささ、座って座って」と言われるままに椅子に腰かける。男性は「おーい、お客さんに飲み物をー!」と奥に向かって声をかけていた。「はーい」と綺麗な声で返事が帰ってくる。
「ごめんね~、ボロくて汚いところで」
「あ、いえ、そんなことないです」
「僕は、
「はい。 あ、わたしは影山月夜です」
「俺……あ、僕は日野陽太です」
「月夜ちゃんに陽太くんね。 緊張したり畏まったりしなくて大丈夫だよ。たぶん三人だけの同郷人だ。仲よくしよう」
「「はい」」
自己紹介が済んだところで部屋にお盆を持った女性が入ってきた。その女性を見て月夜は思わず「わっ」と小さく声が出てしまった。
長身の、まるでモデルのようにスタイルのいい金髪の美しい女性であった。そしてその彼女の耳を見て月夜は、エルフだ……とちょっと感動していた。
「お水しかなくて」
ニコリと笑顔でエルフの女性はそれぞれの前に木のコップに入った水を置いていく。
「あ、ありがとうございます」
月夜と陽太が驚いた表情でエルフの動きを追っていると海斗は「妻のアルフォンシーナです」と紹介した。アルフォンシーナはニコっとしてペコリと頭を下げ、海斗の横に座った。
陽太と月夜は驚いて二人を何度も見比べる。その行動も失礼だが心の中でも、こんな冴えない中年と美人エルフが??と、かなり失礼なことを思う。
「アルフォンシーナ、僕の同郷人の陽太くんと月夜ちゃんだ。 あ、そうそう、ごめんよアルフォンシーナ、玄関の扉を壊してしまったんだ」
ビクッと陽太と月夜の肩が同時に跳ねた。
「まぁ、たいへん! も~、あなたったら、おっちょこちょいなんだからぁ♡」
”たいへん”と言いつつそうでもなさそうに、アルフォンシーナは海斗の頬をツンツンとつついて「ふふふ」と微笑む。海斗は海斗で美人妻に頬をつつかれてデレデレしていた。
何を見せられてるんだろう?と思いながら月夜は「あの……」と声をかける。
「あぁ、ごめんごめん。 妻は僕のこと転移者って知ってるからこのまま話を進めるよ。あ、でも転移者って他には言わないほうがいいよ」
それは何となく想像つくなと、月夜は「はい」と頷く。言って得になるようなことは無いはずだ。トラブルの種になりそうだし。
「不安だったでしょ? 汚いところだけど、しばらくここに住んでもいいからね。そのためにココを立ち上げたようなもんだから」
「ココって、冒険者ギルド……ですか?」
「そうそう。僕みたいに転移してくる人がいたときの助けになろうと思ってね。 もし突然見知らぬ土地に飛ばされたとしてさ、何のあてもなければ真っ先に探すのって冒険者ギルドでしょ?」
「いやいや! 普通そんな馬鹿なこと考え――」
言いかけてハッとした。月夜は頭を抱え、居た!ここに居た!と恥ずかしさで真っ赤になって顔を伏せた。
「僕も転移して二十四、五年くらいかな? 二十三歳のときだった。 随分苦労してねぇ…… 何せチート能力どころか魔法も使えなかったからなぁ。 あの時、こういう場所があったらよかったなぁって。 あとやっぱり異世界には冒険者ギルドがないとね、異世界って感じしないでしょ?」
「ですよね!」
陽太が海斗に激しく同意していると、顔を上げた月夜は「……助かりました」と海斗に礼を言う。
「すみませんが、お世話になります。 あの、何もせずお世話になるのも駄目だと思うので働かせてもらうことできますか?」
「おぉ! 冒険者になってくれるの!? 月夜ちゃんはいい子だねぇ。 でも仕事かぁ……」
「いえ、冒険者というか、ギルドの受付とか……」
「受付かぁ……」
「え? 駄目ですか?問題でも……?」
「いや~、受付必要なほどお客さん居ると思うかい?」
言われて月夜は部屋の中を見渡す。ボロボロで壁には穴が開き、今まであまり気にしていなかったが隙間風も吹いている。
「……ごめんなさい」
なんか申し訳なくて謝った月夜に海斗は「いやいや、謝らないで!」と慌てた。
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せっかくだから、異世界を楽しみましょう!! 弥次郎衛門 @yajiroemon
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