第3話 あるよ
「凄いよ、ツクちゃん! 異世界だよ!アニメみたいだ!」
陽太が興奮してはしゃぎ始めた。そういえば、ヨーちゃんもこういうアニメや漫画好きだったなと月夜は思い出す。しかし陽太の興奮をよそに不安のほうが
急に大声を出した陽太に周囲の視線が一瞬向かう。それに気が付いた月夜は陽太の手を引いて建物の陰に隠れると「落ち着いて、お願いだから落ち着いてヨーちゃん」と言い、月夜の剣幕に少し冷静さを取り戻した陽太は「わ、わかったよ、ツクちゃん」と言って大きく深呼吸した。
「ね、ねぇ…… ここが異世界だとして…… 多分そうなんだろうけど、異世界だとしてこれからどうするの?」
「ど、どうするって……? えっと……冒険者ギルド探すとか?」
陽太の答えに月夜は顔を真っ赤にして激高する。
「ふざけないでよっ!! あるわけないでしょっ!! 馬鹿なこと言わないで!!」
「ご、ごめん……」
ペタンと腰を落とし、月夜は「もっとちゃんと考えてよ、ヨーちゃん……」と泣きそうな声で呟いた。
「あ~…… でもさ、実際のとこソレくらいしか思いつかなくて…… ちょっと聞いてみるだけ試してみてもいいんじゃない?」
もう勝手にしてと、諦めた月夜は陽太の提案に黙ったまま。陽太も返事が返ってくる様子がないので諦めて人通りのほうへ歩いていく。
そもそも言葉が通じるのか?と思いながら月夜は陽太の動きを追う。
陽太は通りすがりの、見た目が人間と思われる人物に声をかける。身振り手振りで説明しているようだが、問いかけられた人物は申し訳なさそうに首を横に振っている。
成立していそうな陽太の様子を見て、言葉通じるんだ、と月夜は驚きながらも見守る。
その後も陽太は道行く人々に声をかけ続ける。二人、三人と、次々と首を振って去っていくのを見て月夜は、あるわけないじゃんと少し冷めた気持ちでいた。
しかし声をかけたのが六人くらいになったとき「えっ!」という陽太の声が月夜のところまで聞こえた。問われていた通行人は指さして道案内をしているように見える。
ペコリと通行人に頭を下げた陽太は「ツクちゃん!」と笑顔で振り返って「あるって! 冒険者ギルド!」と嬉しそうに言った。
「あるのっ??!!」
思わず叫んでしまった月夜の許に駆け足で戻って来た陽太は「この道を行って路地に入ったところだって」と嬉しそうに説明する。
「これならもしかしてチートスキルとかもあったりして。 もう授かってるかな?」
調子のいいことを言いながら陽太は歩き始めた。その陽太に月夜は、本当にあるんだ冒険者ギルド……と、呆然としながらついて行く。
陽太は歩きながら右手を前に出し、「何か出ないかなぁ?」と言って「む~……」と手に力を籠めているよう。ハッとした月夜は慌てて陽太の腕を掴んで下げさせる。
「ちょ、ちょっと! ホントに何か出たらそうするの?! 町中だよ、ここ!」
顔色を変えて止める月夜を見て陽太はニッと笑う。
「ツクちゃんも意外とこういうの信じてるんだ?」
図星を突かれた月夜は目を見開いて顔を真っ赤にさせた。
「だ、だって…… 異世界に来て、冒険者ギルドまであって…… アニメじゃないって、ホントのことだって分かっててもちょっとは…… ねぇ?」
恥ずかしそうな月夜を見て陽太は「ぷぷっ」と吹き出した。
「そういえば子供の頃、結構こういうの好きだったね。 なんだっけ?ツクちゃんは魔法使いになりたかったんだっけ? えっと……魔女っ子ツク――」
小学校低学年の頃の黒歴史をほじくり返されそうになった月夜はつま先で陽太の脛を蹴り飛ばした。「いってぇっ!!」と陽太は悲鳴を上げて飛び上がった。
「ねぇ…… ここ?」
月夜は目の前のあばら家を見て陽太に聞いた。
「た、たぶん…… 言われたとおりに来たから」
あばら家の扉は傾き、ちょっと隙間が出来ている。見上げれば看板らしきものが掛かっているが異世界の文字らしく二人には読むことが出来ない。その看板も傾いていた。
「入る? わたしは何か嫌だなぁ……」
「でも他に行く当てないし。 とりあえず入ってみようよ」
こういうとき男の子って凄いなぁ、度胸あるなぁ、なんて思いながら月夜は陽太を見守る。陽太は扉のノブに手を掛けるとグッと引いた。
「ん? 引き?押し?どっちだ??」
そこそこ力を入れて引いても押しても扉は動かない。思い切って力を籠めて引いたらバキッ!と音を立てて扉が外れてしまった。
「ちょっ!! ヨーちゃん!」
「あっ、やっべ」
月夜は慌てて扉を開けた状態で壊れていないような感じを出してソレっぽく立て掛けた。その時、あばら家の奥から声がした。
「おっ! お客さん?」
ビクッとした月夜と陽太は慌てて扉から数歩離れた。そこへ、奥からにこやかな笑顔の男が顔を出した。
額から頭頂部に向かって寂しくなりそれでも側面と後頭部は必死に耐えている、でっぷりとお腹が出た中年男性だった。
驚いて直立不動な二人の前に出た男性は「おや?」と目を丸くし、二人をまじまじと見ると口を開いた。
「君たち、日本人?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます