第2話 異世界だ
「ヨーちゃん! ヨーちゃん、起きて! ねぇ!」
気が付いた陽太は薄っすらと目を開ける。視線の先には真っ青な顔に涙目の月夜の姿がある。必死になって陽太の体を揺らしていた。
「な、なに? ツクちゃん?」
上体を起こしながら、あれ?雨は?下校途中じゃなかったっけ?と陽太は記憶を探る。しかしはっきりと何が起こったかを理解する前に、体を起こした彼の目に映ったのは日の光が眩しい緑豊かな大地だった。
「あ、あれ? どこ?」
こんなところ近所にあったっけ?と混乱し始めた陽太を揺すり、「あれ! あ、あれ!」と月夜は陽太が見ていつ方角とは違う方を指さす。
彼女が指さす先には城壁に囲まれた町並みがある。どうやら二人は丘の上から町を見下ろす位置にいるようだった。
「ね、ねぇヨーちゃん…… なに? なにが起こったの……?」
「…………わ、分かんない……」
陽太は呆然として答えた。
「そ、そうだ! スマホ! どこかに連絡! あ、あれ? 無い! カバンが無い!」
月夜は今にも泣き叫びそうに言って周囲を這うようにカバンを探し始める。陽太のカバンも見当たらなかったが、彼はズボンのポケットに手を入れてスマホがあるのを確認し取り出した。
「ヨーちゃん! は、早く、誰かに――」
「電源付かない……」
「え?」
陽太は電源ボタンを何度も押す。再起動させようとしても無理だった。
「電波が届かない、とかじゃなく?」
「うん。 ……真っ暗。何やっても。 電池はまだ十分あったはずだけど」
絶望の表情でペタンと座り込んで「どうしよう……」と呟く月夜。立ち上がった陽太は彼方に見える町を望み、「行ってみる? 町」と月夜に問いかけた。
「だ、大丈夫かな?」
「分かんない。 でもこのままここでって訳にも……」
「そ、そうね、そうよね。 とりあえず町の近くまで行ってみよう」
月夜はそう言って伸ばされた陽太の手を取って立ち上がった。
町を囲む石壁の門が見える位置の茂みに隠れた二人は目を凝らして様子を探った。
「ね、ねぇ…… 門を守ってる守衛さん? 明らかに人間じゃないんだけど……」
月夜の視線の先、門の両脇に立っているのは、二足歩行の子豚のようである。手に長い棒を持っていた。
「でもさ、さっきから何人か人間っぽい人が城門を出たり入ったりしてるよ。 特に調べられてる様子もないし……」
そう言って意を決した陽太は「行ってみるか」と立ち上がった。月夜もコクリと頷く。
陽太は疑われないように堂々としようと胸を張り、月夜はそこまで考えが及ばず、ただ不安で陽太の腕に縋り歩く。
門を通り過ぎようとしたとき、スッと二人の前に長い棒が下ろされ止められた。
「ぷひっ」
止まれって言われてるのかな?と疑問に思いながら二人は足を止めた。一匹の子豚が近づいて来る。二足歩行で身長は月夜の腰より少し高いくらい。赤い
「な、なんですか?」
月夜の怯えた声での質問にも子豚は答えることなく月夜を見回す。そして最後に月夜の顔を円らな瞳でジッと見つめる。
月夜は思わず「可愛い……」と声を漏らしてしまった。しまったと思った彼女だったが、子豚は顔を赤らめたよう。
子豚は「ぷひっ!」と一声鳴いて月夜をその
「え? なに? 撫でるの??」
半信半疑ながら月夜が聞くと、子豚は「ぷひっ」と言って頷く。恐る恐る手を出した月夜はゆっくり優しく子豚の頭を撫でた。
子豚は「ぷひぃ~……」と気持ちよさそうな声を出して目を瞑り、そして満足したようで頷くと「ぷひっ」と鳴いて町のほうを指し示した。
「行ってよしってこと? かな?」
不安になりながら月夜は陽太の顔を見る。「た、たぶん…… そうじゃないかな?」と陽太も確信がもてないまま歩き出した。そこへ、三匹の子豚がトテトテといった感じで歩いて近づいて来た。
しまった、何か間違えた?!と青ざめる月夜の前に子豚たちは並んで頭を差し出した。最後の一匹は顔を上げて顎のあたりを蹄で指し示している。
月夜は黙って、差し出された二匹の頭を撫で、最後の一匹には顎をタプタプしてみた。それぞれが「ぷひぃ~ん」と気持ちよさそうな声を出す。
これでいいのかな?と歩き始めた二人の後ろで、頭を撫でられた三匹が顎をタプタプされた子豚に詰め寄っていた。まるで、”ずりぃーぞ、おまえ!”と言っているかのようであった。
月夜は門を通過しながらその様子を見、門番がこれで通すってチョロすぎない??と思うのだった。子豚と触れ合ったこともあり、ちょっとだけだが月夜の緊張もほぐれてきていた。
無事に門を通過した二人は町並みを見て「わぁ……!」と感動してしまった。そこは、ゲームやアニメなどで描かれている中世ヨーロッパ風の町並み。行き交う人々も多種多様な人々。
夢でもあるかのような光景を目にした二人は同時に「「異世界だ……」」と呟いていた。
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