第2話 異世界の町並み
ミノタウロスの戦士を先頭に陽太とシーラが続き、最後尾には大地に付き添うように月夜が続いて歩く。
月夜は長い黒髪をポニーテールにしてまとめ、大きな赤い花の飾りを付けている。知的な雰囲気のする背の高い女性だった。いつの間にか、彼女は左手にだけ革手袋をつけていた。
「大地くんは転移前の状況とか覚えてる?」
「え、あぁ、はい。 大雨の日で、夜の八時ごろだったかな、バイト帰りに降られちゃって。結構雷も鳴ってて」
「ふ~ん…… やっぱり雷か。 ちなみに何年の何月何日だった?」
「えっと、二〇二〇年の七月……何日だっけ? 四日か五日だったかな?」
「ん~、そっか、わたしたちは二〇二四年の五月だから日にちとかは関係ないのかぁ。 ……ん?あれ?」
月夜はまじまじと大地を見て言う。
「ってことは大地くん、本当はわたしより年上?」
「え? それってどういう?」
「わたしたち、二〇二四年に十七歳でここに来たの。こっちで暮らしてもう八年になるわ。 で、君は二〇二〇年に高校生でしょ?」
月夜の説明に「あ、なるほど」と大地は納得する。そんな話をしていると長大な石壁と出入り口の門が見えてきた。
「ほら、あれがわたしたちが住んでる町だよ。 エピキュリアっていう名前の町よ」
「エピキュリア……」
大きな町のようだ。石壁は高く、門は立派な作りのようである。一行が近づくと、その門からワラワラと長い棒を持った小柄な生き物が出てきた。
赤い
「ぶ、豚??」
「オークだよ。養殖のね。 門番とか、あと町中でも色々な仕事をしてるわ」
「よ、養殖のオーク??」
理解が追いつかない大地の目の前で、「ご苦労様~」と月夜は養殖オークの頭を撫でたり、顎下をタプタプしたりしている。オークたちは「ぷひぃ~ん」と鳴いて気持ちよさそうだ。
「さぁ、町に入りましょう。 あぁ、この町は色んな種族が居るからね。いちいち変に騒がないこと。それと、魔物と魔族は違うからね。魔族に向かって魔物なんて言ったら差別用語になったりするから注意すること」
「は、はい!」
「うん、いい返事。 じゃあ行こうか」
門をくぐると綺麗な町並みが大地の目に映った。アニメなどでよくある、いわゆるナーロッパという雰囲気であった。月夜の言う通り、さまざまな種族が暮らしているようである。
「あっ! ツクお姉ちゃん、おかえり~。 どうしたの?さっき慌てて走ってったけど」
大地がキョロキョロとしていると、月夜に声をかけてきた人がいた。大地がそちらを振り向くと、どうやら人というよりは魔族のようである。
薄緑色の肌と緑色の長く艶のある髪、そして月夜とお揃いの赤い花の髪飾りをしている十五歳前後に見える美少女だった。服装も濃い緑色の葉っぱを全身に巻き付けているような服装でちょっと色っぽい。
それだけでも彼女は大地の興味を引いたのだが、彼女の足元を見た大地は、どういうこと??と不思議に思う。
「ただいま、メリナちゃん。ちょっと同郷の子を迎えにね。 ほらこの子、大地っていうの。これからお店にも来るようになると思うからよろしくね」
「大地です! よろしくお願いします」
不思議な魅力のある美少女を前に緊張した大地の挨拶に、メリナと呼ばれた緑色の少女はニコッと笑い、「よろしくな、ダイチ!」と手のひらを前に出してきた。
ハイタッチかな?と思いながら大地はメリナの手に軽くパンッと自分の手を合わせた。
「じゃ、また後でねメリナちゃん。 ほら、大地くん行くよ」
手を振るメリナに見送られながら月夜の後ろをついて歩き始めた大地は疑問を口にする。
「あの、月夜さん。 さっきの子、足が――」
足首が植木鉢に埋まってませんでしたか?と聞こうとしたところ、月夜は察して答える。
「あぁ、あの子はね、植木鉢から生えてるの。 アルラウネのメリナちゃんよ」
「アルラウネっていうと、あのRPGとかでよくある植物系モンスターの?」
「ま、そうなんだけど、彼女は魔族ね。 モンスターって表現もご法度だよ」
優しく
「可愛いでしょメリナちゃん。 あの子はお店の看板娘で、いつもあそこに立ってるの」
「お店?」
「そ、薬屋さんね。 風邪薬とかもそうだけど、ポーションとか売ってるし、何かとお世話になると思うわよ」
「は、はぁ……」
大地が次々と入ってくる情報を混乱しながら整理していると「ほら、着いたよ」と月夜が行く先を指さして言う。
「あれは?」
「冒険者ギルド。 異世界では定番でしょ?」
ふふっ、と振り返って笑う月夜の後ろには大きくて立派な建物が立っていた。
「……冒険者ギルドって、ホントにあるんすね?」
「ね~。 ホント、びっくりよね~」
月夜は昔を思い出したのか、苦笑いして答えた。
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