第17話 ぬえ
タケミ女王、ミト第2王女、ミズ王子を拘束した第21移住団は鵺と、だいわ神社に転移した。
王国を襲う災害に、最後まで転移しない決心の女王と王族を早急に転移させ、これからも王国民の支えとなっていただくための軍団長の計画であった。重大犯罪であるものの女王たちを救う妙手となるはずだった。鵺が同時転送されるなど想定外だった。
【穢れが奥の院に転移した。女王も一緒だ。】フミカの全力のテレパシーに、コノハは弾かれるように立ち上がる。
凄まじい穢れの気配に
「ここを頼みます。」コノハは急ぎ本殿へ行く。幸いお祓いの予約はない。本殿の扉を閉じると磐座の中央に進み膝まづく。一心不乱に造化三神に助けを求める。
最初はスクナビコナと同じくらいの5センチメートル程の身長の鵺はスクナビコナを赤い粉にかえ吸収し巨大化、転移前にはスクナビコナの6倍の身長になった鵺は転移しただいわ神社奥の院の磐座で、目の前にいる第21移住団員を8本の黒い蛇の尾で巻き取り、サルの顔の口に運び食らう。虎の四肢で薙ぎ払う。先に移住した神官たちが、御神ムスビの力で神圧をかけるが、鵺の身にまとう穢れがそれを跳ね返す。鵺のまとう黒い穢れに触れた者は赤い粉となり、蛇の尾にとらえられた者は鵺に喰われた。
身に着けていた防具が、粉となった持ち主を失い床に転がる。
まだ午前九時。台風一過で晴れた天気なのに奥の院がかすみ始める。悪霊域界に引き込まれたのだ。
女王を拘束した兵士たちは、女王、王族のミト、ミズを数人で抱き上げムスビのいる方へ避難する。
ムスビの後ろでは避難先の通路入り口でモリヒコが立ちふさがっている。
「なんだ。これは!」モリヒコは目の前の状況に思考が停止した。ただ悪霊?であることは全身で感じていた。
すさまじい悪寒と吐き気が襲う。
奥の院と移住したヤマト国民が避難している通路の境目でタケミは振り返る。【離しなさい】威厳のある声に兵士たちは手を離す。
その場に
第2王女ミトは兵士の手を振りほどき、「女王をまもれ!」と第1王子ミズに伝えモリヒコの後ろに立つ。
磐座上第21移住団の半分を食らっただろう鵺はすでにムスビ達人間が見上げる大きさに膨れ上がっている。
さらにスクナビコナ族を食らうために磐座を鵺は暴れる。
ムスビが奥の院に
ムスビは剣鉾を構え突き出し鵺を威嚇する。鵺も鉾には注意を払う。鵺がまとう黒い気が槍の如くムスビを突く。
【タケミ!】コノハが呼ぶ。【コノハ。無事だ。ヌエだ。ムスビ殿が】テレパシーが途切れる。
ムスビはその穢れを身を低くしてかわしそのまま一気に鵺に鉾を突く。鉾は鵺の胸元にわずか届かず、ムスビは太いトラの手ではじき返され厚壁に背中から打ち付けられ崩れ落ちる。
鵺の八匹の黒蛇の尾が伸びてムスビを絡める。モリヒコは鉾に飛びつき回転しながら起きる。
ミトが今まで自身が放ったこともない大型の破魔矢を放つ。青白く輝く5メートルはあろう矢が鵺の首を横から貫く。鵺がミトを見てモリヒコへの注意が僅かに逸れた時、苦し紛れの一太刀が鵺の眉間に刺さる。鵺は奇怪な声を発する。モリヒコの持つ剣鉾の第二撃が鵺の胴体を喉元から貫く。無我夢中だった。ムスビを絡めていた蛇の尾が離れる。
幸いにも消失したのは右耳タブですんだ。押し込まれた鉾は抵抗なく鵺の胴体を貫く。
「キャーン」猿の声とも、鳥の声とも思える甲高い声で鵺は鳴くとそのまま一気に上昇する。奥の院の太い梁を割り天井から屋根までをすべて吹き飛ばして中空に上りそのまま北へ。王国のある北に消える。すでに鵺のまとう穢れは直径30メートルになっている。
奥の院を包んだ悪霊域界、不透明な空気、冷たい空間は消えることなく鵺の行動方向へ一緒に拡大していく。
【本国方面に鵺が向かった。鵺は5メートル以上になって穢れをまとっている。多くの命を吸収してさらに大きくなる可能性がある】特急のテレパシストがテレパシーする。
モリヒコが血の止まらぬ耳を抑えつつ大きな声で言う。「本国守備隊に伝えてください。私はモリヒコです。鵺は物理的攻撃を嫌う。槍が有効です。しかし、まとっている穢れに生きているものが触れれば、粉塵となってしまいます。それは鵺をさらに活性化します。穢れをよけ、本体に物理的な痛手を強制してください。でも死ぬわけではありません。あくまで足止め程度です。だれか伝えてください!そしてできるものから、だいわ神社へ転移を!女王様は無事です!」モリヒコの叫びを聞いた多くの特急テレパシストが、オープンチャネルでモリヒコの話を飛ばす。
【カエデ!】ミカが呼ぶ。【聴こえた。ミカ、磐座の移住を頼む】カエデはそう答えると、80人増強された討伐、守備隊280名に命じる。【各自装備は槍に絞る。鵺が来たらその穢れには触れぬようかわせ。投槍でもいい。本体を狙え。密集体型をやめ各自穢れをかわす十分な広さを持て。前線を前進させる。アノールの死体の前へ出ろ。ここからは個人戦闘だ。
【上だ!】前衛の討伐隊が見つける。鵺が悪領域結界の中、大きな黒い塊となって降りてくる。
【守備隊投槍開始。】投槍器による攻撃。確かに物理攻撃はモリヒコが言うように鵺が嫌がっているように感じる。次の瞬間、黒い穢れの影が細い槍のようになって降り注ぐ。赤い土煙が舞う。ヤマト本国も全体がかすみ始める。直径600メートルもの空間が悪霊域界に引き込まれていた。
時刻は10:40分。太陽が輝いているはずなのに、悪霊域が濃くなりヤマト王国を包み込んでいく。どんどんと陽光は届かなくなっていく。陽光が届かなくなれば悪霊はその力を全開にできる。
鵺がまた甲高く物悲しく鳴き、ふくれ上がった。矢のように穢れが降り注ぐ。舞う赤い土煙。討伐隊士のものだ。
【全軍穢れをよけながら撤退せよ。磐座へ集まれ】カエデがテレパシーで指示する。前線縮小は危険だが、このままでは同胞の血で鵺を大きくするだけだ。背水の陣でなく、戦う方法がなかった。
【フミカ!状況!】【残移住団負傷者含め約800名、うち守備兵力約100。残念ながら戦意は低いです。命が惜しいのでなく戦えないまま血煙になるのは……】まだ移住していない国民は約800人、【カエデッ 大丈夫?なんなら換わるわよ!】落ち着けとばかりミカがテレパシーしてくる。お前ならどうするんだ!とか思う。1年満たない士官歴、穢れに遭遇してわずか10日で、国民全員の移住の指揮をとる重荷。けれどカエデとミカの化学反応と、フミカのバックアップが加わり3人の戦意は高かった。でも打つ手が浮かばない。「どうにもならなくなったら脱出してください。次がある。」モリヒコの言葉が浮かぶ。転移質量は6倍だったか。 鵺がゆっくり降りてくる。
カエデが顔を上げる。磐座に身を隠した兵たちがカエデを。この場の総指揮官に身を預けていた。
オープンテレパシーでカエデが伝える。
【逃げる!】ミカとフミカが驚きそして頷く。残っている国民も兵もするべきことを見つける。【逃げる。磐座を固めろ。神官たちが質量は6倍になったと言った。物理的に今の全員が転移できる。ただし、討伐隊と守備隊は最後まで入り口を守る。前衛を残っている天狗隊で固める。大盾に身を隠して入り口を固め、後衛は徹底してありったけの槍を鵺に投げる。顔や手をだすな。粉にされるぞ】。
【ミカ少尉、転移開始。フミカ、この磐座の階に残っている者がいないか見に行け。ここから上の階の確認は不要だ。】カエデがテレパシーする。磐座は鵺のいる入り口方面に兵士。反対側に国民が集まる。ミカは磐座の中心で祝詞を始める。フミカは逃げ遅れているものがいないか見に行く。カエデは前衛兵士たちの後ろで鵺の動きを追っている。この若い女士官の行動に、兵士たちも覚悟を決めて盾をかまえ、後衛は槍を構える。そして軍団長と参謀長は前衛で大楯を構えていた。女王の命にそむき転移させた以上移住する気はないらしい。
鵺が磐座の正面にきて投槍の射程距離から離れたところにいる。
【くる!】カエデがテレパシーする。
【逃げ遅れはいません】フミカが報告すると同時に磐座へ戻ってこようとしている。倒れ始めたご神木から落ちてきた上の階からの落下物がフミカの肩にぶつかり、フミカを下敷きにする。
「フミカ!」カエデが磐座を離れ駆け寄る。落ちてきた木片をのける。【カエデ何している】ミカがいう。
【先に行け】カエデが答える。【いけるかっ!】ミカは祝詞をとなえながらカエデに向かう。「神遷」そういうと、カエデに手を伸ばす。その時ご神木が高波の衝撃で大きく傾く。磐座に残る全員が磐座にお互いを支えつつ張り付く。しかしカエデに手を差し伸べたミカも、フミカを抱きかかえているカエデも宙に浮く。3人を除く磐座にいた全員が転移、掻き消えた。
鵺は川の氾濫をみて上昇し宙にいる。そのサイズは50メートルはあろう穢れをまとった妖怪となって悪霊域界を強化していた。
ヤマト王国ご神木からはがれた巨大な磐座は健在だが、磐座を支える地盤は崩壊した。転移珠を使っても、ここにもどるだけか。
3人は氾濫する川に呑み込まれる磐座とともに落ちていった。
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