第16話 アノール再び

午前9時45分 第18移住団504人が本国から転移した。

 ヤマト王国10103人のうち、7432人の移住が終了した。

 すぐに第19移住団の磐座への移動が始まる。【急げ。もっと急げ】第19移住団のリーダーが叱咤する。

【!】ミカが感じる。すぐさまテレパシーを守備隊にいるカエデ、軍団長や副官に絞り込んで発信する。

 【穢れだ。アノールだ】

 カエデがすぐさま反応し、討伐隊、守備隊200名に臨戦態勢を指示する。

【来るぞ!】ミカのテレパシー。【感じた。まかせろ!】カエデが応じる。

 アノールの群れが森をぬけて向かってくる。しかし忌まわしい気配がしない。【逃げてきているような、ただこちらに向かってくるような】。そう思ったが、だからと言って、ここから後ろへは通せない。

【討伐隊構え。】再び戦闘が始まる。今度の群れは散発的だった。5匹から20匹くらいが一塊でやってくる。戦闘意欲が高くない。中には進路変更して東へ逃げたり右往左往するものもいる。それでも大半が磐座へやってくる。気は抜けないがワンパターンの攻撃だ。カエデの討伐隊が使った戦法は効果的である。しかし心配なのは、兵士が休む間がないことだ。今は討伐隊、守備隊とも約半数ずつが前衛を入れ替わるが、次第に体力減で押されるのが目に見えていた。磐座からは討伐隊、守備隊の状況が見える。そして磐座上に立つとわかる近くの川の轟轟たる音。テレパシーがなければ意思疎通など無理な大音響だ。

 移住団はその状況に押されるかのように転移を急ぐ。

【体力的に兵の増援が必要です。これからの移住団から、兵士を守備隊に加えていきましょう。各移住団7~80名が増援できます。その抜けた穴は、前倒しで国民を移住させます。王国の地盤も大変危険な状態と報告が入っています】参謀長が軍団長に承認を求める。【わかった。そうしてもらおう】つづけて【それと参謀長、21移住団で行おう。いけるか?】【はい。】参謀長が答える。第20移住団から、移住推進の役を指示されていた兵士たちの一部は、守備隊増援の任につく。また参謀長は第21移住団リーダーにテレパシーで指示を行った。

 だいわ神社奥の院では、喧騒が続いていた。

 とにかく20分おきくらいに500人前後のスクナビコナ族が転移してくる。モリヒコとムスビは、移動用の大型トレーをもって休む暇もなく移住者を私邸の通路に運んでいく。小さな人々を踏んづけてしまわぬよう注意しながら。各移住団のリーダーもひっきりなしに、オオナの神官たちの通路に入らぬよう指示していた。

 一方、転送で気分がすぐれぬ上に、長年身を隠すように育ってきたスクナビコナ族にとってはオオナ族はなれない。緊張と不安が解けないでおどおどしていた。

 コノハは、本日病欠としたムスビに代わって、神社社務所に詰めていた。

 そんな中、第20移住団が転移してきた。第20移住団までで約8400人のスクナビコナが転移移住した。

 フミカは意を決する。移住団総責任者に近づくと申し出た。【特急のテレパシー能力を持つ兵も増えました。私はカエデ少尉の命により連絡役と受け入れ案内をしてまいりましたが、この時点で討伐隊に復帰させてください。アノールが再び押し寄せる中、私も討伐隊として戦います】。【わかった。】移住総指揮を執る大将が許可する。【モリヒコ、後は頼みます】ドタバタと移住団の移動をしているモリヒコにテレパシーを送ると転移の祝詞をはじめる。通信兵が王国にその件を報告し、集合中の第21移住団が磐座の中央を開ける。

 フミカは、王国磐座に転移し、軍団長、ミカ少尉に敬礼をすると直ちに、カエデ少尉の守る磐座前線に向かう。

 陽は高く、気温も上昇していた。昼行性のアノールの速度は上がっていたが、向かってくる様子は殺意というよりパニックに近かった。討伐隊の迎撃は前回同様に的確だった。しかし、アノールが攻撃的でも、パニックでも戦いは変わらず、夏の気温と途切れないアノールに体力の消耗が激しい。【後衛、前衛と交代。】カエデが指示する。【守備隊前衛は後衛と交代】今は守備隊を任されているカササギ軍曹がテレパシーする。【フミカ、早速だが後衛の状況確認と次の移住団から新たに増援で加わる兵たちの調整をしてくれ】カエデ少尉がフミカ軍曹に伝える。カエデの顔も疲れが出ていて表情がこわばっている。そして前線の問題が見えてきた。はらったアノールの死体が増え、討伐隊もその死体より先で陣形を組めなくなってきた。必然的に陣形は、倒したアノールの後ろに組まれる。そのため進撃してくるアノールを祓う度に、前線は後退して守備隊は少しづつ押し込まれていく。このままでは攻撃力が落ちる。しかし、祓ったアノールを超えて戦うことは難しかった。その状況は、軍団長、参謀長にも見えていた。もちろんタケミ女王にも、ミズ王子にも。

 そこへ強烈なけがれの気配が広がった。それは、スクナビコナ族では誰も感じたことのない巨大な悪霊の気配。「ぬえ」がそこにいた。鵺は猿の顔で鳴き、虎の四肢で跳ぶがごとく駆け、最前線にいる兵士達を瞬時に真っ赤な粉塵にした。その光景は誰もが息をのんだ。穢れの気と繰り広げられる光景に体が動かなくなる兵が続出した。黒い塊の穢れは矢のようにアノールを粉砕し、前衛の討伐隊を赤い粉にして前線に大きな穴をあける。スクナビコナほどの身長(5センチメートル)だった鵺は兵士たちを赤い粉にするたびに鳴きそして大きくなる。

 討伐隊天狗隊は逃げない。


 磐座では第21移住団の転移直前だった。転移がすめば、約9000人の移住が済むことになる。

 第21移住団のリーダーがついと前へ出るや叫ぶ。「タケミ女王!失礼いたします!」約40人の兵士が一気に磐座に円をつくり、18名の兵士が、リーダーを先頭にタケミ女王に迫るやいなや、傍についていたミズ王子とともに拘束、磐座にいて神装弓兵を指揮していた討伐隊ミト第2王女も20人の兵士にたちまち拘束された。何をする!くらいしか声は上げられなかった。3人は円陣を組まれた兵士の中に速やかに移された。

第一王女のミカ少尉が助けようとするのを軍団長が手で制する。【?!】とっさにミカが悟る。

 ぬえが討伐隊の槍をかわし太刀をかわす。そして鵺がすれ違う度に彼らは赤い粉となって宙を舞う。

 その度に、血粉を浴び鵺は大きくなる。

 カエデが中槍を持ち駆けつける。が間に合わず穢れは、討伐隊を抜け守備隊前衛を粉にして磐座へむかう。

 スクナビコナ族を粉にし吸収した鵺は30センチメートルほどの身長になっている。

 後には、彼らが身に着けていた鎧や防具が転がっている。


 第21移住団に戦慄がはしる。黒い穢れが守備隊後衛を粉塵にし磐座に迫る。

 転移の祝詞が終わる。21移住団は女王、第2王女、第1王子を伴い転移する。

 転移の瞬間、黒い穢れ「ぬえ」は磐座に到達し転移に巻き込まれた。

 フミカが叫ぶようにテレパシーを奥の院に送った。

 女王を含む約538人と「鵺」が転移した。

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