第15話 民族大移動
深夜、ムスビ、コノハの脳裏に、白く柔らかい光が広がった。
二人は装束をつけたまま居間で連絡を待っていた。ムスビがモリヒコも起こす。
戦闘はどうなったのか。3人は急ぎ本殿の
磐座の上にカエデ少尉とミカ少尉とフミカ軍曹がいた。3人はコノハ達を見て片膝をつけた。オオナの3人は、磐座の前にきて正座した。
【ムスビ殿 コノハ殿 モリヒコ殿。穢れを無事祓うことができました。皆さんの協力と知恵のおかげです。ありがとうございます】カエデ少尉がテレパシーで話す。”モリヒコからモリヒコ殿になった。”つまらぬことに感動した。「無事に討伐が出来て何よりです。」ムスビがいう。【皆様にお怪我はなかったのですね。】コノハがテレパシーで伝えた。【はい。討伐隊は全員無事で、グリーンアノールを41匹祓いました。】とカエデ。【まあ、そんなに?!】【はい。モリヒコ殿と立てた陣形と武器、そしてタイミングよく武器と食料を追加転送いただいたコノハ殿のおかげです。】カエデはそうテレパシーで伝えた。【追加で転送したのは私ですが、発案はモリヒコでしたのよ。】コノハが言った。カエデもミカもフミカも一様に驚く。「モリヒコが気を利かせた?」そんな感じだった。テレパシーができないモリヒコでも十分わかった。「ですよねー」とモリヒコも思う。
【しかし別の問題の回答を迫られています。】王国を代表し第一王女ミカが発言した。【王国の地のことですね?】コノハが言った。【その通りです】ミカが応じる。【王国は、山の中腹に立つご神木とそれを囲む大木、北側を流れる川によってライフラインを構築していました。数日集中した大雨と洪水の繰り返しはきっと大きな危険を王国にもたらしているのでしょう。心配しておりました。】コノハがテレパシーで伝達した。【はい。川の増水で土手が削られ、王国の立つ高台の崩落も時間の問題です。】【まあ!】【女王ヤマトタケミからの親書を持ってまいりました。実は本人が来ると言ってきかなかったのを側近たちが押しとどめるのに苦労しました。】ミカが話して「
1万人の国民の避難先、仮の王国地が決まった。
【やりますか!】ミカが腕まくりした。【モリヒコ頼むぞ!】カエデが言った。
「もう呼び捨てだし!」モリヒコは思った。
王国の仮移動先が決まった。早ければ明日深夜からでも移動できる。
【王国より緊急情報。北側の土手上流の蛇行部で大木が引っ掛かり流れを止めているようです。】フミカが言う。
【……すぐ転移を開始してください!】コノハが立ち上がっていう。
【えっ。でもまだ……準備……】【すぐに転移を始めなさい。上流の大木が流されれば大量の水が王国の北側土手を襲います。転移先は奥の院に設定ください。ただ、この
【ミカ。行こう】カエデが言った。【フミカ!ここにいて連絡員を頼む。コノハ殿と王国の情報連携が必要だ。それと、討伐隊に磐座へ至急再布陣せよと伝えてくれ。指揮はカササギ軍曹。アノールの邪魔が入らぬようにだ。軍団長に、王国の磐座に近い下層から転移したいと伝えてほしい。時間を無駄にできないから】と。【守備隊も討伐隊後衛につくよう伝えてください。】ミカがフミカに追加する。フミカがテレパシーを王国に送る。
二人が転移しようとするとき、モリヒコが言った。「カエデさん、今は雨風がやみ安定した気象ですが、ここ奥の院の磐座転送が150人の場合、王国1万人移動完了まで167回の転移が必要です。転送間隔15分としてざっと17時間です。実際にはそんなに早くは出来ないでしょう。転移者の転移後の移動もあります。1時間後に転送が始まったとして、完了は17時間後の夜の7時です。転送人数の拡大もありますが、いずれにしても転送間隔が短縮できるかが重要です。雨は明後日まで降りません。しかし川が氾濫すれば、ものの数分で王国は流されるかもしれません。」「急いでください。そしてもし川が氾濫したら、脱出してください。生きていれば必ず次があります。」とモリヒコがいった。【ありがとうモリヒコ。】カエデが答えて続ける。【フミカ、本国側の転移開始時に連絡する。】そう伝えて二人は転移した。
「さて、受け入れ準備だ。ここの磐座から、私たちの家に続く通路を仮の王国の一時避難場所にしようと思う。通路の中央を我々の通路としておこう。」ムスビが言う。「そうですね。最終の仮王国は書庫を整理しましょう。」コノハがいう。「決まりだな。モリヒコ手伝ってくれ。コノハはここでフミカ殿と待機だな?!」「そうですね。でも急いで食事の準備をしたいです。」コノハが言うと「それは私が合わせてしよう。モリヒコいこう。」といってムスビが腰を上げた。
王国の磐座に、転移したミカ少尉とカエデ少尉はいた。
守備隊が磐座を背に、外に防御陣形を作っている。
そのさらに外側に、討伐隊が戦闘陣形を作っているところだった。
守備隊、討伐隊の陣形を横目で確認しつつ二人はご神木の階段を上る。軍団長が待っていた。
「私は女王の所へ行き報告します」「うむっ。カエデ少尉は臨時で守備隊、討伐隊を指揮せよ。指揮官級は全て移住団の指揮にあたっている。」「王族用の昇降階段もじきに一般用となる。」「では女王は?」「その前にここへ降りられる予定だ。女王のご命令で王族用通路も一般通路として開放。避難時間短縮を図る。」と軍団長。 ミカ少尉は王族用階段を上る。
王国の地が非常に危険であることは、すべての国民が認識していた。女王の「王国移住メッセージ」を特級テレパシー者たちが一気に全国民にシェアし共有化されていた。避難に関する手はずも常時更新された。 さらに「神遷転移」時間短縮とパニック防止のため、討伐、守備隊兵を除く家族のいる兵士は家族の元に戻り転移の誘導を速やかに行う様指示され佐官級は各移住団の指揮官をしている。家族のない兵たちは誘導についた。最下層から転移を始めるためすでに集合が始まっている。
だいわ神社奥の院に転移する最大のメリット、それはそこに迎え入れるオオナ族神官がおり、雨風のない神社があり、敵がいないということ。最低限の持ち物と着替えで身軽に転移できるということだ。
磐座の奥の縁に、女王の玉座が設置された。女王の指示である。そして降りてきたタケミ女王が座る。
コノハの伝言も聴き、全閣僚の早期転移の願いを聴くも女王は受け付けず、最後に移住することを譲らなかった。
そして転移するものを見送るため、磐座の奥に座ることとした。
磐座には第1移住団がいた。国民皆兵のため、3から5人に必ずひとり兵士が加わっており、パニック化を防いでいる。第1移住団には王国の全神官が含まれている。だいわ神社磐座の外側へ直接転移するよう設定を変えるためだ。また看護兵、輜重兵が各移住団に加わる様手配されていた。磐座の控室は解体され、次の移住団が詰めていた。
軍団長がオープンチャネルのテレパシーで語る。「移住団の副官は、神遷転移後、団員を速やかに誘導せよ。指揮官は次の移住団到着を見届け誘導を急がせよ。そしてこれを順次移住団に伝えよ。全王国民に次ぐ。ぐずぐずすれば王国に残るものが脱出できなくなる。神遷転移をするものは、転移を待つ者がいることはを忘れてはならない。」続けて、 「転移が嫌なものも、苦手なものもいるだろう。しかし、タケミ女王は最後の移住団となる。我ら国民の速やかな避難を滞らせるならば、全国民の為に容赦しない。」と軍団長がいう。言葉を受けてミカ少尉が抜刀する。
カエデ少尉は討伐隊にいて、テレパシーを聴いていた。雨はやみ、風も消え、星は一等星を除き、すでに見えなくなった黎明午前3時。 夏の空は明るみ始めている。
女王が語る。「神遷を開始します。神遷先には、オオナであり我がヤマト族の神官が皆を誘導します。私の最も信じる神官達です。信じて神遷しなさい。」 その言葉が終わると、王国の特級テレパシストからフミカへ転移開始がテレパシーされる。転移開始までに2時間がかかった。各移住団の安全を考えた看護兵配置や磐座に集まる流れの調整等の仕組みに時間がとられた。150人単位では移住完了はうまくいって17時間後。夜の8時となる。
移住団の指揮官が祝詞を唱え、第1移住団は磐座から掻き消えた。直ちに第2移住団が磐座に移動する。
だいわ神社奥の院の磐座が明滅する。
転移者が磐座の中に神遷転移した証だ。本来、本国へ転移以外は、転移者は直接磐座の上には出ない。
スクナビコナ族秘匿と安全のためだ。磐座に出口が開き、最初の150人が出てきた。
フミカがその正面に立ち誘導指示をする。
ヤマト王国の神官たち30名が、ダイワ神社磐座の転移システムを変えるための祝詞を唱え始める。
本国からの転移が直接磐座内部でなく、磐座上に行えるようにしている。
神官を除く移住団はモリヒコが用意した横60センチメートル縦30センチメートルの旅館で使うような大きなお盆に磐座から急ぎ足で移動する。看護兵が気分のすぐれぬ者を介助する。薄いスポンジを張ったモリヒコ改良移動用トレーとなっている。モリヒコはこれを2台作っていた。全員を乗せたトレーは、モリヒコに運ばれ通路わきに置かれる。そこから通路に降りてもらう。通路ではムスビが待機場所を示し、さらに簡易トイレを数か所設置、酒と水を数か所の器に入れてあることの説明をしていた。腹が減ればとりあえず水。疲れたら酒というのがムスビのおもてなしらしい。 その間に、もう一個の移動お盆を持って磐座にモリヒコは控えた。
「これをあと166回やるんだ」と思ったらモリヒコはうんざりした。
【磐座神遷転移を
【神遷転移人数を順次増やす。第6移住団からは、およそ500人にする。それ以上はこちらの磐座周辺の待機場所がない。転移間隔は20分】フミカの発信したテレパシーを受けて本国から回答がきた。
23回の転移 時間は8時間と短縮できる。今が午前3時。12時までには完了できる。モリヒコは安堵した。
しかし……。
その気配に押されて、そもそも昼行性の風雨を生き延びたアノールが、王国方面に逃げようと動き始めた。
後2時間もすれば夏の太陽が昇る。
太陽は鵺のような妖怪の穢れを少しづつ浄化する。が、それは穢れを感知しにくくなるという事でもあった。
ヤマト王国では、第二移住団の転移が終わった。
川は上流からの雨水を受けて増水が止まらず、上流から流されて川岸にひっかかっている大木を超えて滝のようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます