第18話 神の使い

だいわ山頂上の奥の院からヤマト王国までが巨大な悪霊域界に引き込まれていく。空間はますます歪み、霞んで今や灰色になり、視界も悪くなる。空間が急激に冷え湿気が水滴になりさらに冷えて行く。悪霊域界は奥の院からだいわ山の麓のだいわ神社本殿までを域界に引き込もうと拡大していた。

 【三神よ。アメノミナカヌシ タカミムスビ カミムスビ!みているか。子孫の最後を!】

 ヤマト女王タケミが周辺が真っ白になる強烈な思念でふもとのだいわ神社本殿に向かい嘆くなげく。 だいわ神社本殿では、コノハが磐座で三神の助けを祈っていた。


 本殿磐座が白く輝く。

 コノハを依り代ヨリシロにして空間が輝き始める。輝きはだいわ神社の大鳥居から拝殿、本殿を包む巨大な「気」となる。強力な「気」が気圧を上げ空間気温を上げる。「気」は一気にだいわ山頂上の奥の院に向けて膨れ上がる。神域界がだいわ神社を引き込み拡大する。奥の院に続く参道は強烈な気で吹き飛ぶ。奥の院から降りてきた悪霊域界にぶつかる。湿気の高い冷えた悪霊域界空間を気圧で温度を上げた「神域界」が貫くとそれは飛行機雲となって悪霊域界をつらぬきながら奥の院に向かう。奥の院の正面扉を突き破りそして奥の院を悪霊域界から解放する。解放された奥の院は、悪霊域界で鵺の破壊した奥の院から元のどこも壊れていない奥の院に戻る。奥の院磐座にいるスクナビコナ族のタケミ女王の横に気を失ったオオナ族となったコノハが横たわる。その横には鵺に壁に叩きつけられた衝撃で息絶えたムスビと呆然と座るモリヒコがいた。磐座が再び白く輝き暖かい気配と気圧がかかる。神域界が奥の院に広がると、一気に屋根を突き破る。奥の院を囲む悪霊域界の冷たい空間を熱い神域界が突き抜け、飛行機雲ができる。やがて「神域界」は6条に分かれて上空へ雲を引きながら突き進む。それは神域界以外から見ると、さながら横一列で上空へ伸びていく6本の白い龍のように見えた。やがて6条の龍のごとき雲は水平になり、直径100メートル位に成長した、黒い穢れをまとった鵺を粉砕する。それは黒い雲が瞬間に消え去るように見えた。そして崩れ行く本国磐座目指して急降下する。悪領域界がすべて消滅し、6条の「気」は、川に落ち行く磐座を追うように落下するカエデ ミカ フミカに接触し取り込む。3人は消えた。

 磐座は濁流に落ち、転がり砕け散り破片となった。川はさらに下流へ白波を立てて突き進んだ。

 午前11時ヤマト国が遷都して1300年住んだ本国は消滅した。


 後々、このシーンはオオナの人間界の中で動画としてSNSにあげられ大騒ぎとなる。オオナ人間界から撮られた映像は、だいわ山頂上の曇り空に向かって鳥居から拝殿、本殿と画像が歪み一条の雲が奥の院に達し、白い龍のごとき雲となり隣の山の曇り空を雲散霧消しそして消える。そこへ、その日のニュースで流れた、隣山の川の氾濫がつながり、だいわ神社が超強力なパワースポットとしてメディに取り上げられる。さらに気象庁調査官が「例外的局地竜巻」と説明したことで盛り上がってしまう。神社の破損は、それぞれ「悪霊域界」「神域界」でのことで、人間界で見る建物の被害はなかった。


 奥の院に静寂が訪れている。

 空間はあたたかな気配につつまれている。

 まだ神域界にいる奥の院の天井は木端微塵で青空が見えていた。

 わずかな守備隊と最後の移住者が転移したことで、住み慣れた王国が消滅したことをヤマト国民全員がさとった。

 コノハが目覚める。タケミがその顔の横にいる。タケミが話す。【ムスビが死んだ】コノハが飛び起きる。すぐ横にムスビが横たわっている。モリヒコもそこにいて、うつろな目をしてムスビを見ている。コノハがムスビを抱きかかえる。そのまま何かを聴くようにタケミをみる。タケミはうつむいて動かない。思考は無になり動けなかった。

 コノハは奥の院の大きな神棚をみる。

 磐座とその周辺の空間が輝き始め磐座をドームのように包み込んだ。


 声が響く。 その男、たしか前にも……

 【25年前です。】コノハがテレパシーで話す。

 【カミムスビ様 なにとぞもう一度、今は私の夫となった……】

 コノハがはなし、タケミも伏した。

 ムスビは白い光に包まれて消え、そして現れた。大きく空気を吸い、そしてゆっくり呼吸を始め目を覚ます。

 半身を起き上がる。コノハが後ろからムスビを抱きしめる。ありがとうございます。


 タケミ、オマエにも渡すものがある。声が響く。大きな気配が大穴の開いた奥の院の上から降りてくる。

 輝く白い光をまとう小さな塊が三つ現れる。そのドームに満ちる「気」が形を作り始めやがて光が消える。

 まだ「気」が形となったばかりで意識は朦朧としているが、そこにミカ、カエデ、フミカがいた。

 タケミ女王が涙ぐむ。

 3人ともヘテロクロミア、左右の目の虹彩の色が異なる状態になっていた。ミカは右眼の虹彩は赤、左目の虹彩は白っぽい灰色。カエデの右眼は黄色、左目は銀色 フミカの右眼は青、左目は漆黒。

 そして3人のそれぞれ隣に2体ずつ、透明でありながら、強い気配ではっきりと形を認識できるホログラフのように六体の龍が形づくられた。龍は少し宙に浮き、ひげをゆらし胴体を上下に揺らし漂っていた。

 【六体の神使龍様が?】タケミが造化三神に尋ねる。

【そうだ。六龍の力のほんの少しを与えた。龍の強大な力をすべて受け入れられる生物などいないからな。穢れをあらためて封印しなければならない。しかし龍も我らも、動けば、人間界は大変な惨事となろう。我々の存在も知られてはならない。そなた達で穢れを祓うのだ。その力に使うがいい。】声がそう伝えた。

 3人の意識が戻り始め、生気が出てきた。

【はい……はい】タケミは涙をためながら神棚に向かい伏せる。全てのスクナビコナもオオナも。

 そしてタケミは膝で前に進み立っているミカを抱きしめる。

 ミカの手が母の髪に触れ肩に触れる。

 

 中央の透明ながら銀色の龍が自らの目玉を抜き取る。目玉は体長20センチメートルほどの透明な白い気配の蛇となって同じように漂う。

 白蛇がぬしを得れば龍となる。龍脈をたどり龍族を育てよ。と声が頭に響く。

 ヤマトの我らの子孫よ。穢れを祓え。

 声がそう発すると気配が消えた。六龍もまた薄くなり消えた。カエデ、ミカ、フミカの意識が戻った。

 ヘテロクロミアの目でお互いを見つめた。どんな力を与えてもらったのだろうか?


 透明な白蛇は漂っていた。そしてゆっくり磐座の周りをただよう。神秘的な気配に誰もが動くことができない。

 やがて床に降りると身体をくねらせ、正座する第2王女ミトの前で止まる。

 なぜなのか本人も分からぬまま、ミトが右手を伸ばす。白蛇は柔軟なあごを大きく一八〇度以上に開きミトの手の平が見えなくなるほどにくわえる。ミトが左手で白蛇をなでる。

 白蛇は銀色の龍として実態化し、咥えたミトの手を離す。

ぬしを得た様ね。】カエデが独り言ちた。


 午前11時30分。ヤマト王国の地は消失し、だいわ神社が仮移住地となった。

 その後の調査で、移住前人口10、103名 戦死者数259名 

一般国民死亡448名 

総人口9、396人によりヤマト王国の再建が始まる。

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