第12話 カエデ少尉とミカ少尉 雨の出撃
8日目の午前。討伐隊転移3日目。
昨日から討伐隊はだいわ山の神社奥の院にいた。巴家の書庫が討伐隊駐屯地。
神遷転移できる
カエデの強い要望があり庭で訓練していた。台風の接近で雨が降ったりやんだり。モリヒコは雨合羽を着ていた。そして事情を知らない?猫やカラス、スズメやムクドリ、さらに野ネズミやらが襲ってこないよう見張りと見回りをカエデに命じられていた。身長5センチメートル位のスクナ族。外ということもあり気が抜けなかった。訓練は休みなく続けられた。各攻撃隊が様々な状況の中で臨機応変に役割を遂行するのに悪天候は良いそうだ。
まだアノールは見つかっていなかった。天候の悪化もあり偵察に制約がかかっている。
身長5センチメートルのスクナビコナにとって大雨の野外行動は危険極まりない。
コノハが軽自動車に乗って庭についた。普段着を着ている。
【お昼にしませんか】とテレパシーして荷物を持って玄関に入っていった。討伐隊全員がパッと明るくなる。カエデが苦笑する。【昼食!】カエデが伝える。小隊の緊張が解け笑顔も見える。モリヒコが全員を見守りながらついて行き書庫の縁側の障子を開けた。縁側に立てかけた板を登り黒と緑の服の兵士が入っていく。なんとも不思議で楽しい光景。【モリヒコ。ご苦労】とカエデ。
輜重兵と看護兵たちがコノハから食料を受けとり、今日3回目の食事を並べていく。兵たちが並んで昼飯をもらって思い思いに座って食べ始める。これらの食器や道具もすべて本殿にあり、定期的にムスビ、コノハが手入れしていたのだそうだ。コノハも全体に目を配る。兵達の携行保存食料は使わないよう1日6回の食事をコノハが対応していた。【コノハ殿は、今3回の食事で大丈夫なのか】天狗のリーダーが聴いていた。【こら!失礼だぞ】カエデがテレパシーする。【オオナになってからは3回で問題なかったですよ。ただ最初は随分とたくさん食したようです。ムスビが言うには】とコノハが笑いながら答えた。休憩で少し場が和んだ。モリヒコはパソコンをスリープから戻す。
【どう?】カエデが当然のごとく聴く。「夕方から本降りになるようですが、この辺りはもっと早いかもしれないです。」モリヒコが答えた。外は急速に暗くなっていく。「もう降り始めるかもしれません。」モリヒコが障子から空を見て言った。
【…………捜索隊から連絡!】フミカが立ち上がる。全員が彼女を見た。テレパシー特級しか感じ取れない。【穢れ発見。王国南の森、王国から100メートル付近。数……。数100匹以上!】場が鎮まる。100?。
フミカが続ける。【すべてが王国を目指しているわけではないそうです。森からばらばらに移動してるようです。】【この天気を嫌がり山の上方へ移動か】とカエデ。
「ここで討伐に出ても、これからの嵐によるこちらの損害が大きいのではないでしょうか?」モリヒコが言う。たった5センチメートルの人々が豪雨にあらがう手立てはない。【……】珍しくカエデは考え込む。その間フミカが兵達の動揺と雑談を押さえるべく行動を指示する。 【出撃準備。携行は武器と戦闘食のみ。悪天候対応になる。しっかりと武具装着せよ。看護、輜重部隊は消耗品の槍のフォローを怠るな】一斉に昼食前に脱いだ具足の装着、携行品の確認を始める音がするが、【急いで目の前にある食事を腹に詰めろ。戦闘食忘れるな。腹は減るがアノールはすぐには食えんぞ。】天狗隊リーダーが発信する。緊張と空腹は能力を落とす。余計なことを考えさせずに緊張させないことをリーダーは心得ていた。
一方冷静沈着なカエデがまだ腕を組んで考えている。王国の虎の子の部隊がグリーンアノールと戦う前に、平地の風雨で失うことを危惧していた。
フミカがまたテレパシーで伝える。【穢れが、王国のご神木に向かっています。数26匹。森を抜けご神木の洞に向かう様です。】続けて【王国からの通信。王国守備隊が磐座を出て戦闘態勢に入るようです。ミカ少尉の第1小隊です。】
カエデが顔を上げた。決まったようだ。
【今から本国へ神遷転移する。転移する磐座は、ミカ少尉の小隊が守っているはずだが状況は不安定だ。攻撃隊は役割通りの隊形で、長槍隊を先頭に戦闘隊列のまま転移する。磐座へ移動開始。フミカ。隊を先導。】カエデの指示で全員が奥の院の転移石である磐座に向かう。
カエデが、コノハ、そしてモリヒコに目を留めて話す。【短い間ですが世話になりました。感謝します。穢れと戦う方法もたてられました。その成果を報告できる機会があればまいります。このようなことになり急ぎ出発します。】カエデが話した。【ご武運を!】とコノハ。「カエデさん。あなたの冷静な判断があれば大丈夫です。でも危険がせまったら逃げてください。「次」が必ずあります。大変個人的な意見でありますが僕はあなた方に無事でいてほしい。」モリヒコが言った。【もちろん。死に急ぐ気はない。部隊も失わないつもりだ。】カエデが答える。
討伐隊全員が奥の院の磐座、転移石に集まった。超長槍の前衛が、転送時に前面に出る位置で並ぶ。
【行きます】カエデが言う。フミカが唱え部隊は転移した。
奥の院の空間が静まり返った。
急に吹き始めた風と降り始めた大粒の雨音がした。
コノハもモリヒコもしばらくその空間を見つめ再び勝利の報告に来てくれることを願った。
20分ほど片づけをして、こちらも台風に備えて一度下山し自宅に戻ることにした。
その時、モリヒコがコノハに行った。
「不足するかもしれないから。……あとこれも」モリヒコがコノハに見せながら言った。
コノハがうなづいて、奥の院の転移石に荷物を置いて唱えた。荷物は転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます