第13話 カエデ少尉とミカ少尉 激戦
転移が終わる。いつも通り気分が少し沈む。地点と地点を隣り合わせる空間歪曲のためだ。
本国の磐座は、ご神木の根もとの洞にある。討伐隊113名は、洞の外を向いて転移を終えた。猛烈な風と雨が吹き込んでくる。その洞の縁にミカの守備隊がいる。アノールの突進と風雨で押され返されている。
【討伐隊 陣形そのまま前進。守備隊を刺すなよ】カエデがそう言い終わる前に、守備隊の間隙をアノールが抜けた。その正面にいた天狗の超長槍が2本、アノールの喉と口腔に刺さる。一本は喉から背に抜けた。アノールが地面に倒れる。中槍がとどめを刺す。輜重兵が長槍を補充する。中槍は刺した兵たちが引き抜く。続いてもう1匹が抜け出てくる。別隊の超長槍が2本、ともに口内へ刺さり押し込まれる。おそらく小脳へ到達したか、アノールはそのまま動かなくなった。同じく中槍隊3名がとどめを刺す。討伐隊は横一線、
風雨がますます強まる。彼らの体は小さく軽い。突風が吹くと数人がなぎ倒される。しかし命綱をつければ戦闘ができない。全軍が磐座のある洞を背後に陣形を整えた。ここまで倒したアノールは26匹。奇跡的にけが人は0。【圧勝ね】近づいてきたミカ少尉がタオルをカエデに投げる。【ここまではね。ノルマは11匹達成なんだけど、まだ出てくるわね。】カエデがタオルをかぶったままかえす。【それにこの天気。体力が持つかがポイントね。】【ほかの守備隊は?】カエデは上を見上げた。ご神木は中央が空洞化している。外側が生きていれば木は生きる。その内側にいくつも棚があり、守備隊がいた。ミカとカエデの戦いに雄たけびが湧いていた。【ここが抜かれたらあとは神木の中の守備隊がご神木各層で待機している。大量の穢れを祓った第1戦の勝利は何よりの朗報だ。もし来てくれなかったら、ここは突破されていた。そうなれば、ここから内側をアノールは登るからね。……】ミカが言う。しかし、体力も武器も限界に近づいていた。その時、背にしている磐座が光る。
磐座に現れたのは、長槍、中槍の束。長槍は50本、中槍は軽く100本はありそう。そして大きな箱。これも見覚えがある。コノハが食事を運んでくる箱だ。フミカが駆け寄る。ミカも続く。箱の側面を観音開きに開ける。あの食事の時の一式があった。炊いた米が大量の小皿に乗っている。【輜重兵!取りに来て配れ、討伐隊・守備隊両方の輜重兵だ!】フミカが話す。輜重兵は数人で皿をもち各隊の所々に置いていく。【長槍、中槍を各隊5本。残は守備隊に!】カエデが武器を配分する。【やるじゃない!モリは。】ミカ少尉のテレパスにカエデが頷いた。ついに名前まで省略されたな。モリヒコのうんざりする顔が浮かんだら笑えた。
【ここからの距離なら、投槍が使える。セオリー通りにやります。強い風を考慮して前進せず待ち受けで槍ぶすまを崩さないように。】カエデが、食べ物を腹に入れ、武器が補充された隊に伝えた。
【来るぞ!】 第2戦の始まりだ。今度は整った陣形がある。そして幾分回復した体力と大きく改善した「気力」。倒れたアノールも障害物となって接近速度を多少なりとも落としている。戦いは投槍隊から始まった。雨風はさらに強まる。流れる雨水は、王国のある山の上からも流れ落ち、ヤマト国民の巨大なご神木と森の間の線上には雨で川ができつつあった。
その後も断続的にアノールが森から出て向かってくることが続いた。最前線にあってカエデ少尉は違和感を抱く。この悪天候の中、我々を餌として向かってくる感じではない。追われて逃げてきている様な。とはいえここを通すわけにはいかない。時刻は15時になっていた。そしてそれは突然終わった。ヤマト側の地面も森側の地面もギリギリ雨水に耐えてこれたが、ついに雨水の流れが溝となり川になった。倒したアノールもすべて流されていった。水量は増すばかり。
【とりあえず終わったようだ】カエデが話す。【そうですね。】フミカもミカも答えた。【討伐隊が倒したアノールは確認済で41匹。かすり傷程度の兵士はたくさんいますが、重傷者はいません。全隊員がここにいます。】フミカが報告した。【私の隊は負傷者8,戦死2人も出てしまったわ。でもあなたが来なかったら全滅していた。】ミカ少尉が答えた。【なんという数がいたのだろう。きっとまだいる。人がいないこの地で繁殖していたんだな。これからも全く安心できない】ミカ少尉が続けた。その時ドーンという音と地響きが後方から伝わってきた。【何?】磐座からは見えない。ご神木の上方の物見から連絡がきた。【北側の川の濁流が、少し上流の土手を崩しました。】【土手が削られていくわね。】カエデが答えた。
ご神木が崩れたら……。 そうである。これが一番の王国の問題だ。
守備隊、討伐隊は、見張りの部隊と後退し休憩に入った。
アノールとの激戦となった場所に、実態のない「影」が漂っていた。
勝利の歓喜と川の氾濫で、スクナビコナ族は誰も感知できなかった。
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