第11話 カエデ少尉と討伐隊

 ヤマト王国からだいわ神社に討伐隊転移が始まった。

 2秒くらい磐座が薄く光った後、磐座の中央が開き、そこから最初の兵が顔をだした。六体の龍のような蛇のような龍蛇像に少し驚き、そしてオオナ3人と正面にスクナのミカ、ミト、カエデ、フミカを確認し出てきた。続いて討伐隊109人が出てカーペットに並んだ。

 黒のツナギと襟袖口が紅色の服の天狗隊。全員が屈強な体格の男達であった。

 そしてモスグリーンで統一された神装弓兵、

 ライトグリーンの看護、輜重兵。

 カエデは深呼吸後、すぐに高い音量のテレパシーを送る。

【兵士諸君、討伐隊隊長のカエデだ。】兵達が起立しようとするのをカエデは手で押さえた。

 【転移直後なので座って聴いてくれ。】

 【紹介しよう。葦原中津国神職3人だ。ムスビ殿、コノハ殿、モリヒコ殿だ。】カエデが続ける。

 【まず我々の討伐する相手を共有しておこう。カエデはそういうとムスビ、コノハとみてモリヒコで止める。

 【モリヒコ、画像を。】「殿」がとれ、いつも通りになっている。

 モリヒコはパソコンの再生をかける。17インチ画面もスクナビコナには充分大きい。

 そこにアノールが映る。【これは葦原中津国以外の他国からきて生態を観察されているものだ。葦原中津国では、グリーンアノールと言う。飼育箱の中だから動きがないが体長は20センチメートル。大きなトカゲだ。だが、瞬時にして、我々をかみ砕く素早さと顎を持つ。モリヒコ。捕獲のビデオを。】準備していた動画の再生が始まる。それは葦原中津国の人間がアノールをとらえようとして取り逃がす映像だった。さらにトノサマバッタを一瞬にしてくわえこむ映像も。【見ての通り素早い。致命傷を与えられないうちに急速に目の前に迫り強力で大きな口、強いあごと爪で我々をとらえる。偵察第1、第3小隊のことは聴いているだろう。外来種だから神の使役力も効果はない。 ……諸君の気力を削ごうとしているのではない。が、このアノールが第1、第3小隊を襲った20体ですべてと誰が断言できよう。その他にはいないと断言はできない。私は諸君の力を今回の討伐だけでなくこの先も最大限に生かすため、一兵もかけることなくアノールを殲滅せんめつし祓うつもりでいる。】カエデが断言した。

 天狗隊の一同にカエデの言葉が刺さる。【殲滅?】【もう一度言う。損害なしで奴らを祓う!】カエデが繰り返す。

 輜重隊兵士たちが少しざわつく。

 【傾聴!】フミカが言う。

 【戦闘は正面3段。側面1段。無論愛刀は身につけていて構わない。まず第1段だ。】

 そう言ってカエデが見せたのが長さ30センチメートルの超長槍。身長のおよそ6倍。天狗兵が驚く。【遠距離から迎え撃つ。腰だめで最初の一撃で突く。穢れの機敏さからして再攻撃の機会はない。槍を押し込んだら、槍を残して下がる。突き出たままの長い柄が奴の動きを鈍らせる。そして第2段。長さは23センチメートルの長槍。やはり一撃で突き刺す。機敏な者に受け持ってもらう。第1段の刺さったままの超長槍でパニックのアノールの攻撃を避けながらの刺突攻撃となるからだ。押し込んだら直ちに槍を手放し下がる。下がって、第2段と第3段の間に置いてある決戦用の槍を持つ。長さは10センチメートル。諸君らが普段持つランスと同じ長さだ。ここからは白兵戦。徹底的に穢れに出血を強いて祓うのだ。第3段の兵士は強肩を求める。武器はこれだ】長さ5センチメートル。モリヒコが、改造した布団針である。カエデは身長ほどの長さの鉄槍を見せながら投槍器に差し込みそのままスローイングしオーバースローで一気に投げる。槍は手で投げるより速い初速で、ミカのいる位置から、6メートル先の本殿の奥の壁に音もなく突き刺さった。兵達がそれを確認しているその場所にさらに1本が刺さる。その間3秒とかかっていない。カエデの2投目だ。そして振り向いた兵士達は3投目を放つカエデを見た。後方から突き刺さった感じが伝わる。この速さと飛距離と威力が、左腕を怪我している女士官から放たれた事に天狗兵は驚く。少し左肩が出血し右手で押さえるが介抱しようとするフミカを目で制して続ける。

【第3段は第1段の長槍攻撃前から、遠距離で攻撃する。少しでも相手に痛手を強いるためと第1段の攻撃兵に奴らの意識を集中させないためだ。急所は「目」「口」「首」だ。】カエデは続ける。

 【アノール1匹に対し、第1段2名 第2段3名 第3段1名の6名でユニットを組む。私を入れて66名、11隊の槍衾やりぶすまを横一線でつくる】ここで一息ついた。【この作戦は穢れを正面に置いて、最強の陣形となる。弱点は側面。横に廻られれば各個撃破される。両側面を神装弓兵各10名が守る。決戦は草丈の低い地が理想だ。早い発見が決め手となる。第3段の後ろに看護、そして予備武器を持って輜重兵も配置する。】

 【この葦原中津国の中で、相手を倒しつくすのは我々の生き方とは違う。我々も我々以外も自然そのもの、お互いを尊重し生きるのが我らの生き方。だから戦わずして逃げることも幾度かしてきた。しかし今回の穢れは我が国固有でないゆえに我々を餌か敵以外に認識できない。そして我らを含めた固有の自然生態系を崩す。だから全力で祓わねばならない。我々はお互いが助けあう事で自分を守り、縄文といわれる頃より1万年存続してきた。この戦いは、ヤマト王国の一人一人を守る為のものだ。そう理解してほしい】。

 時刻は午前2時を回っていた。カエデが一息入れてつづけた。

 【9時訓練を開始する。各自それまで休憩、携行食をとれ。討伐開始は情報が入り次第すぐだ。以上。】声もなく討伐隊隊員は起立し一礼した。【解散】フミカがいう。


【かなりの武器の数がいる。長槍予備入れて30本 中槍100本 短槍100本 決戦用の槍120本だ。】とカエデはモリヒコを見る。

【長槍は50本できてます。中槍は100本 短槍の裁縫針と決戦用の槍となる針は即日お急ぎ便か街のショップで買いグリップをつけます。今日中には揃うでしょう】【お急ぎ便?なんだ?】【ただ投槍器は3次元プリンターで量産します。時間がかかります。】【投槍器は10以上。20あれば最高だ】とカエデが言う。

【3次元・・・何?】ミカが聞き返す。【自動で投槍器を作る機械らしいです】とフミカ。 ミカが感心して言った。【モリヒコ、あなた見かけより頼もしいじゃない。王国守備隊に所属なさいよ】

【オオナ族よ。それに私の参謀だから駄目よ。】とカエデが答えた。

【なんであんたが答えるのよ?!】とミカ。

 見かけよりは余計だと思う。それに参謀になった記憶はない。とモリヒコ。口には出さないが。

 

【私は王国に戻り討伐隊結成の報告をします】。

 ミカはそういうと兵士たちのいる待機所に向かって言った。

 【討伐隊兵士の諸君。神装弓兵、看護輜重隊 頼みましたよ。】ミカは転移した。

 そこは少尉でなく王女の貫禄だろうか一同起立して見送った。

 

 【9時からの訓練場所がどこかにありませんか?】。カエデがムスビに聴く。「今日は中津国の日曜日でな。お祓いが多いのです。本殿の扉は開門し御祀神が拝殿から見えるようにします。夕方4時までここでは難しいでしょうね。それと奥の院は今日、院の周りの清掃に氏子さん達がきてコノハが立ち会うのですよ。昼過ぎからなら大丈夫です。」ムスビが答える。【午前は無理か~?】カエデとフミカがモリヒコを見る。「ま まさか僕の部屋?いや多すぎでしょう?」思わず声が出た!


 長槍隊、中槍隊に選抜された兵が、たたみ一畳を使って大根をめがけて、槍を刺す訓練をしていた。

 神装弓兵も、別の一畳を使って、畳の短辺においた大根めがけて、破魔矢の速射訓練をしていた。

 短槍の兵士たちは障子を開け庭に置いた4メートル先の戸板に向かって投槍。ここはミニ結界石がおいてあり、庭からの目撃を隠している。

 もちろんモリヒコの部屋である。

 輜重兵と看護兵は、まだ置きっぱなしの、カエデとフミカが使った障害物の戦車プラモデルを使って輜重行動訓練をしている。全体訓練は奥の院でやるのだそうだ。

 

 午前の訓練を終えて、カエデ、フミカ、がモリヒコの机で話している。

 【王国の南の端から、南へ緩く下がる斜面がある。その先にある尾根の終わりの峠が出会った場所だ。王国を背にして祓うならそこが一番いい。「穢れ」が一直線に王国に向かうとしたら好都合だ。西側にある草地も場所的にはいい。】カエデが考えを言う。フミカはA4の白紙の上で鉛筆を抱え地図を描いてモリヒコに見せていた。

 特別に王国の位置を教えるといわれたが衛星写真マップでだいわ神社から推測していくが、そのあたりを拡大しても樹冠に覆われていてカエデたちも画面では王国がわからなかった。ご神木や本国の磐座の位置など葦原中津国の地図にあるわけがなかった。でフミカの地図作成となる。ご神木は杉の巨木。磐座ミカたちが転移した磐座とその上の本国神社はこの杉の洞にあった。当然近くに人の通る道などない。その場所からカエデたちが遭遇した地点まで直線でざっと300メートル位とモリヒコは言う。小隊は、雨上がりの荒れた森の中を約10時間行軍して穢れにあったのだった。

 その時パソコンのニュースに目がとまる。台風の情報。

 進路予報では3日後、この地の海上付近を最接近するらしい。雨量は多い。

 「1週間前に降った雨で山の西は崩れていけなくなり、東は修復に人間が入ってくる。もしアノールが移動する理由があるなら、急な斜面もなく雨水が吸収、調整されやすい森林北側が移動しやすいでしょう。樹冠があり、木の枝から枝へも可能かもしれません。その先には王国の磐座、転移石がある。つまり王国の南側。」モリヒコが言った。「明後日からまた風雨のようです。昼行性のアノールは棲み処すみかが安全なら動かない。危険なら山の上の方、北側へ。でも、発見したとしても、風雨でカエデさん達が戦えない。台風通過前の戦闘は危険です。後に動いたらいかがなのでしょうか?」モリヒコが言った。【大きいのですか】フミカが聴いてくる。パソコンで確認する。「豪雨と強風。とても危険です。」モリヒコが答える。【雨台風か】「なにか?」フミカは地図の王国の場所の北側に線を引く。【これは川。今年に入ってから、氾濫するのではないかというくらい水位が上がる。心配しても仕方ないが、その川が近くにある。】「……心配ですね。」モリヒコがパソコンの画面を見ながら答えた。マップを拡大してみる。これか。細い川がある。大きな杉はわからなかったが、ヤマト王国の位置はなんとなく想定できた。確かにまずいなとモリヒコは思った。


12・カエデ少尉とミカ少尉 雨の出撃


 8日目の午前。討伐隊転移3日目。

 昨日から討伐隊はだいわ山の神社奥の院にいた。巴家の書庫が討伐隊駐屯地。

 神遷転移できる磐座いわくらのある場所は結界がないのでモリヒコは全員が見えた。

 カエデの強い要望があり庭で訓練していた。台風の接近で雨が降ったりやんだり。モリヒコは雨合羽を着ていた。そして事情を知らない?猫やカラス、スズメやムクドリ、さらに野ネズミやらが襲ってこないよう見張りと見回りをカエデに命じられていた。身長5センチメートル位のスクナ族。外ということもあり気が抜けなかった。訓練は休みなく続けられた。各攻撃隊が様々な状況の中で臨機応変に役割を遂行するのに悪天候は良いそうだ。

 まだアノールは見つかっていなかった。天候の悪化もあり偵察に制約がかかっている。

 身長5センチメートルのスクナビコナにとって大雨の野外行動は危険極まりない。

 コノハが軽自動車に乗って庭についた。普段着を着ている。

 【お昼にしませんか】とテレパシーして荷物を持って玄関に入っていった。討伐隊全員がパッと明るくなる。カエデが苦笑する。【昼食!】カエデが伝える。小隊の緊張が解け笑顔も見える。モリヒコが全員を見守りながらついて行き書庫の縁側の障子を開けた。縁側に立てかけた板を登り黒と緑の服の兵士が入っていく。なんとも不思議で楽しい光景。【モリヒコ。ご苦労】とカエデ。

 輜重兵と看護兵たちがコノハから食料を受けとり、今日3回目の食事を並べていく。兵たちが並んで昼飯をもらって思い思いに座って食べ始める。これらの食器や道具もすべて本殿にあり、定期的にムスビ、コノハが手入れしていたのだそうだ。コノハも全体に目を配る。兵達の携行保存食料は使わないよう1日6回の食事をコノハが対応していた。【コノハ殿は、今3回の食事で大丈夫なのか】天狗のリーダーが聴いていた。【こら!失礼だぞ】カエデがテレパシーする。【オオナになってからは3回で問題なかったですよ。ただ最初は随分とたくさん食したようです。ムスビが言うには】とコノハが笑いながら答えた。休憩で少し場が和んだ。モリヒコはパソコンをスリープから戻す。

【どう?】カエデが当然のごとく聴く。「夕方から本降りになるようですが、この辺りはもっと早いかもしれないです。」モリヒコが答えた。外は急速に暗くなっていく。「もう降り始めるかもしれません。」モリヒコが障子から空を見て言った。

【…………捜索隊から連絡!】フミカが立ち上がる。全員が彼女を見た。テレパシー特級しか感じ取れない。【穢れ発見。王国南の森、王国から100メートル付近。数……。数100匹以上!】場が鎮まる。100?。

 フミカが続ける。【すべてが王国を目指しているわけではないそうです。森からばらばらに移動してるようです。】【この天気を嫌がり山の上方へ移動か】とカエデ。

「ここで討伐に出ても、これからの嵐によるこちらの損害が大きいのではないでしょうか?」モリヒコが言う。たった5センチメートルの人々が豪雨にあらがう手立てはない。【……】珍しくカエデは考え込む。その間フミカが兵達の動揺と雑談を押さえるべく行動を指示する。 【出撃準備。携行は武器と戦闘食のみ。悪天候対応になる。しっかりと武具装着せよ。看護、輜重部隊は消耗品の槍のフォローを怠るな】一斉に昼食前に脱いだ具足の装着、携行品の確認を始める音がするが、【急いで目の前にある食事を腹に詰めろ。戦闘食忘れるな。腹は減るがアノールはすぐには食えんぞ。】天狗隊リーダーが発信する。緊張と空腹は能力を落とす。余計なことを考えさせずに緊張させないことをリーダーは心得ていた。

 一方冷静沈着なカエデがまだ腕を組んで考えている。王国の虎の子の部隊がグリーンアノールと戦う前に、平地の風雨で失うことを危惧していた。

 フミカがまたテレパシーで伝える。【穢れが、王国のご神木に向かっています。数26匹。森を抜けご神木の洞に向かう様です。】続けて【王国からの通信。王国守備隊が磐座を出て戦闘態勢に入るようです。ミカ少尉の第1小隊です。】

 カエデが顔を上げた。決まったようだ。

 【今から本国へ神遷転移する。転移する磐座は、ミカ少尉の小隊が守っているはずだが状況は不安定だ。攻撃隊は役割通りの隊形で、長槍隊を先頭に戦闘隊列のまま転移する。磐座へ移動開始。フミカ。隊を先導。】カエデの指示で全員が奥の院の転移石である磐座に向かう。

カエデが、コノハ、そしてモリヒコに目を留めて話す。【短い間ですが世話になりました。感謝します。穢れと戦う方法もたてられました。その成果を報告できる機会があればまいります。このようなことになり急ぎ出発します。】カエデが話した。【ご武運を!】とコノハ。「カエデさん。あなたの冷静な判断があれば大丈夫です。でも危険がせまったら逃げてください。「次」が必ずあります。大変個人的な意見でありますが僕はあなた方に無事でいてほしい。」モリヒコが言った。【もちろん。死に急ぐ気はない。部隊も失わないつもりだ。】カエデが答える。

 討伐隊全員が奥の院の磐座、転移石に集まった。超長槍の前衛が、転送時に前面に出る位置で並ぶ。

 【行きます】カエデが言う。フミカが唱え部隊は転移した。

 奥の院の空間が静まり返った。

 急に吹き始めた風と降り始めた大粒の雨音がした。


 コノハもモリヒコもしばらくその空間を見つめ再び勝利の報告に来てくれることを願った。

 20分ほど片づけをして、台風に備えて一度下山し自宅に戻ることにした。

 その時、モリヒコがコノハに行った。

 「不足するかもしれないから。……あとこれも」モリヒコがコノハに見せながら言った。

 コノハがうなづいて、奥の院の転移石に荷物を置いて唱えた。荷物は転移した。

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