第10話 カエデ少尉 隊長になる。
6日目の夜11時。
再びムスビ、コノハの脳裏に淡く白い光が差して、二人は起きた。
モリヒコが二人を掌に座らせてやってきた。【体調は大丈夫ですか?】コノハが聴く。【大丈夫です】カエデが答えた。僕はもっと寝ていたいですとモリヒコは思うが、……、言っても無視されるだけだし!。
「行きましょう。」ムスビが話す。3人とカエデとフミカは、本殿に向かった。
本殿の灯りをつける。本殿は通常の神社より大きい。本殿扉から1メートルの所にある丸い磐座の直径が5メートルもあるためだ。そこにミカともう一人いた。
ムスビとコノハは正座、モリヒコも正座し、掌にいた二人を降ろした。
転移してきたミカともう一人も正座した。【ムスビ殿、コノハ殿、お出迎えありがとうございます。】丁寧にミカともう一人が挨拶した。【女王タケミよりお聴きしました。改めまして第1王女ミカでございます。隣は、第2王女ミトでございます。】ミカがテレパシーで話す。【ミトです。】
【ミト様 はじめてお目にかかります。夫の宮司ムスビとコノハでございます。】コノハが続ける。【タケミの妹のコノハです。】そうテレパシーしてから、クスッと笑って話す。【そんな大仰な態度はいりませんよ。私はオオナの葦原中津国の人間になったのですから】。
モリヒコは母がヤマト国女王の妹でムスビに嫁いだ事は2日前に聞かされたが、カエデとフミカは初耳。ましてミカ王女達のおばさま。【ハアッ?】カエデとフミカは声もない。雑談したし、ごはんや服まで作ってもらっていて、呆けていた。
ヤバイことした?カエデとフミカが顔を見合わせた。しかもモリヒコが王女のいとこだって!。
【私どもは、神職として、スクナビコナの方達、ヤマト王国とつながっています。叔母も姪もありませんわ。ヤマト王国の葦原中津国の窓口である神職とだけお考え下さいませ。】コノハが言った。
「よろしければ場所を私共の家にいたしませんか?」とムスビが続ける。【いや、今回はここがいいのです。】ミカはそう言うとカエデの方を向いて話そうとしたが、え?何?と思った。が、思い直して続けた。【カエデ少尉、体調は?】【快方に向かっている。コノハ殿とフミカ曹長の神療をおえ、体力トレーニングに入った。穢れに殺される直前に転移珠の壊れた私をつれてミカ軍曹が神遷してくれたおかげです。感謝にたえない。】カエデがオープンチャネルでテレパシーした。【生きていて本当に良かった。貴方が私をかばって、私の代わりに穢れにやられたんだ。感謝するのは私の方です。この7日間で色々話したいことがあるのですが、まずは軍団長命令をお伝えします。】ミカが軍団長の指示書を胸ポケットから取り出す。ちっちゃい。とても文字が書いてあるとは……とモリヒコは思った。
カエデとフミカが直立する。【カエデ少尉を、軍団長位において、新設独立王国討伐隊の隊長を任ず。フミカ曹長を同討伐隊上級軍曹とする。ミト軍曹を討伐隊神装弓兵隊長として貴下につける。】と読み上げる。もう一通【これは私に充てられたものです。】とミカ【カエデ少尉が任務遂行不能と判断した場合、直ちに両名同行し転移。王国守備隊第1小隊長下につける。この判断は、王国守備隊第1小隊小隊長ミカ少尉に一任する。……ということなのよね。】
【ミカ少尉か。 昇進おめでとう。】カエデがいう。【生き残り特進よ。で第1位の王女を王国に残す。第2王女は士官学校緊急卒業で討伐隊で体験をせよということよ。】ミカが皮肉交じりに話す。【カエデ少尉気にしないでくださいね。ミカは討伐隊に加われず悔しいだけですから】とミトが話した。【……わかってるわよ】ミカがこたえる。【で!見た限り大丈夫そうだから討伐隊就任としたけれど、どうなの。】とミカ【見たとおりだ。】とカエデ。【フミカ軍曹?】【見立て通りです。ミカ少尉。まだ完全ではありませんが、討伐隊に私も加わるのなら、看護兵としてフォローできます。僭越ながら討伐隊の指揮は十分とれると考えます。】フミカが答えた。【……そうね。そう思うわ。】ミカ少尉はそう答えた。【それでは続けます。3人じゃ討伐できないものね。カエデ少尉討伐隊着任と認め、0時にこの磐座に討伐隊兵が転移してきます。もしカエデ少尉が本国に戻るなら兵は送られない手はずでした。天狗小隊65名、ミト軍曹下神装弓兵20名、整備看護10名、輸送輜重15名、討伐隊計110名。討伐隊長カエデ少尉、少尉付き通信担当フミカ上級軍曹、ミト軍曹 総員113名となります。】ミカ少尉が伝える。【天狗が来るのか】カエデは思った。王国の最強白兵戦部隊だ。
天狗隊は戦いに異常な熱意で自らをぎりぎりの世界に置くことで生を感じる性格を持つスクナビコナ兵である。とはいえ趣味のようなものだと本人たちは言う。それ以外はいたって普通だ。王国を守ることに強い熱意を持ち白兵戦をその根幹に置く。戦闘力は非常に高いが個人戦闘気味であり突撃型の戦いをしがちであった。それでも強いから犠牲を出しながらも勝ってきた。また王国もそれを頼ってきたものだった。カエデたちも士官学校白兵戦課程で彼らに鍛えられたことが記憶によみがえる。
【ムスビ殿、コノハ殿。110名の戦士がくる。これからの行動はカエデ少尉の決定によるがしばらく駐留することになる。駐留場所も含め世話にならせていただきたい。これは女王からの親書になります。】ミカはそういうと「
ムスビは本殿右壁から1メートルほどの床に埋め込まれた取っ手を持ち上げ、そのまま床を壁側に持ち上げた。1メートル四方の床の下には、深さ10センチメートルほど、イグサの匂いのする青い畳の床があった。階段がついていた。一部が便所と台所になっている。例のドールハウスの平面版だ。かるく150人は生活できそうだ。ありゃー。なんて素敵なわが神社!工作好きのモリヒコにはたまらない。ムスビを見る。「毎月1度、手入れをしているのだ。わが神社の仕事だ。あの縦形の待機所もそうなのだ」。あーあの縦がたドールハウスは待機所というんだ。だいわ荘なんてどうだ?と思った。でもってこっちはだいわ旅館。
ムスビが兵士出迎え準備の為出て行った。
カエデが改めてミカに聴いた。 【発見はできたの?】。
【いや。穢れに遭遇した場所は、本国の山の峠。だいわ神社のだいわ山とは谷で遮られている。距離的に本国より少しだけだいわ神社が近かった。だから私達はここに転移した。
穢れがいるとしたら、その場から本国を結んだどこかだ。
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「銀狼」は白い狼。オオナの国では絶滅した日本狼。彼らはスクナビコナの友の一種族として栄えていた。
【神龍が居ればな】【伝説よ。】【わかってる】カエデが言う。
【2人の転移珠よ。】ミカが渡す。カエデとフミカは新しい転移珠のついた腕輪をはめた。【フミカ軍曹、頼むな!】カエデがフミカの肩をたたいた。
【モリヒコ!】例によってカエデが呼びつける。王族の血があろうがもう癖になってしまっている。【昨日の試作を一ユニット分持ってきてくれ】モリヒコは頷くと本殿を出て行った。ミカがあきれている。王族の血を引くって言ったじゃない。私ならともかく。
あっ。そうだそれに! 急にミカはカエデに聴こうとしていたことを思い出した。
【カエデ!】【何?】素がでているミカ。【その服、何?。ふたりそろって随分ラクそうね。】とミカが言った。二人は昨日の逆で、カエデが青、フミカが赤のトレーニングシャツとパンツをはいて寝巻にしていた。【これ?楽よ!トレーニングシャツとパンツ。赤と青を二人とも持ってるの。寝るときも楽よ。あとね、巫女衣装と、お出かけ衣装もあるのよねー】とカエデが余計な追加をする。【どういうことよ!気が抜けてるわ】とミカ【さっきまではけが人と看護人だし。いいでしょ。】【よくないわよ。…………私も欲しい!】【それ話がおかしいよ。】完全に士官学校生に戻っているミカ。【まあ。すみません。ミカさんのも作りますね。 】とコノハがテレパシーで答えた。【えー、叔母様、じゃなくてコノハ殿が作られたのですか?いえ、そういう意味ではありません。】【いらないですか?。】【……いえ、欲しいです。】【あの……わ、わたしもできたらでいいのですが。】ミトまで遠慮しがちに手を少し挙げた。コノハは笑って【はいはい。頑張りますわね。】と答えた。そしてハタとなにか思って出て行った。
15分くらいたってムスビがいったん戻ってきた。手に小さめのカーペットと薬缶を抱えていた。まずはカーペットを
モリヒコも戻ってきた。カエデに言われた武器セットと……「カエデさん、一応これも」といってリュックから、侵略的外来種展のカタログとパソコンを出した。【ありがとう】カエデが言った。「それとこれ」といって出したのは100円ショップで売っているディスプレイ用ひな壇だった。「お立ち台です。隊長になったからなんか話すでしょ。みんなに見えた方がいいかなっと。カエデさん小さめだし」【モリヒコ!】カエデが怒り、フミカが笑っている。そこへコノハが戻ってきた。【カエデさん フミカさんこれを】と言って出したのは、手入れした戦闘服。【そうだった!】コノハが扇子を開いて逆さまに立てた。二人はそそくさとセンスの陰に入って着替え始めた。なんかずるい。と思うミカとコノハさんいいな、と思うミトだった。
ムスビは持ってきた薬缶から、床から現れたドールハウスの台所の二つの水槽にそれぞれ注ぐ。「飲み水と風呂?」モリヒコが聴く。「飲み水と酒だ」といった。「風呂はここだ。水風呂だがね。」立ってなら20人は入れそうだと思った。 まもなく神遷転移が始まるだろう。
カエデとフミカは着替えを終えてミカと並んだ。ムスビが敷いたカーペットの本殿扉側にモリヒコガ持ってきたお立ち台を置くと4人はそこに立った。ムスビ、コノハ、モリヒコは磐座に向かって右側に正座していた。モリヒコはパソコンを起動させた。
【王国の対策はどうなの?】カエデが聴く。【穢れはもっといるらしい。】【やはり!】【私達と違う群れがいる。こっちは第3小隊をほぼ壊滅させたの。】【ミズは無事なの?】【何とか脱出したらしい、転移珠で。】【穢れの正体はオオナ族の間ではグリーンアノールという葦原中津国以外の国から来た「トカゲ」よ。実物の展示を見たから間違いない】カエデが言った。【何、現物をみたの?】【そう、透明な入れ物の中に飼われていたわ。】【ほら】と言ってミカが念写した動画をミカに送った。ミカが身震いするのがわかった。【今度は戦える。全部祓ってやるわ。】とカエデ。【祓う?全部!?】ミカの疑問にカエデが頷く。
テレパシーはムスビとモリヒコにも聞こえた。
「ミズ?」モリヒコがつぶやく。【第3位の王子よ】フミカが答えた。「ふーん。王室の子って大変なんだな。」とモリヒコ。【あんたは気楽でいいわね】カエデが返す。【すみません。こんなので。】笑いながらコノハが謝っていた。失礼なとおもった。
ミカが作戦を聴きたそうだったが、その時磐座が鈍く光り始めた。転移が始まった。
【あなたの部隊が来るわ!】ミカ少尉が言った。
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