第9話 カエデ少尉とフミカ曹長と作戦会議

動物園の企画展から戻るなり、モリヒコは二人を自分の部屋でおろす。二人は、ドールハウスに向かう。

 (大丈夫ですか)となんとなく試しに心で唱えてみたものの、まったく伝わらなかった。「大丈夫ですか」モリヒコが言う。【あー大丈夫です。ムスビ殿とコノハ殿は?】「社務所でしょう」【では少し休ませてもらおう。今日の話はまたあとで。とても良い体験でした。ありがとう】とカエデが言った。二人がドールハウスに近づく。ミニ結界石で姿が見えなくなった。ドールハウスの扉が開いて、そして閉まった。モリヒコはメールで無事戻ったことをムスビとコノハに伝えた。


 夕方。 モリヒコは、いくつかの試作武器を作っていた。

 夕食では、今日見たグリーンアノールが間違いなくあの「ケガレ」だったとカエデは言った。

 生息地は亜熱帯なのに、やはりこの異常気象が原因だろうかという話になった。

 それになぜスクナビコナを襲った時、穢れの気配をまとっていたのか?カエデ少尉から疑問が出ていた。

【まずあの素早さを止める必要がある。】カエデが悔しそうに話す。

【瞬く間に私達後衛まで、前衛を蹴散らしてやってきた。本当に数十秒くらい】フミカが状況を改めて話す。

 その攻撃力は「速さ」「顎」「爪」「群れ」につきるだろう。さらに、樹上移動をする。樹上も安全ではなかった。


 【素早さは「神圧」で止める事はできる。しかし確実に神圧を撃ち込まないとだめ。外せばやられる。】とカエデ。

 【穢れを事前に察知、把握することができない以上、罠を仕掛けるのも意味がない。】フミカがいう。

 「群れも厄介ですね。1匹を抑えても他の穢れが側面に回ったり、数が多ければ兵士の戦力が分散して各個撃破に合う。」モリヒコは独り言のように話す。

 【モリヒコの言うとおりだ。】カエデが言った。 本の受け売りだけどね。モリヒコは心でつぶやく。

 【少人数での対抗はやめるべきだ。だが、陣形を組んだ所にわざわざやってくるか?。】カエデが言う。

 「豪雨で、ソーラーパネルのある麓に土砂崩れがあったのは、ここの隣の霞山の尾根西側斜面です。今は復興作業中で人が麓から頂上までいます。」ムスビがいう。

 【王国はどのように行動するのだろうか。私の小隊の無念を晴らしたい。穢れを祓いたい。】カエデ少尉は左肩の傷をさすりながら無表情に言った。続けて 【今日の外出で、日常的行動は大丈夫と思えた。神力による治療をおえようと思う】。 あーあの掌を当ててるやつか。とモリヒコが思った。

 【明日からは体力トレーニングを開始します。モリヒコに協力を頼みたいのですが】カエデが言った。

「?」モリヒコが構える。だって何をあらたまっていうのか、不安ではないか。

「どんな協力も惜しみません。言ってください。モリヒコ、よいな!」とムスビ。

 【モリヒコ、頼みますよ。】とコノハ。

 【フミカさん、カエデさんの体調は十分注意してね。まだ怪我から5日しかたってませんよ】コノハが続ける。【ハイ!】フミカが答えた。

【モリヒコ、いいですね?】とコノハ。この場合「母」であり、ヤマト王国女王の妹であり、神社の権宮司である。

 「……はい」しかなかった。

【元気ないぞ!】とカエデ。あなたのせいです。とは言わなかった。


 夕食の後、モリヒコはアノールに対する戦闘案を話した。

 ポイントは、物理的ストップパワーがある武器。火薬不使用。スクナビコナ族の身長考慮した重さ、サイズ。

 モリヒコは3本の槍を見せた。

 槍は、超長槍で、1本は30センチメートル0.5g もう1本は23センチメートル0.3g 槍先端は針。刃はなく、「突き」専門の長尺槍だった。そして3本目は、先端に返しがついた槍。長さ10センチメートルとそれ用にモリヒコが作った専用投槍器のセット。

【なんだこれは?】【見たことがありません】カエデとフミカが漏らす。「長すぎて取り回しできない」「みるからに使いづらい」「とっさに使えない」「森の基本は白兵戦」「部隊が移動しずらい」二人のスクナビコナから出たこれら意見は前向きな質問という雰囲気があった。モリヒコも1つ1つの疑問に答えているうちに改良個所がわかる。問答を通して、戦術は具体化していった。

 もしかしたら勝てるかもしれない!カエデはそう思った。

 【問題は「穢れ」グリーンアノールとどこで戦うかだな。】カエデがいった。「そうなりますね」とモリヒコが答えた。「狼とかライオン、シャチみたいに、グリーンアノールが統一されているように狩りをするというのは不思議です。」モリヒコが言う。【ライオン?シャチ?狼ならわかる。確かにリーダーはいる。しかしアノールがそういう社会性を持つ狩猟をするとは思えないな】【もしかしたら、怨霊や邪がいるのかもしれないな。】カエデがいう。「怨霊 ?」ムスビが聞く。【精神感応体の「おん」「邪鬼」?ならば穢れたちを操れるのではないでしょうか?人間界でいうところの酒呑童子の怨霊のような】コノハがいう。「酒呑童子は滅ぼされ、その怨霊は封印された。千年前の平安時代中頃に。そのような怨霊退治と封印は枚挙に限りがない位ある。」ムスビがいった。フミカが続けていう。【地震や火山の噴火、山崩れによる封印石や磐座の崩壊。邪霊封印崩壊の連鎖】【怨霊を埋めた封印が次々と壊され封印が解かれたのではないかという学者説だな】【そうです。それにより葦原中津国の自然環境の異変がおこり、封印を施した神々の末裔やスクナビコナ族の生活圏が悪化していると。】フミカが答えた。

 夜の5人の話は夜が更けるまで続いた。

 コノハはその後も部屋で何やらスクナビコナの2人の服を作っていた。

 

 6日目、朝食後

 昨日の話からの兵器改良と試作増産に励むモリヒコ。

 体力回復のトレーニングのカエデとフミカ。

 ムスビとコノハは神社の神職に精を出した。

 二人のトレーニングは、モリヒコの6畳の部屋。所狭しと置いてある工作機械とプラモデルで実質は3畳位しか空きはない。

 やる気満々であった。コノハとムスビが全面協力をモリヒコに指示したこと。そして、朝食後に、コノハが二人用にあつらえたトレーニングシャツとトレーニングパンツ各2着、赤と青を出したこと。こっちの効果は超高かった。

 シューズは間に合わなかったらしく裸足だったが赤いトレーニング服のカエデ、青いトレーニング服のフミカは、軽くジャンプなどしている。それにしても器用な母だと思った。

 【モリヒコ、早速だが回復訓練をしたいと思う。】とカエデが一拍置く。【あそこの棚のケースに入っているものを貸してほしい。プラモデルとか言っていたやつだ。ちょうどいいサイズだ。】「いやあれは飾り物で、壊れやすいし、……」【ダメなのか?ムスビやコノハも協力せよと言ってたじゃない?】とカエデ【モリヒコも了承してました。】フミカもいう。

 嫌な予感は的中した。「それではこれでいですか?」とモリヒコが出来もいまいちのモデルを指すと、【それもだが、障害踏破が訓練の中心なので、すべて貸してもらえないだろうか?】とカエデが控えめな感じでテレパシーを送ってくる。が、表情はにこやか、笑顔じゃん!モリヒコは……あきらめた。

 そんなわけで1/35第2次世界大戦前後の「ドイツ軍2号戦車、3号戦車、4号戦車、タイガー、キングタイガー、ハーフトラック、88ミリ対戦車砲」「アメリカ軍シャーマン、ジープ」「イギリス軍ファイアフライ、クルセイダー」「日本軍チハ、95式軽装甲車」「ソビエト軍T34」などが、くっついたり少し離れたり、ひっくり返ったりしながら3畳に並ぶ事となった。プラモデル作りが趣味の1つだったモリヒコは半分ヤケだ。

 カエデとフミカは、プラモデルの戦車へ乗り主砲にぶら下がり、ハッチから中に入って別のハッチから出て、戦車から戦車に飛び移る障害物踏破を何往復も繰り返していた。 アンテナ曲げた!壊さないでほしいな~。ちらちらとカエデとフミカのトレーニングを見ながら、モリヒコは昨日の意見を取り入れた武器をせっせと作る。でも、小さな戦士たちの動きを追っていたら、なんだが楽しかった。壊れたら直せばいいしな。とも思った。


 その日は、カエデとフミカ、特にカエデは病み上がりのハードトレーニングをこなし、モリヒコの武器試作品を試して夕食をとるなり早々に就寝した。トレーニングシャツとパンツが楽だからと、それぞれ着替えたトレーニングシャツで、おそらく数秒で寝たに違いない。とモリヒコは思った。

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