第6話 カエデ少尉とコノハ殿

午後6時を回ったころ。ダイワ神社の宮司である巴家宅。

 モリヒコの部屋 壁はパソコンやら工作機械が並んでいる。そして彼の創ったものやプラモデルが大きな食器棚を占拠していた。本箱はアニメの本、漫画の本、大量な歴史書、ミリタリー関係マガジン。 彼的には学習書らしい。

 ムスビ、コノハ、モリヒコ以外の人間にみられるのを極力避けるように、カエデ少尉とフミカ看護兵は、例のドールハウスでモリヒコの部屋にいる。

 カエデはドールハウス1階の寝室に寝ていた。コノハとフミカ看護兵は交代で看病している。フミカは神の力なるものを使って。今はコノハがフミカ同様に正座して、掌をカエデの傷口に向けていた。なぜ母さんまで?手の磁力でも当ててるのと思ったが、今日あった信じられないことに興奮していて、聴きたいことはまだたくさんあって、同時に疲れていて寝る時間ではないのに睡魔に負けた。

 「フミカさん、フミカさん」コノハが静かに看護兵の名を呼ぶ。カエデのすぐ隣で仮眠していたフミカはすぐ起上がった。カエデがゆっくり瞼を開いた。意識が正常かが心配だ。「少尉 カエデ少尉っ。」フミカが名前を呼ぶ。テレパシーでなく肉声。とても小さい声だ。気配を察知してモリヒコも起き上がった。

「フミカ曹長…………治療してくれたのか……感謝する。」カエデはそういいながら、両肘を引き寄せ状態を起こそうとしたが、左は動かない。そして猛烈な痛みが襲う。フミカ曹長が急いで上半身を支える。カエデ少尉がコノハをみて、びっくりして身を曹長のほうへ寄せた。「大丈夫です。神官殿です。」フミカが答える。

 カエデは冷静さをとりもどしたようだ。どこの神社に転移したのか?まだ混乱する頭の中で、そう思いながら静かに顔を上げる。コノハがカエデをのぞき込むように少し腰を曲げて会釈した。「感謝します。ありがとう」カエデが話す。【フミカもな】カエデはテレパシーでフミカに感謝。意識は正常。左肩からの傷口は閉じているが完治には1週間以上、その間に体力も付けなければならないだろうと思った。【ミカや他のもの達は?】カエデが問いながらまた意識が遠のいていく。【……】カエデはゆっくり瞼を閉じて眠りに入った。

【すこし看病をお願いしますね】コノハが言った。……?。言ってない。テレパシーだ?。フミカ曹長も、モリヒコも一瞬思考が停止した。

 フミカ、モリヒコ、眠っているカエデも、コノハが今もスクナビコナ族であることをまだ知らない。


 ムスビは、ようやく神社の本日の確認を終え社務所を後にしていた。

 夜12時少し前。 スクナビコナが来訪したのはまだ今日の朝の話だ。

 カエデ少尉はどうなったであろうかと思いながら自宅に入る。コノハがモリヒコの部屋から出てくるところだった。「今少しだけ意識が戻られました。また眠ってしまわれましたが。」 そうか。とばかりにムスビは頷いた。

 コノハはムスビを居間に誘った。エアコンは効いていた。伏せていたコーヒーカップを2つ起こして、ポットから熱いコーヒーを入れる。

「どんなけがれだったのか。それと、ヤマトの方をモリヒコに合わせてしまったな。」とムスビ。

 「しかたありません。早くなっただけですわ。」此花このはがいう。「そうだな。話すことにしようか。彼がこの道を理解してくれればいいが。」ムスビはそういった。

「モリヒコを呼んできます。熱いコーヒーを飲みながらお話ししましょう。早い方がいいでしょう。」此花はきめると行動は速い。「わかった」ムスビが頷いた。

 午前2時 居間 ムスビとコノハとモリヒコの長い話が終わった。

「このだいわ神社は、高天原たかまがはらから降りたスクナビコナ族のヤマト王国と日本人オオナ族との接点を代々持つ神社で、スクナビコナ接点ある神社が日本に9社ある。」「母はスクナビコナ族ヤマト王国出身で、父母二人はヤマト王国の接点の管理をしている。」モリヒコが整理している。「だからこの神社には、スクナビコナ族を迎えられるいくつかの秘密の神具がある。あのドールハウスもそうなんだね。」「母さんが僕を生んだ20年前にお祝いに使者がきて以来の出会いだったと。」「でも母さんはどうして父さんと結婚したの?それに……」当然の疑問がたくさん湧く。此花このはが言う。「それはまた今度ゆっくり話すわ。大事なのは、私達はこの役目をモリヒコに継いでもらいたいと思っているという事。誰にも知られずに。モリヒコが伴侶をいただいたとしても、このことと縁のある方でなければ、完全秘匿しなければならないの。」ムスビが引き継ぐ。「君の人生にかかわることになってしまったが、私達は神の子孫の世界の入り口であるこの神社をついでほしい。この国を作った神たち、そして日本人達どちらにとってもかけがえのない日本の事だから。そして今回のように緊急な事がある。協力できないこともあるかもしれないができる限り困っていたら助けたい。」此花このはが言う。「でも、このことが知れてしまったら想像できるでしょ。報道関係や世界中も正しくこの歴史と共存を評価し守ることはできないと思う。利権争いや山狩りが起こるかもしれない。」「税金かかったりして?」とモリヒコ。

 「驚きすぎて、夢を見ている様です。整理する時間をください。」モリヒコが言った「彼女たちは僕の部屋にいてもらっていいの?」「そこが一番の隠れ場所だと思うから。」此花このはが言った。部屋を出ようとして、モリヒコは振り返った。「質問。母さんは、転移もできるの?」「できますよ。モリヒコも転移してみます?その前に小さくならないといけないけれど」といった。「いやいや とんっでもない」モリヒコはそういって部屋に戻った。


 翌朝7時、宮司のムスビ、権宮司此花コノハは、朝の神事から帰ってくると、朝食の準備をしてモリヒコの部屋に入ってきた。

 コノハは食事のセットと彼女の小さな宝石箱を持っていた。食事セットの箱(これもドールハウサイズだった。)からスープ皿を取り出すと、スープをそそぐ。「まずはフミカさんからどうぞ。看護側が倒れるわけにもいかないでしょ。」コノハが静かに話す。

 フミカが返す【ハイ。ありがとうございます】テレパシーだ。あえてのテレパシーかとモリヒコは思った。コノハはちょっと微笑みながら、オープンテレパシーで返す。 【どうぞ。温かいうちに】。

 フミカがなにか言おうとしたとき、カエデが目を覚ました。

【カエデさん、おはようございます。ご気分はいくらかよくなりましたか】コノハがテレパシーする。【ハイ、いくらか……!】カエデが驚いた顔でフミカを見る。そしてコノハを見る。

 【今は、オオナ族ですが、21年前に変化へんげし、ムスビに嫁ぎましたスクナビコナ族コノハと申します。オオナの声は大きいでしょうから、よろしければこのまま。ただわたくしの夫と息子のためオープンチャネルでお話しします。この方が秘密保持にもよろしいので。といっても精神感応は中級なんですの】

【……驚きました……。】カエデが言葉をテレパシーで返すまで、かなり時間があった。少尉は冷静な人なんだなと思った。慌てるそぶりが見られない。というより素が出ない。とモリヒコは分析した。【カエデさんもスープをどうぞ】コノハは微笑みながら、カエデにも小さな皿に野菜スープを出す。【小さいですから、冷めるのは早いです。どうぞ】身長が小さかった頃の経験者の母が言う。フミカがカエデにスプーンでスープを飲ませる。コノハは引き続き、柔らかくしたコメ粒とペースト状のおかずをさしだす。「オオナの世界では、小さくするのが大変で」とムスビが声を小さくしていう。

 そうか、食事は父さんが仕込んだんだな。器用だもんな。モリヒコは思った。カエデは今回すぐに眠ってしまうこともなかった。身体の動きはままならないが、意識はカエデらしいクールさを取り戻した。フミカが、ミカたちが報告の為王国に戻ったという話を伝えた。またミカから聞いた転移後の話、フミカたち第2分隊と合流した話、そして、「ミカ軍曹」がとっさにカエデ少尉をつかんで神遷で転移したことで二人は助かったということだった。感謝しかないな。と思った。そして小隊壊滅の責任を取らねばならない。たくさんの部下がなくなった。軍が許せば「穢れ」を退治したいが……。とにかく今は体力と傷の治療か。【フミカ。私はどれくらいで神遷転移できる身体になるのだろうか 】カエデが聴く。【焦って王国に行ってもまともに動けなければ何もできません。早くに王国があなたと話したいならば、向こうから連絡が来るでしょう。フミカさんが神治療を懸命に施しています。私もお手伝いしますから回復は速いと思いますよ。】コノハが焦りは禁物とばかり割って入る。【今は、まず怪我を直しましょう。フミカさん。お湯を用意しています。カエデさんの清拭せいしきをして差し上げたらどうでしょう。そのあとはあなたも。冷めるのが早いですので少し大きめにしました。】コノハはそういうとドールハウスのカエデの寝ているベットの部屋に大きめの器にお湯を入れたものと小さなバスタオルを置いた。多分ムスビがつくったタオルだ。とモリヒコは思った。

「コノハ……?」カエデはこの名前が引っ掛かる。でも王族のヤマトコノハ殿は出雲に行ったと聞いたし……。

 コノハは持ってきた宝石箱を開けた。オオナサイズの装飾品が入っているが、そこから2センチメートル位の勾玉まがたまを出して「御神ムスビの力を持ちてここに結界」とつぶやいた。瞬時に、カエデもフミカも姿を消した。【フミカ殿。少しわたくしのほうへ来ていただけますか?】【ハイ】フミカはドールハウスから30センチメートル位の所で姿を現した。【小さな結界ですが、この直径60センチメートル位の中は、目視できません。どうぞ安心してお体を拭いて差し上げてください。】といった。”安心してってなんだ?”モリヒコは思いつつ苦笑する。フミカは踵を返す。すぐに姿は見えなくなった。けれど音は聞こえる。便利なものだと思った。

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