第4話 ヤマト女王とミカ軍曹

だいわ神社から転移したミカ軍曹達3名は、スクナビコナのヤマト王国神社磐座に立っていた。ヤマト王国はスクナビコナ族の国の一つ。 人間から見れば小人の世界。

 しかし周りの自然は小さくなっているわけではない。本国の神社磐座いわくらは、大きな杉の木が覆っており、その樹洞じゅどうの中に磐座があった。だから磐座からは外が半分見える。いや、そういう環境にある岩を磐座としてまつり神の座へと昇華させ国を作ったのだ。いい風が入ってきている。ここはオオナ族にみられることがないため石室を介さず直接磐座に転移する。

 「キモチワリー」転移の影響にミカがつぶやく。磐座いわくらの洞の奥に警備隊がいる。

「偵察戦闘団第1小隊ミカ軍曹以下全5名、葦原中津国あしはらのなかつくにだいわ神社より3名神遷、帰還しました。至急女王ならびに軍団長にご報告の機会を希望します。」敬礼しながらミカが警備隊に伝える。警備隊長は3名を磐座の控室に案内し、自らは軍団長室へ向かう。

 偵察小隊は36名構成 5名とは。そういえば第3小隊も昨日緊急転移で帰還したが、生存者3名 91%の被害と漏れ聞いている。あまりの被害に箝口令かんこうれいが引かれている。

 15分後に、ヤマトタケミ女王と側近、軍団長タケミカタと総参謀長を前にミカと2名は直立していた。

 「報告を聴こう。」軍団長が口を開く。ミカは結界石消滅の現場確認後、謎の穢れ11体に遭遇したこと、カエデ小隊長の「転移指示」と負傷、「だいわ神社」での事を報告した。そして念写した「穢れ」をテレパシーでその場にいる全員へ送った。

「体長は20センチメートル位か、もう少し大きかったイメージです。緑色の体表で、形はトカゲでした。しかし、遭遇する前の気配では各個体が非常に暗い空間に覆われていました。」ミカが続ける。

「機敏で機動力も高い。確証はありませんが、我々を食料とする以上に何か執拗さも感じます。穢れ自体が持つ「恐怖」のような。」

 「念写から外見の特徴は出せるだろう。しかしそれが、ここでも群れでいたというのは厄介だ。」軍団長が言う。

「ここでも?」

「軍団長。第3小隊の情報も共有しよう。」女王がいう。軍団長はうなずき、第3小隊の91%を死に至らしめた「穢れ」の念写をミカ達に流した。

 それはミカたちの穢れと同じ。それが9体。

蘆原中津国あしはらのなかつくに原産ではない生き物 穢れですね。」女王の側近の一人がいう。

 あーそういえば士官学校の環境学の教授だ。側近の一人だったんだな。ミカは思った。側近は続ける。「しかし、殺戮のような行動は理解しがたい。」

「怨霊を考慮に入れるか?」と女王。「わかりません。昆虫を含め先の大雨洪水で食料は減っています。しかし、軍曹の言う黒い空間気配けはいは普通の生物は持ちえません。」側近が答える。

「監視員は樹上から哨戒しているけれど第1、第3小隊を襲った穢れがトカゲかヤモリ種か不明だが樹に登れる可能性は高い」参謀長が語る。

 「小隊を襲ったトカゲは発見されてはいないが、襲撃地点から考えれば、ここに現れても不思議はない距離だ。空間感知能力の高い兵を王国結界全周に配置します。なんでもよいから情報が必要です。」軍団長が話す。女王が頷く。

「だいわ神社の状況はどうであったか?」女王が聴く。

だいわ神社は、ヤマト王国最重要神社の1つ。そして、この王国に最も近く大きい神社。オオナ大きいという意味人間界では目立ってほしくないスクナビコナ族かなめの神社。ミカは、転移後の神社本殿や奥の院、神官たちの手厚い対応を詳しく報告した。

「カエデ少尉の状態は?」軍団長が聞く。「我々がここに戻る前は、出血と緊急転移により重体でした。もし彼女が助からなかったときは、フミカ看護兵とここへ神遷転移するよう指示しました。ここ数日それがなければ、迎えに行く機会をぜひ本官にいただきたいと考えます。」ミカがいう。

「考えておこう。」と軍団長。

 「ハッ!」ミカたちが敬礼を返す。

 数秒、沈黙の時間があった。女王が静かに言った。

「コノハは息災のようだな。よかった」ミカは「ん?」と小首をかしげる。

「宮司ムスビ殿の妻コノハは、私の妹だ。「変化」によるオオナ化で嫁いだのだよ。」

「えっ!……エー!」「……おばさま?」ミカが素っ頓狂な声を上げる。

「そうなるな」女王が笑った。

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