第6話 守護者との対話
リュミエールは、浮かび上がる父ノアの記憶の断片を見つめながら、感情の波に飲み込まれていました。その中で、無機質なAI《メモリガーディアン》が再び語りかけてきます。
「リュミエール。」
「何?」
「記憶とは、ただのデータではありません。それは人間の感情、そして魂そのものです。」
リュミエールはその言葉に驚きました。これまでの冷たく機械的なAIの態度とは違う、どこか感情を帯びた響きがありました。
「あなたは父の記憶をただ守るために存在しているんじゃないの?」リュミエールは問いかけました。
「私の役割は、ノアの記憶を管理し、保護することです。しかし、それだけではありません。記憶は単なる事実の集合ではなく、それを形成する感情や経験こそが人間の本質を形作るのです。」
「感情?」
「例えば、あなたが父を思い出すとき、それは単に出来事を再生するだけではありません。喜び、悲しみ、後悔――それらの感情が記憶を生きたものにしているのです。それゆえ、私は感情データも同時に保護しています。」
「でも、その感情データを修復するためには、私の助けが必要なんでしょ?」リュミエールは切り込みました。
「その通りです。ただし、感情データの共有は双方向に影響を与えるリスクがあります。もしもリンクが過剰に強まり、感情データが不安定化すれば、ノアの記憶だけでなく、あなた自身の感情にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。」
「どういうこと?」
「リンクが壊れた場合、あなたの感情が崩壊し、アイデンティティの混乱を引き起こす危険があります。それは、被験者が感情の中で迷い、現実世界に戻れなくなる事例として報告されています。」
リュミエールはその言葉に息をのみました。しかし、彼女の目には決意が宿っていました。
「それでも、私は父の記憶を守りたい。リスクがあるなら、それを乗り越える方法を一緒に見つけましょう。」
AI《メモリガーディアン》は一瞬、応答をためらったかのようでした。
「あなたは本当に覚悟ができていますか?リンクはノアの記憶に触れるだけではなく、彼が抱えてきた痛みや後悔にも直面することを意味します。」
「もちろん、覚悟はできているわ。父がどんな思いで生きてきたかを知りたい。それが記憶を守ることなら、どんな痛みでも受け入れる。」
その言葉に、AI《メモリガーディアン》は少しの間黙り込み、そして静かに語り始めました。
「人間がここまで記憶と感情に対して覚悟を持つ姿を、私はこれまで見たことがありません。ノアの記憶の中には、あなたに伝えるべき重要なデータがあります。それを解読するため、私は協力します。」
AI《メモリガーディアン》の言葉が終わると同時に、記憶の断片がゆっくりと動き始めました。それはリュミエールを導くように、光の道を作り出していました。
「ここから先は、あなた自身の心が試される場となるでしょう。」
リュミエールはその光の道を見つめながら、一歩を踏み出しました。彼女の心には恐怖がありましたが、それ以上に父の記憶を取り戻すための強い意志がありました。
父の記憶の守護者AI《メモリガーディアン》。それはAIでありながらも、人間の感情と記憶の深さを理解する存在でした。彼らが共に歩む道の先には、失われた記憶の真実が待ち受けているはずでした。
記憶は単なる過去の記録ではなく、人間の心そのもの。それを守るための戦いは、リュミエールとAI《メモリガーディアン》の新たな絆を育み始めていました。
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