第4話 メモリーリンクの秘密
白い研究室の中で、エレナ博士はリュミエールをじっと見つめていました。その表情には迷いがありましたが、彼女の声は穏やかで、しかし確固たるものがありました。
「リュミエール、ノアさんの記憶を修復するには、彼の感情に直接触れる必要があるわ。そのために、あなたのインプラントを使って感情データをリンクさせるしかないの。」
リュミエールは博士の言葉に戸惑いを隠せませんでした。
「感情をリンクさせるって、どういうこと?」
エレナ博士はスクリーンにデータを映し出しながら説明しました。
「メモリーリンク技術では、記憶だけでなく感情も共有することができるの。感情は記憶と密接に結びついていて、それをリンクすることで、ノアさんの壊れた記憶の断片を補える可能性があるわ。」
リュミエールはその説明に理解を示しましたが、不安が頭をよぎります。
「でも、それって私の感情もお父さんに伝わるってこと?」
博士は少し頷きました。
「その通り。そして逆に、ノアさんの感情もあなたに伝わることになる。感情を共有することは記憶を補う助けになるけれど、同時にリスクもあるの。」
リュミエールがさらに詳しく聞こうとすると、エレナ博士の助手が話に加わりました。
「過去に何度か同じ技術を試したことがあります。でも、感情のリンクによって被験者の一部は、自分が誰なのかわからなくなってしまいました。」
「アイデンティティを失う?」
リュミエールはその言葉に驚き、声を上げました。
博士はうなずきながら、彼女の目を真剣に見つめました。
「感情の共有は、心の深い部分に触れる行為。時には、自分の感情と相手の感情が混ざり合い、自分を見失ってしまうことがあるの。」
「でも、それをしないとお父さんの記憶は取り戻せないの?」
リュミエールの声には、焦りと迷いが入り混じっていました。
博士は静かに答えました。
「リュミエール、これはあなたにとっても挑戦になるわ。ノアさんの感情を受け止めることで、彼の記憶をつなぎ合わせる手助けができるかもしれない。でも、感情を共有するということは、それだけ強い覚悟が必要なの。」
リュミエールは深く息を吸い、目を閉じました。父ノアの笑顔、そして彼が自分を忘れてしまった悲しい姿が脳裏に浮かびます。
「私がやります。お父さんの記憶を取り戻せるなら、どんなリスクだって乗り越えてみせます。」
博士と助手は彼女の決意を聞き、静かにうなずきました。
感情リンクの装置が起動され、リュミエールのインプラントとノアのインプラントが接続されました。装置からは低い振動音が響き、室内の空気が張り詰めます。
「リンク開始まで10秒。」
博士が操作パネルに触れながら声をかけます。
リュミエールは少し緊張しながらも、父のために自分ができることを信じていました。そしてリンクが始まると、彼女はまるで父ノアの心の中に入り込むような感覚に包まれました。
リンクが進む中で、リュミエールは父の感情を感じ取りました。それは温かな愛情とともに、深い後悔や孤独感も含まれていました。ノアが記憶の空白を抱えながら、どれだけ苦しんできたのかが手に取るようにわかったのです。
「お父さん、こんなに辛かったんだ…」
リュミエールの心には、父への思いが溢れました。だが同時に、自分自身の感情が揺さぶられるのを感じました。
リンクが終了すると、彼女は深く息を吐き、目を開けました。
「お父さんの記憶の中で、何か光が見えた気がする…!」
博士は満足げに頷きながら言いました。
「リュミエール、感情のリンクは成功したわ。この次のステップで、記憶の空白に触れる準備ができるわね。」
リュミエールは不安と希望が入り混じる中で、さらに父ノアを救う方法を模索する覚悟を固めました。
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