世、妖(あやかし)おらず ー梵鐘波ー

銀満ノ錦平

梵鐘波


私の地元には古びた神社がある。


鳥居は潮の影響で錆びており、赤黒色に参道に敷かれている石は散り散りに、狛犬らしき像も所々欠けていて…そして本殿はもう外から中が見えるほどボロボロであった。


誰を祀ったかもわからないこの神社に私は良く出向く。


海が近く、波の音が聴きやすいのだ。


他の人々はもう一つの新しく建築された綺麗な神社の方に向かう。


あの人達は、神社の趣きや歴史より新しさや神聖な場所に行ったという自分自身に酔っているんだと思う。


…私も変わらない。


神社は、神聖なものではあるがそこに古いも新しいもない。


その次代に生きている人がそこを拝める場所と認知したらそれはもうどの時代に出来たものだろうと神聖で崇拝されるべきものである。


私は新しいものが苦手…それだけである。


私は、目を瞑りながら聴く波の音が好き。


丁度よい場所がここだったという話。


偶々、聴きやすい場所が神社だったので古い新しいが何やかんやは後々の言い訳というか後付け…自分に何か特別である理由付けが欲しかったんだと思う。


良い音だ。


ざぁ ざぁ ざぁ


もう一つ私がここを好きな理由がある。


時間だ。


深夜11時だ。


ごーん ごーん ごーん


鐘の音だ。


あの新しい神社から聴こえる除夜の鐘だ。


大勢の人々の音が掻き消されるほどの大きな除夜の鐘…ここは鐘の音も丁度よく聴こえる。


そして波の音と合わさり、何とも言葉に出来ない心地良い音が耳に溶け込んで脳が癒やされていくのを凄く感じる。


気持ち良い。


溶け込む。


この波と鐘の音に。


月が出ている。


こんなボロボロの神社なのに影を見たらまるでこの前出来たような真新しい神社に見えてくる。


月と影による幻想。


多分…今だけ私は、この古びた神社の生前の姿を波と鐘の音共に眺めている。


そしてふと瞬きをした。


ごーーーーん


鐘の音が今までと違う大きさの音を出した。


新しい神社の方向からではない。


海の方向からだった。


あの方向からは、鐘の音はでない。


ごーーーーん ざぁぁぁぁ…


先程の様に鐘の音と波が別方向から聴こえてる感じではなかった。


波から鐘の音が聴こえてきた。


ごーーーーん ざぁぁぁぁ ごーーーーん ざぁぁぁぁ…


底深くから聴こえるような鐘の音に私が驚いたのは一瞬だけでその後はずっと聴き惚れていた。


その音が聴こえる間だけ影だけが生きていたこの神社の姿がほんとに昔の、出来たばかりで人々が潤い、ここの神様を祭り憂い、そして崇めていた人々が見えていた。


私はその月明かりに照らされ、音の魅惑に惹かれて脳が見せた幻覚を多分楽しそうに見ていた。


ごーん ごーん ごーん  


遠くの新しい神社から聴こえる音が響いた。


それと共に先程まで見えていたこの神社の生前の姿と風景が消えた。


気がついたら0時になっていた。


私は、ここを離れるとともに古く私達を波の音共に望んでいた神社に向かって口を開く。


あけましておめでとう、今年もよろしく。


波の音と鐘の音が答えてくれた様に聴こえた。














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